01:フェイカー
「ほう……」
世界での第一声だった。
「夜など……何処も変わらないと思っていたが……この世界の月は一つなのだな」
この世界の月の大きさに驚きを覚えながらも、色とりどりの光に照らされた夜の世界を見下ろす
「悪くない、寧ろ有りだな」
垂直に立ち並ぶ山々、その一つの頂上に俺は居た。
いや、山との表現は間違いだと直ぐに気づく。
山々は内側から光を放ち中が透けて見える。そこには人影が見えた。
自分の元居た世界を思い浮かべて、これらはこの世界の建造物なのだとの結論に至る。 つまりは、自分の居た世界よりも文明レベルが高いとの事なのだろう。
ならば、俺の知らない面白いもので溢れる世界で有るはずだ。
「さて、先ずは情報だな……」
俺の居た世界の基準で考えるならば、今の俺にはとてつもない『能力』がある。だからと言って未知の文明世界の知識のないままでは先行き不安だ。先ずはこの点をハッキリさせなければならない。
1:この能力はこの世界でも『とてつもない』モノなのか?
自身の力がこの世界に置いて、どの位に位置するのかの把握。
上位であるならば恐れることは無い。好き勝手出来る。金も権力もそして女も自由にできる理想の世界だ。
中位、下位ならばうまく立ち回らなければ前回同様に人生の途中退場となりそうだ。それだけは避ける。
2:この世界の経済の在り方。金の稼ぎ方。
モンスターのドロップ品や価値。物々交換や通貨。
今の俺が上位存在であるならば問題無い。奪えばいいのだ。
しかし、中位以下である場合は必要となる。
3:常識
これも中位以下である場合には必要だ。間違った常識からのトラブルは避けた方が良い。
「何にせよ心躍るぜ!」
この高揚感は悪くない。俺が望んでいたモノだ。
「先ずは、冒険者ギルドでも探してみるか?」
考えは纏まった。
「残念ね、この世界にはそんなもの無いわよ」
背後から女の声がした。
いつからそこに居たのか、いや……居たなら俺なら気づけるはずだ。
「!!」
振り向いた俺の目には真っ白なドレスの女。女と表現するにはその顔立ちは幼さを残している。整った顔立ちではあるが異国の女故にそう見えただけかもしれない。
身に着けたドレスは上質のモノだ。元が庶民の俺からはその価値は見当もつかない。
つまりは、少なくともこの世界の貴族……そう判断した。
「む……?」
(さて、ここの第一声はどうする?)
少女の……としておくが、少女の表情は笑顔だ。
更に相手がこの世界の貴族ならば、友好的に接しておいて間違いはない。貴族なら尚更一人である訳も無く、供の者なり護衛が居る可能性もある。
色々な情報も手に入るだろう。
それに……。
俺は少女を上から下まで値踏みする。
(……後で十分に楽しめそうだしな。顔立ちは幼いが、肉付きはいい)
そう決断すると、行動に移る。
ここは友好的に……一択しかないだろう。
「初めまして、俺は」
言葉は続かなかった。空気の流れる音がヒューヒューと口から出る。
視界が急に落ちる。
言葉通りだ。
地面が顔面に迫る。
そしてそのまま頭を打ち付けた。
視界が回転する。
これも言葉の意味そのままだ。
回転を止め揺れる視界越しに・・・俺自身の身体があった。
見上げていた。
そしてゆっくりと……。
首のない俺の身体が俺の目の前に倒れて来る。
それが転移者だった俺の最後に見た光景だった。
何が?とも何故?とも感じずに少女の言葉だけが耳に残った。
「転移生活10分間の人生、お疲れ様。今度はちゃんと成仏してよね。それにしても今月は『洪水』が多いわね、さて他はどうなっているかしら?」
「まぁ、あちらなら心配ないでしょう。面倒はごめんです……って何を?」
「ん?決まってるでしょ?ドロップ品の回収よ」
「私は貴女のそういうところは好きになれません!」
「そう?あ~ハズレだわ……」
こうして俺のワクワク転生生活は幕を閉じた。