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第二のアルジア星計画

作者: 羽連

記録:二ーナ実験責任者兼研究所長


 この記録は、《第二のアルジア星》計画の経過を記すものである。同志諸君は観測部より送られてきたデータ、及び個人での記録を残すこと。これはシャガルマータ暦元年に起こったシャガルマータ現象の再現を目的とするもののである。今回の実験が我が国、そして我が実験所に任されたことは素晴らしい名誉であり、不備や失敗は人類の滅亡にも繋がる。同志諸君は努々その事を忘れないように。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験0日目


 本日、《第二のアルジア星》計画が始動した。これは人類の最も重要で偉大な実験の一つとして教典に記される事だろう。私達は子供達に歴史を伝える為、この記録を明確かつ簡潔に纏めなければならない。そうでなければ、後の人々は私達の作った恥を後世に使えなければならないのだから。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験2日目


 予定より大幅に遅れが生じたが、仮想宇宙にアルジア星が誕生した。生まれて間もないアルジア星はその外殻を岩石と鉄と思われる金属から構成されている。この事は教典に書かれた事項を塗り替え、また一歩神の偉大な歴史を蘇らせることに成功した。だが、計画はまだ始まったばかりだ。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験38日目


 アルジア星に植物が芽吹いた。これは経典に記されている通りだが、その植物はなんと赤色だったのである。教典には植物は最初から青色だったとあったが、この誤りは早急に訂正された。また一つ私達は歴史の誤りを直す事が出来た。神はさぞ喜ばれていることだろう。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験113日目


 水中に魚類と思われる生物を観測した。大きさはまだ小さいが、これがアルジア星最古の生物なのだ。私達はその小さな命に愛しさと共に神の恩愛を感じた。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験118日目


 魚類が急速な成長を見せた。最大の個体は人間の体よりも大きい。観測所によればその大きさは90メートル。あそこの機材は管理が杜撰なのであまり信用が出来ないが、それでも誤差は10数だろう。またその造形はいまの姿とは似つかず、非常に不細工なものだ。魚類はあれから遺伝子レベルでの洗練と自然の淘汰を繰り返し、今の姿に変わったのだろう。素晴らしい。ただあの巨大な生物が絶滅してしまった事実は悲しまなければならないだろう。




記録:二ーナ実験責任者兼研究所長 実験120日目


 誕生した魚類のうち一匹の個体が上陸を試みた。その個体は干からびて死んでしまったが、これは生物全体の大きな一歩だ。誰かがあの個体の屍を超えて陸へ、やがて空へ、あるいは今の姿へと移っていくのだろう。あの魚類の中に、今の私たちの祖先がいるのかもしれない。教典には半魚人として陸へ移ったとあったが、これは修正された。私としても、あれは*修正済み*




記録:ラナ実験責任者兼実験所長代理 実験122日目


 ニルビア実験長が《第二のアルジア星》計画の反対派に殺害された為、副実験長が記録を代わります。

 《第二のアルジア星》計画の成果によって教典は何度も書き直されましたが、その事によって教会への不信感が募り、また危機感を覚えた教会が《第二のアルジア星》計画を即刻中止するよう言ってきました。国の一大プロジェクトである為止めるつもりはありませんが、死人が増えてどうしようもなくなった時は政府に計画の中止を進言してみます。




記録:カイタエ 168日目


 ラナ実験所副長が国家反逆罪で処刑された為担当を変わる。

 政府が教会に倒され、計画の中止が決まった。この人工宇宙も破壊するように言われたが、とんでもない! こんなに面白い計画をわざわざ無に帰すなど愚の骨頂だ! 書類上では破壊した事にしておくが、人工宇宙は地下のシェルターに置いておく。私が生きている間は私が記録するが、もし死んだらこれを見た者が記録してくれ。どんな事でもいいから。




記録:カイタエ 192日目


 人類らしきものが見えたが、どうやら猿だったようだ。しばらく出張でいないうちに、鳥類まで生まれたらしい。人類はいつ頃生まれるのだろう? 記録にあった巨大な魚は滅んでいた。あの生物は草食だったようだが、見れば海底の藻は食い尽くされていた。その為、時を同じくして草食魚類は殆ど絶滅したらしい。ただその中のいくつかは肉食へと進化したようだ。非常に興味深い。




記録:カイタエ 195日目


 猿の一部が地上へ降りたようだが、その中の一匹が興味深い行動を始めた。最初は木の枝で遊んでいるようにしか見えなかったが、どうも石に擦り付けて尖らせようとしているらしい。まさかあれが人類の前身か? 観測を続けよう。




記録:カイタエ 197日目


 道具を使った猿が、火を使い始めた! 山火事で燃え残った日で魚を焼いて食べたのだ! 違う猿は尖らせた石で木の皮を剥いで食べていた。人類の出現もそう遠くないだろう。




記録:カイタエ 204日目


 道具を使う猿のうち一部が集団生活を始めた。毛も薄くなってきて、猿の面影もあるが人間と見て間違いない。……この事が知れたら教会に殺されるだろうな。




記録:カイタエ 228日目


 教会にシェルターがバレた。だがこの装置を明け渡すわけにはいかない。装置には装甲を付け、私はシェルターごと心中すると決めた。いくら時代が進もうと、人間の本質は知識欲求なのだ。科学は死なない。




ライギレス 614日目


 この装置はなんだ? 工事してたらこれが出てきた。ツルハシでぶち破っちまったがまだ動いてる。一緒にあった化石みたいな機械の記録には、色々書いてあった。どうもこのシャガルマータ現象ってやつは、この実験のあった少し前に、宇宙で突如馬鹿でかい星が出現して消えた、っていうのらしい。その星は細長かったらしいが……そんな話考えられるか? 単に技術が足りなくて観測できなかったか、彗星を見誤ったんだろう。とりあえずこれはここに置いておこう。処理が面倒だし、これがあっちゃ建物なんか建てられねぇ。あとは物好きがなんとかしてくれ。




記録:      899日目


 馬鹿か? ライギレスって奴は馬鹿なのか? 何故気づかない?

 人工宇宙の中では人間が第二のアルジア星計画を始めている。いや、第二なんかじゃない。これは何個目のアルジア星だ? 神は人類を玩具としか思ってないのか?

 運命の日は恐らく1343日目。その日か、あるいはその日以降にこれを見つけた人は、真実を見届けてくれ。




記録:匿名 1343日目


 俺がこれを、しかも今日見つけたのは運命だろう。

 人工宇宙の中で、地下シェルターに隠されたであろうもう一つの人工宇宙が掘り返されようとしている。今男が地下へ潜っていった。あいつの名前はライギレスで、多分人工宇宙に穴を開けるだろう。そしてもう少ししたら人工宇宙の中の人工宇宙の人間が、また人工宇宙を作るんだ。

 この記録はここに置いておく。この場所は永遠に見つからないようにしよう。これは知る必要のない事だ。

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