大都市アルキア
「あ」
腹部を刺されていた。
短剣の根本まで深く突き刺さっている。
刺したのは紛れもなくたった今助けた女性だ。
俺はとっさに刺さった短剣を抜き回復魔法を使って傷を一瞬で癒した。
刺されてから回復するまでの時間は約1秒。
この1秒間で様々な憶測が頭を駆け抜けた。
まずなぜ俺は刺された。
恐怖のあまり俺も敵と認識してしまったのか。
実は襲われてるように見えただけだったのか。
そもそも俺の常識じゃ考えられないような理由があるのか。
「ひっ…、今の傷を…一瞬で……?化け物め…!」
必死に頭を整理してると女性は俺に対しそう言い放ち走っていってしまった。
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。なんで………
行っちゃった…。」
なんだったんだろう。
彼女の形相から察するに対話には応じてくれなさそうだったので後を追うことはしなかった。
俺の頭はまだ少し混乱していた。
すぐに治せるとは言え、まさか村を出て初めて出会った人に刺されるとは。
そう思うと今になって恐怖心が芽生えてきた。
思えば自分の死を意識したのは生まれて初めてだ。
「はぁ…。こんなこともあるのか…。」
助けた相手に殺されかける。
俺はそれをポジティブに考えることにした。
今の出来事は警告なんだ。
この世界で生き残っていくための。
俺はとにかく都市アルキアへ向かった。
そこはこの国で1番大きな都市だ。
1週間森の中で野宿を続けやっとアルキアを囲む外壁が見える丘に出た。
「あ〜〜〜長かったぁ〜〜〜〜〜!」
ちなみにここに着くまでに44回賊に襲われた。
もちろん全員殺さない程度に成敗したが、もし俺にチート級の能力が備わっていなかったらと思うとこれは相当恐ろしいことである。
まあ考え事は後にして、さっさとアルキアの中へ入ろう。
ちゃんとした料理を食べたいしシャワーも浴びたいしフカフカのベッドに思いきり飛び込みたい。
外壁の大門からウキウキしながら中へ入ろうとすると門に立つ2人の衛兵に止められた。
「通行許可証を出せ。」
「許可証?すいません、僕はそんな物持ってないです。
だって街に入るだけですよね?」
「許可証がないなら金を出せ。10万イムだ。」
「じゅ、10万イム!?」
この世界の通貨はイムといって、前世の円とほぼ同じで1イム=1円くらいだ。
俺は村を出る時にナイルから5万イムをもらっていた。
発展してる都市だから物価が高いのだろうか。
なんにせよ金は足りない。
「すいません。5万イムしかないです。これで何とかなりませんか。」
「だめだ。10万イムを支払えないのならここは通さない。とっとと帰れ。」
「そんな……。」
その時ふと隣にいたもう1人の衛兵を見ると顔がにやけている。
なんて酷い態度、嫌な奴らだ。
通るだけでそんな大金が必要だなんてそれ自体おかしいのに、それにしてももっと優しく対応できないのか。
きっとこの門の利用者全員から嫌われてるに違いない。
とにかく、アルキアにはどうしても入りたい。
人口が多ければ多いほど困っている人も多いはずだ。
俺はそんな人たちを助けたい。
もし都市を仕切ってる重役が腐ってると言うなら喜んで倒しに行くつもりだ。
何か中に入る方法はないかと門から少し離れたところで考えていると、
「おいおいおいおい、なんだそりゃ。」