神童
前世で読んでいた漫画で見覚えがある光景。
ああ、これは俺が化け物扱いされるパターンか。
…嫌だ。絶対に嫌だ。
魔法を使っただけで幸せが日々が終わるなんて。
「イ、イーコ…。お前は……………………。」
極度の緊張で固まることしかできない。
「お前は……………………大天才だ!!!!!」
「は?」
「イーコがアクリアを唱えた直後にこの雨!偶然じゃありえない!雨の元は雲じゃなく巨大な水の塊だからな。空中に水を出すのは見たことあるがこんなサイズはありえない!なんて子だ!!」
そこにはいつもと変わらない心優しい父ナイルの姿があった。
「はぁ〜〜〜〜〜」
俺は安堵感のあまり空気が抜けたかのように床に座り込んだ。
「な、なんだ!?どうした?魔力の使い過ぎか?そりゃこんな量の水を生み出したんだから当たり前か。母さーん!家にあるポーション全部持ってきてくれー!」
「ぼ、僕は大丈夫だよ!あの…ちゃんと魔法を使えて安心しただけだから。」
「ほんとか?これは使えたってレベルじゃないけどな!ハハハハッ!」
安心したことは嘘じゃない。ただその安心は魔法を使えたことではなく、我が父が今まで通りの愛で受け入れてくれたことから来たものである。
人は未知の力の前に恐怖する。
これは自然の摂理だ。
俺はこの家で育ったことを改めて誇りに思う。
そしてこの時、転生前の自分とはまるで違う人間になっていることに気付いた。
もちろん外見や魔法のことではない。
考え方、価値観、性格そのものが変わっている。
不思議なものだ。
転生したのだから中身は変わらないはずなのに、生活する環境が変わると人間はここまで変われるのか。
これも全て父ナイルと母マリアのおかげだろう。
前世でゲーム中にしょっちゅう腹を立てて台パンしてたような男にこれ以上ない愛情を注いでくれた。
ナイルとマリアからすれば俺が転生者だなんて知るよしもないのだが、それでも俺の心は感謝の気持ちで溢れていた。
「ありがとうございます。」
俺は意図せずそう呟いていた。
そういえば前世が終わる瞬間もこんな感じで勝手に声に出てたな。
クセは変わってないらしい。