俺の魔法は
転生から5年の時が経った。
俺はまるで夢の中にいるかのように楽しく充実した毎日を送っていた。
父の名はナイル、母の名はマリア、そして2人の子供である俺イーコ。
生まれ育ったこの家は決して裕福ではないが、村のみんなはとても親切だし、何よりこんなに素晴らしい両親と過ごす日々は幸せと言うほか無かった。
そして今日からは待ちに待った父ナイルの授業が始まる。
「よし!まずは魔法の練習だ!準備はできたか?」
「うん!ばっちりだよ!!」
今までは両親から溺愛されるあまり、危ないからという理由で魔法の使い方や魔法に関する本は俺から遠ざけられてきた。
しかし俺はもう5歳。
前世では22歳の立派な成人男性だったがワクワクが抑えられない。
俺は今日から魔法が使えるんだ。
「じゃあ最初は水の魔法アクリアからやるぞ。
父さんをよく見とくんだ。まずは何となくでいい、手に力を送り込むイメージをする。そして次はその手からこの器の中に水を生み出す姿をイメージ。そこまでできたら後は……【アクリア】!!」
机の上に乗ったサラダボウルほどの器が水でいっぱいになった。
「まあこんなもんだな。よし、イーコ!やってみろ!出来る限り具体的にイメージするのがコツだぞ。初めてだから一滴でも水を生み出せれば大成功だ!」
これはたぶんナイルの嘘だ。俺が失敗した時に傷つかないよう成功のハードルを相当下げている。この5年間で似たようなことは何度もあった。
しかし休日返上で授業をしてくれてるんだから少しでもいい結果を出したい。
それが親孝行と言うものだろう。
イメージするんだ。とにかく大量の水を。大量の水…。
「……………………【アクリア】!!!!」
………………
器の中は一滴の水すら無く空っぽだった。
「ま、まぁ初めてなんだから仕方ないさ!父さんも最初は全然うまくいかなくてよく泣いてたんだぞ。ハハハハハ!」
期待とはかけ離れた結果に悔しいやら申し訳ないやら恥ずかしいやらの感情が一気にこみ上げてくる。
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
「「え?」」
外は気持ちのいい快晴なのに急に大雨が降り出したのだ。
ナイルと共に急いで窓を開け空を見上げる。
「なんだありゃ…」
美しい青空と我が家の間には透き通ったどデカい物体が浮かんでいた。
村全体を覆うほどの大きさ、そこから雨が発生しているように見える。
水だ。
親子そろって異様な光景に唖然としていると、ナイルが我に帰ったように慌てて質問してきた。
「イーコ!!これはお前がやったのか!?アクリアを詠唱する直前になにを思い浮かべた!?!?」
俺は大量の水をイメージしただけ…のはず。
だが言われてみれば、水から連想して最後に大雨を想像したような気もする。
「僕……かもしれない………ハハ……」
ナイルは目に見えて困惑していた。
そんな父の姿を見るととてつもない不安が襲ってきた。
「イ、イーコ…。お前は…………………。」