日常からの解放
小鳥のさえずり、顔をなでるような穏やかな風。
「心地いいな…俺は天国に来れたのか…」
目を瞑ったままだったが、あまりの安らかな雰囲気に一瞬で幸福感に満たされた。
俺はついさっき隕石で死んだんだ。
死んだ直後にこんな優しくて静かなおもてなしをされれば誰だって天国だと思うだろう。
前世では良い行いをした記憶はない、かと言って特段悪さをしでかしたこともない。
とにかく地獄でなくてよかった。
ホッとしていると、
「イーコの寝顔は天使みたいね…」
「そうだな…この子は何としても幸せにするぞ!」
「ちょっと…!声が大きい!イーコが起きちゃうじゃない……!」
その声を聞くと初めて俺は目を開けた。
「(ん…なんだ?だれだ……?)」
「ほらもう、起きちゃったじゃない」
「すまん、気合が入り過ぎた」
「まだおねんねしててもいいんですよ、イーコ」
「あ…う……(いや、俺は…)」
舌がうまく回らずしゃべれない。
イーコとは俺のことだろうか。
「はいはい抱っこしましょうねー」
「こんなにかわいい子の親になれるなんて、俺達は世界で1番の幸せ者だな!」
「そうね。でも私達が1番じゃだめよ。この子を1番にしないとね。」
「はははっ、そうだな。よし!イーコを見て元気100倍だ!仕事に行ってくる!」
「いってらっしゃい!」
なんだこの眩しい夫婦は。
このイーコって赤ちゃんは並々ならぬ愛情を注がれてるみたいだな。
まあ俺のことみたいなんだけど。
俺は状況を頭の中で整理した。
さっき隕石で俺は死んだ。
そして気が付いたら天国にいた。
と思っていたらイーコという名の赤ん坊になっていた。
「(つまりこれは……転生ってやつか…!)」
前世の記憶がはっきり残っているということは、普通に生まれ変わったというわけではないだろう。
転生した、ということに自分でも驚くほどワクワクしていた。
なぜ転生したのか、なぜこのイーコという子になったのか、なにか背負うべき命運がこの先待っているのか、色々な疑問が脳裏をよぎったが、正直そこまで気にならなかった。
あの退屈だった毎日が終わった。
それだけで俺の目は輝いていた。