王子様がやってきました
艶やかな黒髪と同色の美しい黒い瞳。
整った風貌の、だが、何処か朴念仁そうな男だった。
その王子は扉を開け、眠る私の姿を見たが、そのまま引き返そうとする。
「待てーっ」
と思わず、小悪魔とふたり叫んでいた。
今度のイバラは、ベッドではなく、扉を覆う。
行く手を阻まれたその王子は、
「……む。
出て行けないではないか。
なにかの罠だろうか」
などと呟いている。
王子は仕方なく、戻ってきながら、ぽそりともらす。
「……そろそろ親がうるさく言いはじめたから、眠っている姫とやらを形だけでも妻にと思ったんだが」
この王子、ロクでもねー!
と思う私の前で、王子はベッドに眠る私をしげしげと見つめ、忌憚なき意見を言う。
「すごい美女だときいていたが、そうでもないな」
「待てっ。
殺すなー!
俺とお前を此処から救い出してくれる救世主かもしれない男をっ!」
と小悪魔は叫び、燭台で王子を撲殺しそうになった私を止めた。
気配を感じたのか、王子がこちらを振り向き、
「……燭台が浮いていた気がするが。
気のせいか」
と呟いていた。
「鋭い男だな」
と小悪魔は感心したように頷いていたが。
いやいや。
すぐ側に居る女の生き霊と小悪魔に気づいてない時点で、なにも鋭くない、と私は思っていた。
私のベッドに腰掛け、王子は再び、私の顔を眺めはじめる。
「15と聞いていたが。
ずいぶん幼い感じだな。
あと数年もすれば噂通りの美女になったかもしれないが。
……眠ったままなんだから、このまま幼い顔で幼児体型なんだろうな」
と呟く王子の後ろで私は叫んだ。
「起こしてっ。
私を起こして、早くっ!
今すぐ、すごい美女になって見返すからっ!」
と小悪魔を揺する。
だが、
「待て待て待て」
と小悪魔は言い、そのまま、王子を観察しはじめる。
「でもそうだな。
人は悪くなさそうだ」
と王子が呟いたとき、小悪魔が聞こえていない王子に向かい、
「ああ、かなりマヌケだが」
と相槌を打った。
「呪いをかけてから15年。
日々、酒盛りや遊ぶことに忙しい魔女は、すっかり当時の恨みは忘れ、呪いなんてかけなくても、もういいか。
よく考えたら、娘、なんにも関係ないし、と思っていたのに。
こいつは、呪いに怯えるあまり、勝手に塔に入り、勝手につまづいて、勝手に紡錘で指を刺し、勝手に眠りの呪いを発動させた大莫迦モノの娘だが」
そ、そうか。
それで、あのとき部屋に入ってきた魔女が、あっ、って顔してたんだな……と今、気がついた。
おそらく、当日になって、あ、今日が呪いの日だった、と思い出し、呪いの紡錘を片付けようと思ってきたところだったのだろう。
それで、この人を世話役につけてくれてたのか、と小悪魔を見る。
もう呪う予定もなかったのに、勝手に呪われたから。