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100年後の眠り姫  作者: 菱沼あゆ


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1/6

魔女に呪われました……

 



 深い森の中、イバラに囲まれた城に私は眠っていた。


 15歳の誕生日の夜、魔女に呪われ、眠りに落ちたのだ。


 あれから100年。


 私はずっと自分を起こしてくれる王子様を待っている――。

 



 ……というか、待っていた。


 今は、


「別に王子様でなくていいや」


 そう思っている。


「なんか気の合いそうな人だったら、なんでもいい」


「なんだ、そのざっくりな感じは」

と可愛らしいぬいぐるみのこぐまが言ってきた。


 眠りについた私は幽体となって自らの身体を見張っているのだが。


 そんな私に魔女が遣わした小悪魔がずっとついているのだ。


 城で育った世間知らずの私は15になっても、まだ幼く、子どものようだったので。


 悪魔の姿を見て泣いたりしないよう、小悪魔は私のぬいぐるみにとり憑いてくれたのだが。


 あれから100年。


 もう小悪魔どころか、大悪魔を見ても泣かないくらい神経は太くなっていたが。


 小悪魔はまだ、こぐまのままだった。


「そんな殊勝なこと言ってるくせに、実際、王子が来たら、ああだこうだとうるさいじゃないか」


 小悪魔入りのぬいぐるみがそんな文句を言ってきたちょうどそのとき、寝室の扉が開き、王子っぽい人が入ってきた。


 王冠を被り、立派な服装をしている。


 その王子っぽい人は入り口から眠っている私を見、頷くと。


 ベッドに近づき、顔の横に手を置いて、いきなり口づけてこようとする。


「いやーっ。

 触らないでーっ!」


 思わず私は叫んでいた。


 横で、ちっ、と小悪魔が舌打ちをする。


 ベッドの周囲から、シュッとイバラを出して、王子を阻んでくれた。


 いてっ、と王子が声を上げ、身を引いたときにはもう、私のベッドはイバラで覆われていた。


「お~ま~え~っ」

と小悪魔はこちらを向いて、文句を言ってくる。


「誰でもいいですう~、みたいなこと言ってるくせに。

 いざとなったら、からきしじゃねえかっ」


「でっ、でもっ、この人っ。

 寝てる私にいきなりキスしてこようとしたしっ」


 そんな手の早い人、無理っ、と訴えたが。


「手の早い男じゃなきゃ、お前みたいなぼんやりした女は無理だっ。

 今は、ぼんやりしてるうえに寝てるから、なお無理だっ」


 いや、私が寝てるの、あなたがたの呪いのせいですよね……。


「いいじゃないか。

 多少、手は早くても、いい男だし、金持ってそうだぞ?」


「いや無理です。

 いくら格好よくても、こういう人無理ですっ」

と手を振っている間、王子はしばらくイバラのベッドを眺めていたが、そのうち諦めて立ち去った。


 小悪魔が溜息をつく。


「もう~、いい加減にしろよ。

 もう100年経ったんだぞ、100年っ。


 お前、目が覚めたら、ババアになってるかもだぞ。

 浦島太郎みたいにっ」


「なに浦島太郎って……?」


 いや、そういう話が異国にあるんだよ、と疲れたように小悪魔は言う。


 ぬいぐるみの可愛らしい、くりくりした目をこちらに向けて、小悪魔は文句を言ってくる。


「魔女はお前に100年眠れなんて言ってねえ。


 イバラをくぐり抜けてくるくらいの男がいたら、さっさとキスしてもらって目を覚ませくらいに思ってたのに。


 お前が選り好みするから、100年経っちまったじゃねえか。


 ちょっと綺麗で姫様だからって、何様のつもりだ?」


 だから……、姫様なんじゃないですかね?

と思いながらも、呪いが解けるまで側についていないといけない小悪魔のせめてものストレス発散に、と私は黙って、彼の愚痴を聞いていた。


「さっきの男だって、100年以上もダラダラ眠ってるお前なんかにゃ、分不相応ないい男だぞ。

 違う意味で目を覚ませっ」


 うっ。

 相変わらず、胸に突き刺さるお言葉……と思いながら、私は言った。


「わっ、私だって、そろそろとは思っているのよ。

 でも、言ってるじゃない。


 お金持ちでなくていいの。


 王子様でなくていいの。


 私はただ、自分に合った人と一生共に過ごしたいだけなのよ~」


「莫迦め。

 そういうのが、一番難しいことだろうが」

と小悪魔は真実を突きつけてくる。


「……こんなことなら、最初に来た王子様がよかったかも」

と私が言い出すと、


「いや、あの男は駄目だ」

と小悪魔の方が言い出した。


「なんというかこう、マザコンの匂いがした」


 この小悪魔、なんだかんだ言いながらも。

 長年、共にいたせいか、すでに過保護な兄のようになっている。


「私だってわかっているのよ。

 目が肥えすぎて、理想が高くなりすぎているのは」


 金や見た目じゃなくて、相手の人となりに対してだが。


「だんだん見ただけで、あ~、この人じゃ合わなさそうだな~とかわかるようになっちゃったって言うか」


 そう反省していると、小悪魔はチラとこちらを見、

「見る目が出来て、騙されなくなるのは悪いことじゃないだろう。

 最初の男はボンクラだった」

と言ってくる。


 そして、

「もういいよ。

 俺たちは人間と違って寿命というものも特にない。


 100年でも200年でもお前に付き合ってやるよ」

諦観ていかんの笑みを見せて小悪魔は言う。


 ……いや、ぬいぐるみなんで、顔は動いてないんだが。


 そう見える感じで言ってきたとき、その王子はやってきた。





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