第9話 はじめてのたたかい
ガサガサドスドスと言う音がこちらに近づいてくる。音から察するに来ているのは2体かな。
洞窟の前にオークが2体、姿を現した。
カロさんが言っていたように、二足歩行の豚だ。大きさは人間より大きく、2メートルくらいか。
オークは腰巻のようなものだけで特に防具は装備しておらず、手には木で作られた簡素な棍棒を持っていた。
カロさんには任せろと言ったが、本当に私に魔物なんて倒せるのかと少し不安だった。蚊とかそういう系の虫しか殺したことなんて無かったし。
だけど、実際にオークと対峙してみると、人っぽくもないし、可愛くもない。思ったよりは抵抗感が無さそう、かな。
それになにより、あいつらオークはカロさんたちを狙う悪いやつ!
キッとオークを睨みつけ、私は覚悟を決めたのだった。
こうして、私はこの世界のオークと戦うことになった。
オーク2体は追っていた猫の横にいる私を見つけ、ニタァと笑う。
『気をつけてください。オークは人間の女性を好みます!』
カロさんの思い出したような忠告に顔を顰める。
うへぇ、どういう意味で好むかは詳しく聞きたくないね。
よし、オークは私の気に入らないから倒してもいいリストにしっかり入れておこう。
そうと決めたら、手早く終わらせちゃいましょうか。
私はナイフを構え、足にぐっと力を込める。先手必勝とばかりに2体のオークが棍棒で襲いかかってきたが、冷静に片方を躱し、片方は棍棒を持つ腕が振り上げられた瞬間にナイフで腕を切りつける。オークの動きはそんなに早くないね。
「ブギャァァァァ」
切りつけられた方のオークが絶叫をあげた。よく見ると先ほど私が切りつけたオークは右腕から先が無くなっている。
ただ切りつけただけなのに腕ごと落ちて私もびっくりだ。ナイフちゃん、切れ味めっちゃいいな。そういえばCAだとナイフで1回でも切りつければそのままキルできたな。
切られてない方のオークもそれに驚き、一瞬動きが止まった。
その隙を見逃さず、すぐさまオークの背後に回って首を落とす勢いで切りつける。
叫び声も上げる間もなく事切れたオークがその場でドスンと倒れた。
よく見ると首切断されてんじゃん。ナイフちゃん最強かよ。
先ほど右腕を落とされたオークは仲間が一瞬で倒されたのを見て怖気付いたのか、逃げようとその場を反転した。
もちろんそんなこと許すはずないでしょうが。
私は手に持っているナイフを逃げるオークに向かって投擲する。
すごい勢いでオークに向かっていくナイフは、私の狙い通り後頭部に突き刺さった。
ナイフが刺さったオークも当然無事ではなく、その場に勢いよく倒れる。
近くまで行き、刺さったナイフを回収する。そのまま少し振り回し、ナイフに付いた血を飛ばした。
こちらのオークも死んでいることを確認すると、カロさんに向かって振り返る。
カロさんは心底驚いたような顔で私を見ていた。
やめて、私だってここまで動けて自分で自分に驚いてるんだよ。
『リンさん、そうは見えませんがすごくお強いんですね…』
そうは見えませんがって、それはどうせこのモコモコパーカーで判断してたんでしょ!知ってるんだからね!
「ふ、ふふ、だから言ったじゃないですか私に任せてくださいって」
何かに使えるかもしれないと、オークの死体を倉庫にいれる。
先ほどからせっせと収集してた草花同様、2体とも倉庫にしまうことが出来た。生き物以外ならなんでも入るのかな?
オークの死体はなかなかグロかったが、普段からゲームでゾンビやらなんやらを相手にしていた私は感覚が鈍っているのか、意外と平気だった。
『助かりました。リンさんならオークたちを倒すことができるでしょう。申し訳ありませんが、どうかお願いします』
恐縮そうに頭を下げるカロさん。
こちらとしては初めからそのつもりだから気にしなくていいのに。
「カロさんたちが無事に妖精王国に帰れるよう、お手伝いしますよ!」
『見ず知らずの私たちのために、なんとお優しい。このお礼は必ず』
カロさんに詳しく話を聞いたところ、この周辺には30体ほどのオークが群れを生して生活しているようだ。
オークの集落としては発展途上でまたまだ小さい方らしく、叩くなら今ってことだね。
ナイフ1本でオーク30体はさすがにキツいと考えた私はなにか策はないかと倉庫の銃火器類を眺める。
SRで一体一体ちまちま倒すのはナシだな。ARやSMGかついで突っ込むのも30体相手じゃちょっと厳しいかな。
倉庫をスクロールしながら眺めていた私の手がある武器の前で止まる。
この際、手榴弾で一気にドーンといくか。
「あのー、カロさん。とても威力の強い爆弾でオークの集落を一気に破壊しようと思いますが大丈夫ですかね?」
ここは森だからグレぶん投げて火事とかになっても困るし、一応カロさんに聞いてみる。
『爆弾、ですか?それは爆発する火魔法かなにかの1種でしょうか…?』
そっか、爆弾とかはこの世界にはあまりないのかな。でも似たような魔法はあるのか、想像は出来るようだ。
「えぇと、まぁそんなもんですかね?ここは森なので、火事になってしまっては困るので事前に聞いてみようかと…」
『そういう事でしたか。それなら大丈夫です。我ら妖精は結界を張ることが出来るので、オークたちを囲うように結界を張りましょう。その中で爆発させれば結界の外には被害が出ないはずです』
なるほど、カロさんはそんなに便利なものが使えたのか。
結界が使えるなら結界張ってゲート出せばいいじゃんと思ったが、妖精王国に繋がるゲートを出している間は他の魔法を使うことができず、結界を張ることができないんだそうだ。
「では、私がオークを1箇所に集めたらカロさんは結界をお願いします」
『分かりました。私も共に行きましょう。チロルはここで待っていなさい』
『いやだ!僕もリンと一緒に行く!』
チロルはどうやら男の子らしい。カロさんと行く行かないで揉めているようだが、チロルに諦める気はないようだ。
「チロル、行くのはいいけど、その代わり私から離れないでね」
『リン、ありがとう!』
『本当にこの子は…リンさん、お手数かけてすみませんがよろしくお願いします』
カロさんも諦めたのか、しぶしぶチロルの同行を認める。
早速私たち3人はオークの集落がある場所へとカロさんの案内で向かった。
フゴフゴと鼻息荒くせっせと住処を建設しているオークたちの集団を見つけた。これが集落か。
こうやってみると、30体って結構多いよね。
出来たての集落だからなのか、住処となる家はまだ中央部分にひとつしかなく、カロさんが言うには中央の住処にオークの上位種がいるのではないか、ということだった。
カロさんいわく、オークにも序列や上下関係というものがあるらしく、基本的に強くなれば上位種へと進化できるそうだ。
上位種へと進化したオークは通常のオークを従えて群れを作り、それが大きくなると集落になっていくという。
上下関係があるなら、あの真ん中の家に手を出せば、上位種を守るためにオークたちは1箇所に固まるかな。
「じゃあ、まずはオークを1箇所にまとめますね。カロさん、結界の準備をお願いします」
『分かりました。いつでも大丈夫です』
「チロル、カロさんも、これから少し大きな音がしますが驚かないでくださいね」
倉庫からARのAK-47を取り出す。私のメインとして使っていた愛着のある武器だ。反動は大きいが、その分威力は高い。
AK-47を構え、レッドドットサイトを覗いて住処に狙いを定める。
ダンダンダンダンッとVectorよりも大きな音が出て、その弾丸が住処の一部を勢いよく吹っ飛ばす。
オークたちは大きな音と急に吹っ飛んだ住処に驚いて、私の思惑通り中央に集まり始めた。
横にいたカロさんとチロルは私の持っている武器や音に驚いているようだ。
「カロさん!結界を!」
『っ、はい!結界張りました!リンさん、お願いします!』
私の声にハッとしたカロさんが急いで結界を張る。
私の目でギリギリ捉えられるような黄色っぽい透明な壁がオークの集落を取り囲んだ。
それを確認し、すばやくAK-47を倉庫にしまうと手榴弾を取り出す。
すぐにピンを抜いて、オークの集落にグレネードをいくつか投擲した。
「カロさん、チロル、私の腕の中で耳を塞いでてね」
オークの集落に背を向け、ぎゅっとカロさんとチロルを抱え込むように抱き締める。
言われた通り2人とも耳を塞いでいる。めっちゃ可愛い。
5秒後、背後のオークの集落があった場所が凄まじい音ともに爆発した。