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第8話 楽しい森のお散歩

遅くなってしまいました…!

 

「お姉ちゃん、おはよう!」

「おぅ、姉ちゃん。よく眠れたか?」


 村に出ると、いろいろな人が声をかけてくれる。気を使ってくれてるのかな、ありがたいことだ。

 それに応えつつ、とりあえず村の全体像を把握するべくひととおり歩く。村自体はすごく小さい。

 昨日のグリーンバード串肉会にはこの村に住んでる人全員が参加してたらしいので、そこから考えるとリコッタ村の人口は数十人程度だ。

 そのため、家も2、30軒ほどしかない。私たちが通ってきた舗装されたような道を除き、村を囲むようにぐるっと緑生い茂る森が続いてる。


 簡単に村1周してしまった私は、そこで少し考える。

 この舗装された道を歩いていくと草原に出る。でも行ってもなにもないのは分かっているので面白くない。

 よし、ここは森に入って珍しいものでも探そう。


 なんとなく森に入る姿を見られると止められそうなので、キョロキョロと辺りを見回し人がいないことを確認する。

 誰もいないことを確認した私はガサガサと森に入っていった。

 とりあえず、村が見える範囲の位置で探検しよう。


 森は悠々と木々が立ち並び、空気がとても澄んでいる。天然のマイナスイオンすげぇ。

 森の空気に癒されながらさくさく進んでいると、見たこともないような花や草が多く生息していて興味をそそる。

 あぁ、鑑定的なスキルがあればなぁ。


 とりあえず、目に付いた草や花をナイフで刈り取り倉庫にしまっていく。すごい楽しい。

 点々と生えている草花を夢中で追いかけるうちに、村が見えない場所まで来てしまったようだ。


 さて、どうしよう。

 チラッとシュウの顔が脳裏に浮かぶ。でもまだそこまで深くまでは行ってないはずだし、時間的にそんなに経ってないからまぁ大丈夫だな。

 ノルドさんも深くまで行かなきゃ魔物も出ないって言ってたし。

 とりあえず、少し喉が渇いたので倉庫に入れておいた水筒を取り出し水を飲む。

 こういう時のためにこっそりと用意しておいたのだ。さすが私。


 ふと足元を見ると、何か動物の小さな足跡を見つけた。

 特に目的もなく歩いていたので、ある程度満足いくまで草花を採集した私は次にその動物の足跡を追うことにする。

 だんだんと森の奥に入っていっている気がするが、今から帰りのことを気にしても仕方が無いのでその辺はいったん忘れることにしよう。


「あれは、猫?」


 足跡を辿っていくうちに、足跡の主であろう猫らしい真っ白な動物を見つけた。大きな木の陰に隠れるようにうずくまっている。

 どうやら怪我をしているみたいで、足からは血が流れていた。

 猫はこちらに気がついたようでチラリと私を見たが、威嚇する元気もないほど衰弱しているのかそのままぐったりとしていた。


 そっと猫に近寄る。怪我してるのは足だけではないようで、近くで見ると白い身体中がところどころ血で染っていてとても痛ましい。

 私に敵意がないことを伝えようと、そっと猫を撫でる。

 単に抵抗する元気がないのか、敵意がないことが伝わったのかはわからないが、私に大人しく撫でられている猫。


 なんとかしてあげたいと考えていたら、倉庫に回復アイテムが入っていたことを思い出す。

 CAのクエストモードで使う回復アイテムには主に包帯、応急薬、医療バッグの3つだ。この他に、ドリンクと呼ばれるものもある。


 包帯      HPを25回復

 応急薬     HPを50回復

 医療バッグ   HPを100回復

 ドリンク    HPを持続的に50まで回復


 回復アイテムの各効果はこんな感じだ。

 CAのクエストモードでのHPはレベルに関係なく100だったので、医療バッグを使えば全回復することになる。この世界ではHPの扱いとかどうなっているのか不明なので、どうなるかは試してみないとわからないけど。


 倉庫の中の回復アイテムの在庫を見ていると、ログインボーナスやら配布やらでもらったはいいが使っていない回復アイテム類がたくさんあった。

 私はクエストモードほとんどやらなかったもんなぁ。


 とりあえず、応急薬を倉庫から取り出してみる。倉庫のアイコンにある通り、ビーカーのようなガラスの瓶に入った緑色の薬が出てきた。

 瓶の蓋はコルクのようなものだったのでキュポンと抜き、匂いを嗅いでみる。うん、ハーブ?っぽいどことなくオシャレな匂いがする。悪くない。


 猫にあげる前に、少し自分で飲んでみた。

 ブレンドハーブドリンクのような、とても身体に良さそうな味がする。味は普通においしいかな。


 飲んだ瞬間、体が一瞬光る。ちょっとビックリしたが、その光はほんのわずかな時間でおさまった。

 怪我は特にしてないが、なんだかここまで歩いた疲れが取れた気がする。

 回復アイテムには怪我だけでなく疲労にも効果があるのかな?

 とにかくこれなら効果がありそうだということで、さっそく猫の傷口に応急薬をかける。猫だから飲むかどうかわからないし。


 猫の身体が光った後、身体中にあった傷はキレイさっぱりなくなっていた。

 猫は驚いた顔で自分の身体を見て、傷が治っていることを確認するとスっと立ち上がった。

 傷はなくなっていたが、毛並みの良さそうな白い毛の身体に血の跡だけが残っていた。


 猫はどこも身体に異常がないことを確認するかのようにしばしその場を歩き回った後、お礼を言うかのように私の足元に擦り寄ってきた。


「かわいい猫ちゃん、治ってよかったねぇ。」


 擦り寄ってきた猫の頭をしゃがみこんで撫でる。うん、良かった良かった。

 ひとしきり撫でた後、猫が私のパーカーの袖を咥えて引っ張る。どうやらどこかに案内したいようだ。

 猫の意図をくんだ私は、歩いていく猫に素直について行く。


 猫の案内で森のさらに奥に入っていくと、祠のような洞窟に辿り着いた。

 猫が洞窟の前でニャーンと鳴くと、中からちょっと大きい白い猫が出てきた。この子の親かな。


 出てきた大きな猫は、猫が血まみれなことと、一緒にいる私に気がついてシャーッと警戒するが、血まみれのはずなのに普通に歩いている猫を見て首を傾げる。

 怪我をしていた猫が大きな猫に説明するかのようにニャンニャンと鳴いている。


 私に敵意がないことが分かったのか、猫が警戒を解いた様子でこちらを見て、私は少し安心した。

 その時、私の頭の中によく通る女の人の声が聞こえてきた。


『先ほどは失礼しました。この子を助けて下さり、ありがとうございます。あなたは優しい方ですね』


 うわ、なにこれどこから聞こえてくるの!?

 急に聞こえてきた声を主を探そうと辺りをキョロキョロ見回す。


『あなたの目の前ですよ。私はこの子の母親のカロです。この子はチロルと言います』


 どうやら声の主は先程洞窟から出てきた大きな猫さんらしい。


「猫ちゃんのお母さん、喋れるの?」

『どうぞカロとお呼びください。実際に口に出して話しているわけではありません。あなたの頭の中に直接念話で伝えています』

「ほほう、なるほど…?あ、私はリンです。よろしくお願いします」


 すごいな、よく分からんが今どきの猫は念話なんか使えるんだ。知らなかった。

 この猫ちゃん親子はカロさん、チロルちゃんと言うらしい。どちらも見た目にあった可愛らしい名前だ。


『この子の傷を治してくれて助かりました。チロルはこの辺一帯を牛耳るオークたちにやられたみたいです』


 オーク…豚の魔物ってことかな。ファンタジーでは序盤から出てくるような、割と定番な魔物だよね。


「オーク、ですか。そのオークは強いんですか?」


『いえ、個々はそれほど強くはないです。人間より少し大きいくらいの豚で、集団で生活をする特性があります。ですので、数で圧倒されてしまうと私たちでは太刀打ちできません』


 なるほど、数の暴力ってやつだね。


『私たちはケット・シーと呼ばれる猫の妖精です。元々は妖精王国に住んでいたのですが、少し外へ出かけた時に魔物に襲われ逃げていたところ、親子でこんな場所まで来てしまいました』


 ふむふむ、つまり、このカロさん親子は魔物に追われてお家に帰れなくなって困っているということだね。

 カロさんたち、普通の猫にしか見えないけど妖精さんだったんだ。すごい異世界っぽい。妖精王国ってとこもファンタジー感すごいし。


「どうすれば妖精王国に帰れるのですか?」

『迎えを頼んでるのですが、如何せん周囲のオークのせいでここに妖精王国に繋がるゲートを作ることが出来ないのです』


 つまり、カロさん親子が妖精王国に帰るには迎えが必要なんだけど、その迎えの人たちがオークのせいで来れないってことか。


「分かりました、ここで知り合ったのも何かの縁ですし、私がオークを討伐しましょう」

『えっ!…あの、その、できるのでしょうか?』


 ものっすごい控えめに言ってるけど、「お前なんかでほんとにオークを倒せんのか」ってことだよね、これ。

 オークを倒さないとこのカロさん親子は帰れないわけだし、これも何かの縁なので最後まで協力してあげたい。なにより、可愛い猫ちゃんを放っておくなんて私にはできぬ!


「任せてください!」


 自信満々に親指を立てるが、カロさんはとても不安そうだ。チロルちゃんの方はそんな私を見ながらカッコイイ!と言っている。

 ふふ、そうだろうそうだろう。ていうか君も念話使えたんかい。


 その時、ガサリと何かが草木をかき分ける音がした。


『オークが来ました。数体ですか、もしかしたらチロルを追ってきたのかもしれません』

「ふむ、じゃあいっちょやりますか」


 私は愛用のナイフを鞘から抜き、来るであろうオークに向かって構えた。


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