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第7話 村長さんのナイスな提案

 

「はぁーー。おいしかったねぇ!」


 おいしいお肉をお腹いっぱい食べた私は満足気にお腹を擦りながら、近くの木の下に腰を下ろす。


「姉ちゃん、もういいのか?」


 村長さんはいつの間にか私の近くにいたらしい。

 っていうか、貴方手に何本串肉持ってるんですか。あ、なるほど確保しておかないと奪い合いになるんですね。少なくとも私はもうお腹いっぱいだから取りませんよ。


「私はもうお腹いっぱいです。みなさんにも満足してもらえましたかね?」

「満足も満足さ。こんな村じゃ肉なんて滅多に食えないからな」

「ほー、さっきの人もそんなこと言ってましたね」

「流通も少ないし、そもそも魔物なんて倒せるヤツがこの村にはいないしな。畑を荒らす動物なんかの肉をたまに食うぐらいだな」


 次の串肉にかぶりつきつつ、私と話しながら村長さんは目を閉じて肉を味わっている。


「そんなに喜んでもらえたなら私も嬉しいです。グリーンバードを倒したかいがありましたね」


 倒したのはシュウだけどな。って、こんな会話さっきもしたな。

 この村の食糧事情は思ったより厳しいんだなぁと実感する。

 私が日本にいた頃は、肉も野菜もスーパー行けば簡単に手に入ったし。当たり前だと思ってたけど、恵まれた環境にいたんだなぁ。村の人たちと交流しつつ、みんなでわいわいと肉パーティをしていたら段々日が暮れてきた。辺りはすっかりオレンジ色だ。


「おう、姉ちゃんと兄ちゃんは今日はうちにでも泊まっていくといい」


 夜が近付いてきてこれからどうするか相談する私たちに、村長さんがナイスな提案をしてくれたのでお言葉に甘えることにする。


「ありがとうございます!」

「狭くて何もねぇが、恩人の寝るとこくらいは作るさ」


 再び村長さんに案内され、家に入れてもらう。

 さっき話してたテーブルのある居間の奥には小さな台所と、6畳くらいの部屋が2部屋あったらしい。

 片方は村長さんの寝る部屋、もう片方は物置に使っているということで、物置部屋の方をお借りする。

 使ってない布団があるという人の家から布団をお借りし、物置部屋に私とシュウの2組の布団を敷いた。

 6畳程の部屋にシングルの布団が並べて敷いてある後継を見たシュウが少したじろぐ。


「あの、リンさんは俺と同室で大丈夫ですか?」

「え?ダメなの?わざわざ分けてもらうのも手間だし、一緒の方がいいよね?」


 シュウが何を言っているかわからず、きょとーんと聞き返すと何とも言えない顔になるシュウ。


「本当に危機感ないですよね…」

「えっ、なんか言った?」

「なんでもないです」


 いろいろありすぎてさすがに疲れたので、用意してくれた布団に寝転がる。うん、分かってはいたけどペラッペラで固い。自分のベッドちゃんがとても恋しい。

 布団に入るとなんとなく考えてしまう。

 異世界!転移!とか浮かれてたけど、私帰れるのかな?家族はいたけど、もともと疎遠だしほとんど会わなかったから別にいい。でも、友たちと会えなくなるのは寂しいな。


 そんなセンチなことを考えていたらすぐ眠くなってきた。本当に能天気だな私。シュウを見ると、こっちを背を向けて寝ているようだ。

 おやすみなさい、と声に出さず心の中でシュウに伝える。

 そうしてこんな状況下でも私は熟睡するのだった。


 朝の日差しがダイレクトに顔に突き刺さる。カーテン閉めとけ、まだ眠いんだよ…

 そこでふと思い出す。そうだ、ここ異世界だよ自分の部屋じゃないよ!

 ガバッと起き上がると、隣の布団は空っぽで、すでにシュウはいなかった。時計がないから何時かは分からないが、太陽の位置もそんなに高くないし、なんとなくそこまで寝坊はしてない気がする。

 ぐーっと手を上に押し上げて身体を伸ばす。うん、いい朝だ。

 のそのそと布団から出て、とりあえず物置部屋から移動すると、居間のテーブルでお茶のようなものをすすってるシュウがいた。


「おはようございます、リンさん。よく眠れたようで何よりですね」

「おはよ、シュウ。クマすごいけど、全然寝られなかったの?」

「あの状況じゃさすがに寝られませんよ…」


 机に顔を突っ伏して項垂れるシュウ。流石のシュウでも、いろいろあったし異世界転移なんてさすがに堪えたのかな。あ、もしやお主、枕が変わると眠れないタイプなのか?


「リンさんが何を考えているのか大体見当がつきますが、そのどれでもないですよ」


 おおう、エスパーかよ。

 脳内でいろいろな選択肢を出してるのに先制をくらったよ。

 シュウはリンさんが起きたことだし、と今のうち少し寝ると言って物置部屋にフラフラと戻って行った。

「おやすみ〜」とシュウを見送ったあと、手持ち無沙汰になった私はとりあえず椅子に座る。


「お、姉ちゃん起きたのか。この状況でよく眠れるとは大したもんだ」


 椅子に座ってすぐに、どこかに出かけていたのか村長さん(昨日名前聞いたらノルドさんというらしい)が外から帰ってきたみたいだ。


「はい!お陰様でよく眠れました!」

「ははっ、兄ちゃんと違って肝が据わってるな。それとも兄ちゃんが災難だっただけか?」


 どことなく楽しそうなノルドさん。

 災難ってどういう意味かはわからないけど。


「シュウはこれから少し寝るみたいです。昨日全然眠れなかったみたいで」

「だろうな。まぁ、寝かせてやんな」


 ノルドさんもシュウが眠れなかった理由を知ってるのかな?まぁ、その辺はどうでもいいんだけど。

 外の井戸で顔を洗い、ノルドさんに簡単な朝ごはんをもらう。パンと昨日飲んだお茶のようなものかな。

 パンをちぎってみると、とても固い。とりあえずもくもくと咀嚼してお茶のようなもので流し込む。

 味はともかく、いただいたものだしお腹はふくれたので文句はない。


「ノルドさん、なんか手伝うことありますか?」


 できれば農作業なんてやりたくないが、ノルドさんにはお世話になっていることだし何かしらの手伝いを申し出る。


「いや、姉ちゃんに農作業はさせらんねぇよ。この付近を少し散歩でもしてきたらどうだ?」


 散歩!それいい!


「そうします!でも、お手伝いは本当にいいんですか?」

「心配いらねぇよ。姉ちゃんの分も兄ちゃんが朝からやってくれたからな」


 シュウ、全然寝てないのに朝っぱらからそんなことしてたのか。とてもありがたいけど大丈夫なのかな。

 ということでノルドさんの許可も出たし、朝ごはんを食べてすぐ手隙になった私はこの辺を散歩がてら探検することに決めた。


「あんまり遠くに行くんじゃねぇぞ。兄ちゃんも心配するからよ」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ!」


 なんでそんなにみんなして私を子供扱いをするんだ。私だってこれでも25年は生きてるんだぞ。

 とはいえ、ここは日本じゃないし何が起こるかはわからないので、一応警戒しておこう。

 倉庫から愛用のナイフを取り出し、腰の鞘に装備する。ふふ、ナイファーの血が騒ぐぜ。


「この辺は奥深くまで行かなきゃそうそう強い魔物なんか出ないが、気をつけろよ…姉ちゃん、短剣なんか使えんのか?」


 私の腰に装備してあるナイフを見てノルドさんが心配気味に言う。そっか、この大きさだとこっちの世界ではナイフというよりは短剣なんだね。

 CAもそうだけど、FPSで使われるナイフはだいたい軍用のコンバットナイフだから大きめのものが多いからな。


「まっかせてください!」


 自信満々にドーンと胸を叩く。ノルドさん、怪訝そうな顔をするんじゃない。

 CAのジャックザリッパーの力をとくと見るが良い。


 暗くなる前には戻ってくるという約束をさせられ、なんだか腑に落ちないまま散歩に出かけたのだった。




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