第51話 知らない称号
「うぁー暖まるぅぅ」
シュウが作ってくれたスープをすすりながらほっと息を吐く。借りたパーカーの中を覗き込むと、下着はまだ濡れているようだった。下着が乾かないと寒いよね。もういっそ全部脱ぐか…?
行動に移そうと思ったらシュウにそれだけはやめてください俺のために!と止められたのでしぶしぶそのまま火のそばに座り込む。
「どうしましょうか、服が乾いてから街へ戻ると途中で夜になっちゃいそうですよね」
「うん、確かに」
昨日ネルト平原に来たときは、確か昼前くらいから夕方まで半日くらいかかったっけ。時間的にも今日はここで寝て、朝になってから街に帰った方がいいかな。シュウにそう言ったら同意していたので、今日はここでのんびりすることにする。
「魚を捕ろう」
「はっ?」
シュウが素っ頓狂な声を上げる。私はさっき魚が捕まえられなかったことを根に持っていた。絶対捕ってやる!
「釣竿ないから釣りは無理か。となるとやはり素手で行くしかないか…?」
「石で囲いを作って誘い込むとかありますよね?」
「天才か!」
モコモコパーカーと上下セットだったモコモコ素材のショートパンツをはき、上はそのままシュウに借りたパーカーで再度川の中に入る。ううっ、やっぱり冷たいっ。
大きめの岩で魚を閉じこめるための生簀を作る。あとは魚が入るまでしばらく待つだけなので一旦陸に上がり、わくわくしながらお茶を飲んで待機する。
「もういいかな?」
「いいんじゃないですかね?」
音を立てないように気をつけながら川に入る。生簀を見ると、思ったよりたくさんの魚が入っていた。大漁だー。
手にクロスボウの矢を持ち、生簀の中の魚にトドメを刺す。そのまま倉庫に入れ、生簀の岩を元に戻してから焚き火までダッシュする。
「捕れた!リベンジ成功だよ!」
「リベンジ…?おめでとうございます?」
シュウに報告するために、倉庫からさっき捕った魚を出す。数を数えてみると、7匹もいた。そんなにいたのね。
「リンさん、喜んでいるとこ悪いんですが、これ食べられるんですか?」
「え?」
「ここは異世界ですし、俺らの知らない魚ばかりですよね?」
「うっ」
せっかく捕ったのに…残念だけどこの魚たちは街に帰ってから料理長に食べられるか聞いてからにしよう。
しょんぼりした私を慰めるように、ほら、おやつに甘いものでも食べましょうとシュウが紅茶のパウンドケーキを倉庫から出してくる。それ私が作ったやつだよね、ちゃっかり倉庫にガメてたのか。食べるけどさ。
紅茶のパウンドケーキでちょっとご機嫌が回復した私はシュウに久しぶりにステータスの確認をしようと持ちかける。
「そう言えばずっとしてませんでしたね。あれから何回か戦ってるし、ステータスも上がってるかもしれません」
「だよね、誰もいないし確認しておこうよ」
ギルドカードを出して、ステータスオープンと口にすると、前にも見たステータスウィンドウが目の前に開かれる。
〈 名 前 〉 リン
〈 レベル 〉 26
〈 職 業 〉 斥候
〈 攻撃力 〉 726
〈 魔 力 〉 549
〈 体 力 〉 598
〈 敏 捷 〉 783
〈 スキル 〉 倉庫、結界魔法
〈 称 号 〉 ジャック・ザ・リッパー、妖精の祝福、疾風の戦乙女
〈 加 護 〉 妖精王の加護
ふぇ?なんでこんなステータス高くなってんの?特に攻撃力と敏捷。なんか知らないスキルと称号増えてるし。とりあえず、疾風の狂戦士の効果を確認するために称号に触れてみる。
「疾風の戦乙女」
目にも留まらぬスピードで戦場を翔ける者に贈られる称号。攻撃力と敏捷にステータスボーナスが入る。
強くね?ジャック・ザ・リッパーの効果だってめっちゃ強いと思ってたのに、常時だよ。ここ最近今までよりも早く動けた気がしてたけど、敏捷が上がったおかげなのか。そういえば、称号やスキルって滅多に手に入らないものだって聞いたんだけど…
そして加護って項目が増えてるね?こっちも触ればわかるのかな…?
「妖精王の加護」
妖精王の祝福を受けた者に授けられる加護。魔力に大幅なボーナスが入り、妖精固有の結界魔法を使うことができるようになる。
うん、これもう規格外だよね。いつこんな加護をつけたんだ妖精王さんよ。っていうかなんだよ結界使えたのかよ!ワイバーン戦の大きな竜巻どうにかできたかもしれないじゃん!
シュウのステータスはどうなってるんだろう。
〈 名 前 〉 シュウ
〈 レベル 〉 24
〈 職 業 〉 魔術師
〈 攻撃力 〉 753
〈 魔 力 〉 295
〈 体 力 〉 782
〈 敏 捷 〉 586
〈 スキル 〉 倉庫、鷹の目
〈 称 号 〉 スナイパー、燦爛たる騎士
うお、シュウもステータスの伸びがやばい。それに、やっぱり知らない称号がある。
「燦爛たる騎士」
他者を守り慈しむ者に贈られる称号。攻撃力と体力にステータスボーナスが入る。
おお、こっちも常時ボーナスが入る称号だ。っていうかなんで騎士?って思ったけど、シュウには心当たりがあるらしく、なんだか少し恥ずかしそうな顔をしてる。
「お互いステータス伸びてたね」
「そうですね、リンさんの加護がとても気に食わないですが…」
「シュウも加護が欲しかったの?」
「いえ、そうではなく妖精王からっていうのが…いえ、でも結界スキルを使えるようになったのはありがたいですね」
妖精王から加護が気に食わないみたいだけど、なにがそんなに不服なんだろう?シュウもやっぱり加護が欲しかったのかな。結界魔法スキル、どんなスキルなんだろう?これも説明でるのかな。
「結界」
魔力を消費して結界を張ることができるスキル。結界の耐久度は魔力に依存する。
そのまんまだね。耐久度は魔力に依存するって、そもそも基準が全くわからない。
でもこれは試してみる必要がありそうだね。いざというときのために、どれくらい保つか知っておかないとね。
「シュウ、時間もあるしちょっと結界の耐久度調べない?」
「そうですね、試してみましょうか」




