第45話 大きなストローム商会
馬車でそのまま門を通り、窓の外を見る。ルズベリーの街は活気に溢れる賑やかな街だった。
「わぁ、すごい!人がたくさんいて賑やかな街だねぇ」
「ここは食の街とも言われ、常に色々な人が集まる街ですからね」
食の街!だからこんなに食べ物のお店が多いんだね。私が楽しげに街をキョロキョロ見回していると、微笑ましそうにロームさんとシュウが見ていた。
「リンさん、よろしければ私の商会へいらっしゃいませんか?お昼でも食べながら、大会についてもっと詳しくお教えしましょう」
「え、いいんですか?」
「もちろんですとも」
街に入ったら、護衛の冒険者さんのお仕事は終わりらしい。ロームさんにサインをもらって、冒険者ギルドに報告にいくと依頼完了になるみたいだ。
「俺たちもしばらくこの街にいるから、なんか用があったらギルドに言付けでもしておいてくれ」
「リンちゃーん!またご飯でも食べに行こうねー!」
「あ、あはは、じゃあ、何かあったら」
ドミニクさんも私も苦笑いで別れる。シュウなんて若干キレそうな顔してたよ、こわ。ロームさんがストローム商会のお店まで案内してくれたんだけど、私の想像してた3倍は大きなお店だった。例えるなら小さめのデパートみたいな。そういえば、アンスリルド王国でも三本の指に入る大商会だって言ってたっけ…
「ここがストローム商会のルズベリー支店です。これでも支店なので小さい方なんですけどね」
「これで!ロームさんはすごい商人なんですねぇ」
中に入ると、おかえりなさいませ旦那様と従業員がお出迎えに来てた。なんだか金持ち感はんぱないな!
「彼はルズベリー支店長のベニアです。ベニア、こちらは私の命の恩人のリンさんとシュウさんだ。くれぐれも丁重に扱ってくれ。そうだ、ワイバーンの買取があったか。かなり大きい魔物だから、解体所に直接に案内してあげてくれ」
「かしこまりました。では、リンさん、シュウさんこちらへ」
ベニアさんに連れられ、広い解体所に案内される。解体専門の人を連れてくるので待っていて欲しいと言われ、端っこの方で座って待つことにした。
支店長のベニアさんは20代後半くらいの大人っぽいイケメンさんだった。銀色で長い髪を後ろにひとつで縛り、優しそうな黒い瞳、さすが商人というような笑顔。
「うわぁ、さすが大商会。支店長さんもすっごいイケメンだねぇ」
特に深い意味があるわけではないが、ただ待っているのもアレなのでシュウにコソッと思ったことを伝える。
「……リンさんはああいうのが好きなんですか?」
下を向いてちょっと暗い声のシュウ。え、なんか怒ってる?思ったこと言ってるだけなんだけどな。ベニアさん、確かにイケメンだとは思うけど、私は…
「え、うーん?好きというか一般的に見てイケメンだなぁって思っただけなんだけど…どちらかといえば、私はシュウの方が好きだよ?」
「ッ!」
シュウが私を見て目を見開く。え、何その驚きみたいな顔。むしろこっちが驚きなんだけど。
「俺は、リンさんのこと…」
「お待たせしました!」
あ、解体の人来てくれたみたい。確かに話の途中だったけど、 シュウがなんで今なんだと少し怒気を纏った声でつぶやく。そういうこと言わないの。急いできてくれたのに失礼でしょ。
「ワイバーンということですが、6匹いるのですか?」
「はい、小さめの5匹と大きめのが1匹」
小さめのって言っても軽く5メートルくらいあるんだけどね。大きい親ワイバーンは7、8メートルはありそう。この解体所は広いから、全部出しちゃって平気かな。ワイバーンを全て出すと、解体の人は驚いていた。
「こ、こんなに…これ全部解体となると、今週いっぱいはかかってしまうかもしれませんがよろしいですか?」
「はい、しばらくはこの街にいる予定なので問題ないです」
「では、解体が終わりましたらご連絡いたしますね」
「大会が終わって落ち着いてからで全然大丈夫ですよ。あ!そうだ、ワイバーンって食べられます?」
「どうでしょう?今まで食べたという話も聞きませんが、肉も高値がつくってことは食べられるのではないでしょうか。そもそも、ワイバーン自体が珍しい魔物で、この最近はどこのギルドにも入ってきてないはずです」
「じゃあ、肉だけ戻してください!」
「承知しました」
解体の話がひと通り終わり、今度は食堂へ案内される。すごいね、お店の中に食堂まであるんだ。本格的にデパートかよ。っていうか、食堂なんてレベルじゃない。高級レストランだよこれ。なぜか緊張しながら席に案内され、大人しく座る。借りてきた猫状態だよ。シュウは平然としてるし、イケメンだからこういうとこは慣れてるのか。私はマナーとか全然わからないんだけど大丈夫かな?少し待つと、ロームさんがやってきて私たちと同じ席に着いた。
「そう固くならずとも大丈夫ですよ。もう今日は貸し切りにしてあるので気楽にしてくださいね」
「えっ、わざわざ貸し切りとか…」
「お気にせず。私がいる日はそんな日もあるので」
かしこまりながらメニューをもらったけど、何がいいのか全くわからないので、ロームさんのおすすめでお願いする。
「ルズベリーの大会でしたね。リンさんと、シュウさんが良ければですが、うちの商会でリンさんたちのお手伝いさせてください」
「は、え?いいんですか?」
「ええ。これがお礼ということでどうでしょう?」
ニコリと笑うロームさん。馬車でここまで連れてきてもらったからお礼なんていらないのに。っていうか、ロームさんだって飲食店やってるんだから大会出たいんじゃないの?と尋ねると、うちはお菓子というより食事メインだから今回は出場しない予定だったと言われる。なるほど、馬車だけじゃ釣り合いが取れなくて申し訳ないとか言ってるし、それなら頼んじゃってもいいのかも。
「シュウ、どうかな?」
「いいんじゃないですか、俺らだけじゃ正直厳しいですしね」
「確かにそうだね、じゃあぜひお願いします!」
「お易い御用ですよ。お礼というのは本当ですが、本音を言えば私としてもこんなに強い冒険者とコネができてメリットしかありませんからね」
おおう、さすが商人っぽい。なんとなく今後もロームさんとは付き合いがある気がする。
話をしながらごちそうになったお昼ごはんはこの世界に来て1番おいしいと言っても過言ではなかった。お金にまだまだ余裕あるし、またぜひ来たいと思った。
宿もロームさんに紹介してもらい、なんだか至れり尽くせりな感じがすごい。でもありがたく紹介してもらった宿屋に向かうと、思わず苦笑いしてしまった。そうだよね、〈王家の箱庭〉って名前でなんとなく想像できたよね、ここ1泊いくらすんのよ…噂によると王宮の人もお忍びで泊まることがあるとかないとか。そんないい所紹介してもらっていいのかな?
とりあえず中に入ると、今までの木造の宿屋とは違うレンガ調のオシャレな宿屋だった。受付の人もスーツっぽいきっちりした服きてるし、こんなに高そうなとこ気後れするよ。
「リン様、シュウ様ですね。ローム様からお話は伺っております。ルズベリーの大会に出場予定という事でしたので、中期でお部屋を確保させて頂きました。お2人様で2週間金貨18枚でございます」
「えっ?そんなに安いの?」
「はい。ローム様からのご紹介ですので」
今までの宿屋だって1泊銀貨5枚前後はしたよ?それより全然いい宿なのに値段は少し上がっただけとか…腑に落ちないけどひとまずお金を払い、部屋に向かうことにした。




