第5話 村の事情
こうして私たちは突然村に降りかかった問題を無事解決した。
「約束、守っていただけますよね?」
シュウが鍬のおっさんに黒い笑顔で声をかける。
鍬のおっさんは騒ぐ周囲とは対照的にポカーンとしていたが、ハッと我に返ってシュウに詰め寄る。
「お前ら!すごいな!村への滞在なんてお安い御用さ!むしろこっちからお礼させてくれ!」
シュウを両肩を掴みガクガク揺らしながらなんか笑顔で興奮してる鍬のおっさん。
わーい、滞在許可どころかお礼だって!
なにかおいしいものでも食べさせてくれるのかなー?楽しみ!
「あ、ありがとうございます。とりあえず、まずは離していただけると助かります」
「おおっ、すまんなかったな兄ちゃん!つい嬉しくて興奮しちまったよ!」
鍬のおっさんがシュウを離すのと同時に、さっきまで騒いでいた農家のおっさんたちがこっちに駆け寄ってきた。
「すごいなあんたら!」
「本当に助かったよ!君たちはこの村の恩人だ!」
おおう、嬉しいのはわかるがおっさんたち、近い近い。ムサいし暑苦しいから私とシュウを囲まないでくれたまえ。
そんなことを思っていると、スっとシュウが自然に私の前に出る。やっぱりイケメンは違うな。
「兄ちゃんたち、このグリーンバード、自分たちで解体するのか?」
我に返った鍬のおっさんがそんなこと聞いてくるけど、そもそもグリーンバード(やっと名前覚えた)なんて初めて見るんだから、解体なんて出来るわけないじゃん。
私はブンブンと首を横に振る。
「いえ、さすがに手順も分からないので解体は厳しいですね。もしできる方がいるならお願いしてもいいでしょうか?」
「お安い御用さ。おい、おめーら!とっとと解体すんぞ!」
「「「おうっ!」」」
さっきまで私たちを囲んでいたおっさんたちが手際よくグリーンバードを解体していく。
農家ってすげーな、何でも出来んのかよ。
「こんなもんかな。兄ちゃんたち、この素材どうすんだ?売るのか、それとも持っていくのか?売るって言ってもこの村じゃグリーンバードの買取なんて厳しいんだけどな!」
「え、なんで私たちにそんなこと聞くんですか?」
「なんでって、そりゃ姉ちゃんたちが討伐したんだから、所有権は姉ちゃんと兄ちゃんにあるだろうよ」
「あ、そういうものなんですね…」
そうか、よく考えてみたらそういうもんなのか?
「ちなみにこのグリーンバード、いい素材なんですか?」
シュウが鍬のおっさんに質問する。確かに、その辺どうなんだろう?
「そうか、お前らまだ冒険者じゃなかったんだっけな。それでグリーンバードを簡単に討伐すんだから恐れ入ったわ。こいつはな、主に森とかに生息する雑食の魔物で風魔法を使い動きも素早いんで、Cランクに認定されてる魔物なんだぁ。」
「Cランク…この世界の魔物は強さによってランク分けされてるのですね」
「まぁ、強さっていうより危険度だな。っていうかお前ら、冒険者以前にそんな一般常識も知らねえのか」
「ええ、まぁ。なにせ田舎から出てきたもので…」
「どんなけ田舎なんだよ。よし、じゃあとりあえず俺の家へ来い。ちょっくらその辺説明してやる。グリーンバードの素材は…あんなでかいモン、箱持ちでもない限り持っていくのは厳しいか」
「箱持ち?アイテムボックスってことですか?」
「おっ、それは知ってんのか。アイテムボックスってスキル持ちのヤツのことを箱持ちって言うんだよ」
箱持ちっていうんだ。この世界でもアイテムボックスを持っている人がいるんだね。
ってことは、このグリーンバードの素材、倉庫に入れちゃって平気なのかな?
チラッとシュウを見ると、シュウもこっちを見て首を縦に振る。
「アイテムボックス、俺は持っているのでグリーンバードはそこに入れていきますね」
「おおっ、そうか。兄ちゃんは珍しいスキルを持ってんだなあ」
どうやらアイテムボックスは珍しいスキルらしい。
とりあえず、シュウがグリーンバードの素材である羽類、肉、キレイな石を倉庫に収納する。
「よしっ、じゃあ俺の家に行くぞ。オメー等は安全確認をした後、いつも通り作業に戻っていいぞ」
鍬のおっさんが周りの農家のおっさんに声をかけると、ぞろぞろと自分たちの畑に戻っていく。
その後、私たちは鍬のおっさんの家に案内された。
6畳あるかないかくらいのお世辞にも広いとは言えない部屋の真ん中に、ダイニングテーブルと椅子が4脚置いてある。
おっさんがお茶らしきものを私たちに出してくれた後そこに座ったので、シュウがおっさんの対面に、私はシュウの横に座った。
鍬のおっさんが出してくれた湯呑みの中をそっと覗いた後、湯呑みをくるくる回してみる。なんか茶色い液体だ。湯気出てるけど、お茶かな?
「粗茶だが、恩人に毒の入ったもんなんて出さねえよ」
私の行動を見たおっさんが苦笑いを浮かべてる。
「あ、なんかすみません。こういうの初めてなんで…」
おっさん、なんかごめん。別に毒かどうか疑ったわけじゃなくて、純粋に何かなって思っただけなんだ。
おっさんが出してくれたお茶を啜ってみる。うーん、ほうじ茶と抹茶をブレンドしたような、不思議な味がする。でも決して不味くはない。
ごくごくとお茶を飲んでるいると、おっさんがちょっとホッとしたような顔をして、まずはこの村のことを話し始めてくれた。
ここはアンスリルド国の端っこにあるリコッタ村というらしく、説明してくれている鍬のおっさんはなんと村長だった。
国についても聞いてみたが、生まれてこの方この村からあまり出たことがないらしい村長さんは、国については詳しくなかったようだ。
このリコッタ村は見てわかる通りそんなに豊かな村ではないらしい。周りが魔物の出る森やなにもない草原に囲まれているため、客はおろか商人や冒険者などもあんまり来ないんだそうだ。
ここの畑で色々なものを育てていたのは、自給自足のためか。人が来る機会が少ないなら、自分たちで賄うしかないもんね。
村全体で協力しながら細々と暮らしていたところ、どうも最近、盗賊が人気のないこの辺の森を根城にしたらしく、みんなで警戒をしている最中だったらしい。
それでいかにも怪しそうな私たちに過剰な反応をしてたのか、納得。
辺鄙な場所にあるため、騎士団や討伐してくれそうな高ランクの冒険者なんかもなかなか来れないらしく、自衛するしかないってことだね。
私たちはまだ冒険者じゃなくて冒険者志望だけど、このタイミングで私たちが来たことはとても運が良かったと言っていた。