第40話 相変わらずお酒には弱いみたいです
屋敷を出た途端わらわらと囲んできた子供たちは私たちが少年を虐めていたと誤解しているのか、 小さいながらにこの少年を守ろうと私たちを睨みつける。みんないい子たちじゃないか。
「はいはーい、おねーさんたちは悪い人ではありませーん!さっ、君たちもついでだからいっしょにごはん食べようか。おねーさんがごちそうするよ!」
日も落ちてきたし、ちょっと早いけどここで夜ごはんだ。倉庫内にある残っていた料理を全て出す。いっぱい買い込んでたし、レーベルクでも補充してたから残りはまだ結構あったんだよね。
子供たちは初めは訝しげに私とシュウを警戒していたけど、マーレちゃんを保護してくれていた少年がいち早くガツガツとごはんにがっついているのを見て誤解が解けたのか、うれしそうにごはんに群がり、我先にと食べている。お腹空いてたんだなぁ。口々においしいおいしいと言ってくれ、その光景を見て少しほっとする。
そんな子供たちの様子を見守っていた私とシュウの前に、マーレちゃんを保護してくれていた少年が近寄ってきた。
「飯、ありがとう。みんな喜んでる」
「ううん、君こそマーレちゃんをお世話してくれていてありがとうね」
「レオ」
「レオくん」
「くんもいらない、レオでいい。あんたの名前は?」
「私はリン。こっちはシュウ」
「リン…」
レオがじっと私の顔を見る。あ、そういえばこの依頼、私たちが受けたけど先にマーレちゃんを見つけたのはレオだよね。依頼の成功報酬は確か銀貨8枚だったっけ。
「シュウ、依頼の報酬、レオにあげていいかな?」
「いいんじゃないですか。見つけたのはこの子ですし」
「ハァ!?アンタら何言ってんだ!」
銀貨8枚だけど、お世話してくれていたのでその分も含めてレオに金貨1枚を渡す。レオはとても驚いていたが、私が受け取ってほしいと頼むと素直に受け取ってくれた。
「リン、アンタ良い奴だな」
「うん、それは知ってる」
「それに可愛いし。リン、俺…」
「ハイハイ、ストップ。そこまでにしておきましょうね少年」
レオが小声でなんか言ってたけど、それをシュウが遮る。レオは顔を赤くして、シュウを睨むと、シュウも鋭い目で少年を見つめ返してる。もうほんとにシュウはどこにいっても誰かとバチバチやり合ってるなぁ。もはや趣味なのかな。
「飼い主さんも心配してるだろうし、日が暮れきる前にギルドに報告しないとだね。シュウ、そろそろ行こうか?」
「行きましょう」
シュウがスっと立ち上がり、私に手を出きた。その手を借りて立ち上がり、うーんと背筋を伸ばす。
「レオ、ほんとにありがとね」
「リンこそ、飯ありがとな。久しぶりにみんな腹いっぱい食えたよ」
「お姉さんたち、ご飯ありがとう!」
「おいしかったよ!」
「また来てね!」
子供たちはお腹いっぱい食べることができてうれしいのか、みんなお礼を言ってくれた。レオはなにか言いたそうな顔をしてるけど、その度にシュウが目で制す。あなたたちはなんの戦いをしてんのよ…
子供たちと別れて、マーレちゃんを抱えて足早にギルドへ戻る。早く帰らないと閉まっちゃうよね。幸いまだギルドは開いていたので、ダッシュで駆け込む。もうギルドも終わり間際でほとんど人はいなかった。
「おかえりなさい…あ!その犬!」
「マーレちゃん、見つけてきました」
「こちらでお預かりします!依頼主の方への連絡もしておきますので」
マーレちゃんを受付のおねーさんに引き渡し、銀貨8枚の報酬をもらう。差し引きでマイナスだけど、楽しかったし、お金には困ってないし問題ない。
宿屋に戻り、併設の食堂で再度夜ごはん。さっきは子供たちがガツガツ食べてたから、私とシュウは見てただけでほとんど食べてないんだよね。ひとまず、明日の朝に取りに来るので料理をたくさん作ってくださいと頼んでおき、空いてる席に座る。
「あーお腹空いたなぁ。おねーさん!まずはこの鳥串とエール!」
「おっさんみたいな頼み方しますね…あまり飲み過ぎないようにしたくださいね」
「シュウがいるから大丈夫!」
頼んだ料理に舌鼓をうち、エールに酔いしれる。ああ、すっごくいい気分。夜ごはんを終えて、シュウにもたれ掛かりながら部屋に戻る。1杯しか飲んでないはずなんだけどなぁ…
気が付いたら朝でした。はい、シュウに運ばれてそのまま寝ちゃったみたいですね。ふと横を見るとシュウはまだすやすやと寝ていた。なんかまたいろいろ迷惑かけたのかなぁ。
ベッドから降り、そーっと部屋の外に出る。疲れてそうだから起こしちゃかわいそうだし、少し散歩でもして起きるのを待とうかな。
共用スペースの水場で顔を洗い、宿屋の外に出る。うーん、朝日が気持ちいい。道行く人に挨拶しながら通りを歩くと、いくつか通りに露店が出ているのが見えた。お店というよりは、布を敷いて商品を並べるだけのフリーマーケットのような感じかな。
近寄ってこれはなんのお店か尋ねると、ポーションなど回復薬を売っているお店らしい。他にも何店舗があったけど、みんなどこも同じような品揃えみたい。朝、冒険者ギルドで依頼を受ける冒険者が出発前に寄って買って行くんだってさ。なるほどなぁ。
私たちには回復アイテムがあるからポーションは特に必要ないんだけど、興味本位でお店の商品を覗いてみる。ひと言にポーションと言っても、いろいろ種類があるんだなぁ。体力や魔力を回復する定番のものや、毒や麻痺など状態異常を治すものなど思ったより豊富なポーション類が並べてあった。
「お姉ちゃん、なんか買ってくかい?」
しゃがみこんでじっと商品を見ていたら、露店のお兄さんに声をかけられた。
「いえ、回復アイテムは持っているので。どんなものがあるのかなって気になっただけです」
「なるほどなぁ。この街は魔法で有名なだけあって魔力ポーションが1番人気かな」
「そうなんですね、私は魔法はからきしで…」
「それも珍しいな、見たところ冒険者だろ?」
「あはは、近接戦闘メインなもので…」
そんなことを話していたら、急にガシッと誰かに腕を掴まれる。シュウかな?と思って振り返ると、全く知らない紺色の髪のお兄さんだった。誰ですかね?
「ハァッ、急に、すみませんッ!」
「いえ、私になにかご用ですかね?」
「マーレッ!依頼、ありがとう、ございましたッ!」
ギルドでマーレちゃんを無事に受け取り、どうしても直接お礼が言いたいと私たちの特徴を受付のおねーさんに聞いたらしい。それで、たまたま特徴どおりの私を見かけて走ってきたみたいだった。ああ、このお兄さん、昨日の依頼をした人かぁ。
「見つかって良かったですね」
「ほんとに助かりました!誰も受けてくれなかったので…」
確か、ずっと残っていた依頼って言ってたね。こっちが恐縮するくらいお礼を言ってくれたお兄さんと別れ、そろそろシュウが起きる頃かなと宿屋に戻る。
宿屋に入った瞬間、勢いよく肩を掴まれる。今日はよく掴まれる日だなぁ。
「リンさん!どこ行ってたんですか!」
「え、散歩?」
「1人で勝手に出歩かないでください!心配するでしょう!」
「お父さんか」
ああ、髪もボサボサじゃないか。起きて私が居ないことにそんなに焦ったのかな。手ぐしでシュウの髪を整える。イケメンが台無しじゃないか。
「大丈夫だよ、シュウを置いてどこも行かないよ」
「約束ですよ!」
それはいいんだけどさ、ここ宿屋の前でめっちゃみんな見てるからそろそろ解放して欲しい。




