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第39話 残された依頼

 

 本日2回目の冒険者ギルドに到着する。朝は人がそこそこいたけど、お昼を過ぎて大分減ったようだ。依頼は掲示板に依頼書が貼り付けてあるので、それを剥がして受付に持っていくとその依頼が受けられるシステムらしい。依頼書には詳しい依頼内容、必要なランク、依頼の期限などの細かい条件と成功報酬が書いてあった。


 シュウと一緒にどんな依頼があるか掲示板を覗くと、今は7件ほどの依頼があるようだ。

 ざっと見てみると、魔法都市だけあって研究や魔法に関する素材収集の依頼がほとんどだった。でもその中にひとつだけ、他とは毛色の違う依頼がある。なになに…


「いなくなった犬を探しています」


 …うん、これしかないな!シュウの意見も聞かずにビリッとその依頼書を剥がすと、受付まで持っていく。


「ちょ!リンさん!」

「わんちゃんがいなくなったなんて可哀想じゃない!」

「いや、それ条件きちんと読みました!?」

「え?」

「ああ、この依頼数日前に貼ってからずっと残ってたやつですね。犬を探すためだけにあんなとこ行かなきゃいけないなんて、誰も受けたがりませんから」


 あんなとこ?受付のおねーさんの言葉を聞いてよくよく依頼書を見てみると、詳しい条件が書いてあった。


「魔物が出るという屋敷にて犬のマーレが行方不明になりました。冒険者の方、どうか探してください?」

「はい、その屋敷は今はもう誰も住んでいない廃屋敷なのですが、その、アンデッドが出るという噂なんですよね」

「なるほど、それはどこにあるんですか?」

「ちょ、リンさん行くんですか!」

「え、冒険者さん行くんですか!」


 シュウと受付のおねーさん、2人でいい感じにハモったな。え、そりゃ行くっしょ。ゾンビとかなんて倒し慣れてるようなもんだし。CAの中でだけどな。


「参考までに聞きたいんだけど、アンデッドって頭を落とせば倒せる?」

「あ、はい。ゾンビやグールなどはそれで倒せます。レイスが出たら分かりませんが、アンデッド類は基本的に光属性の浄化魔法で倒すのが一般的です」

「なるほど、んじゃ大丈夫だな」

「何が大丈夫なんですか!何も大丈夫じゃないですよ!」


 頭を落とせば倒せるならゾンビとか実態のある系はなんとかなるな。レイスっていうと霊魂のみの魔物か。それはナイフちゃんで多分倒せないから走って逃げるしかないな…


「シュウが嫌なら私ひとりで行ってくるから大丈夫だよ?」

「それはもっと大丈夫じゃないです!あーもう、リンさんは行くと決めたんですね!なら俺も行きますよ!」

「ふふふ、さすがシュウ!」


 受付のおねーさんに場所を聞くと、アルヴェラの外れも外れ、端っこの方だった。とりあえず、シュウとその屋敷に向かうと、第一印象は「リアルお化け屋敷!」というような雰囲気の屋敷だった。

 高貴な人が亡くなっただか怪死が続いただか知らないけど、いわく付きな屋敷だと言うことだけは分かる。なんか屋敷から黒いオーラが見える気がするよ。


「さっ!わんちゃん探しに行こう!マーレちゃーん!出ておいでー!」

「はぁ、リンさんは怖くないんですか?」

「え、うん。シュウは怖いの?怖いなら手でも繋いでく?」

「はっ!?いや、怖くはないけど手は繋ぎたいです!」

「ははっ、なに焦ってんの。冗談だよ、手なんか繋いでたらいざというときナイフ振れないじゃない」


 なぜかしょんぼりしたシュウを引き連れて、屋敷に足を踏み入れる。さっきはああ言ってたけど、本当は怖かったのかな?

 屋敷の中は電気がついていないせいで薄暗いけど、今は昼間だから窓から日が差しているおかげかライトがないと見えないって状態でもない。あの依頼がきたのが数日前って言ってたし、早くマーレちゃん見つけてあげないとヤバいよね。


「マーレちゃーん!迎えに来たよー!」


 呼びかけてみるけど反応はない。ひとまず屋敷の1階をひと通り回る。出るという噂のアンデッド類とは遭遇せず、ひたすら埃っぽい屋敷の中を歩いていく。


「なんにもいないね。マーレちゃんどこにいるのかな?」

「そうですね…っ!リンさん、2階から物音が聞こえます」

「マジか、行こう」

「少しは躊躇してくださいよ…」


 私にはなんにも聞こえなかったけど、シュウにはなにか聞こえたようだ。屋敷のエントランスに戻り、中央の大階段から2階に上がる。シュウが物音を聞いた場所へと進むと、そこは過去は書斎だったであろう本棚が立ち並ぶ部屋だった。


「マーレちゃん?」

「ここにいるんですかね」


 書斎の中を見回したけどそれらしいものは見当たらない。ん?あれは…数ある本棚の中にひとつだけ、下部分が棚になっている本棚がある。しゃがみこんで、そっと棚の扉を開けてみた。


「わんわんっ!」

「うわぁ!」

「リンさんっ!?」


 開けた瞬間、中から犬が飛び出してきた。驚いたがなんとか受け止める。この子が探してたマーレちゃんみたいだ、依頼書に書いてあった容姿と一致してる。

 でも、少しおかしい。数日前から行方不明の割にやつれてない、むしろ元気?マーレちゃんを抱えて隅々まで確認していると、棚の中からガタガタという音が聞こえる。シュウがすかさず中を確認すると、中から子供が出てきた。


「こども?なんで…」

「この子、身なりからして貧民街スラムの子ですね。そういえば、アルヴェラにもスラムがあるから近寄るなって話を聞きました」

「お前ら!誰だ!」


 子供が威嚇をするように私たちに叫ぶ。シュウがとっさに庇うように前に立ってくれたが、構わずその子の前に出る。


「私たちはこの犬を探してここにきたの。君はどうしたのかな?」

「俺はアンタらが言ったようにスラムからきた!だからなんだ!何か悪いのか!」

「ううん、そんなことはどうでもいい。それでね、君がこの子を保護してくれたのかな?」

「そんなこと!?どうでも!?」

「この子、数日前にいなくなっちゃったんだけどね、こんなに元気なのは君がお世話をしてくれてたんでしょ?」

「俺の話は無視か!ああ、そうだよ!」


 根負けしたように子供が話してくれた内容によると、この屋敷はスラムの人の寝床や子供たちの遊び場になっているらしい。誰も近づかないように、アンデッドが出るという噂を流していたのだそう。なるほど、確かにこの屋敷はアンデッドくらい軽く出そうな雰囲気がビンビンに漂ってるし、実際にはアンデッドなんて出ないんだけど、確認しようにも誰も近寄りたくないみたいだったし、なかなかいい手だと思う。


「ふーん、そうなんだ」

「どうせお前らも俺らを追い出そうって言うんだろ!」

「いや?そんなめんどうなことしないけど。っていうか正直どうでもいい」

「リンさん、それはぶっちゃけ過ぎです」

「いや、だってシュウもそうでしょ?」

「確かにどうでもいいですが」


 私ら2人を見て唖然としていた子供だったけど、私らの会話を聞いて急に笑いだした。


「はははっ、どうでもいいか。アンタら珍しいな。俺とも対等に話してくれてるし」

「そうかな?あ、ねぇ、お腹空いてない?わんちゃん助けてくれたお礼におねーさんがなんか食べさせたる!」

「マジで!いいのか!?」

「ひとまず、この屋敷は埃っぽいので外に出ましょう」


 マーレちゃんと子供を連れて外に出ると、わらわらと知らない子供たちが寄ってきた。この子の仲間かな?


「レオ兄!大丈夫か!」

「そいつら悪いヤツか!?倒すか!?」

「れおにー、つかまっちゃったの?」

「なんともないから少し離れろ!」


 マーレちゃんを保護してくれていた子供は光の下で見ると子供というより少年だった。屋敷の中は暗いから全然そうは見えなかったし、スラム育ちのせいか発育が少し悪いけど、15歳くらいかな?


集まって来た子たちはやはりスラムの子で、この少年はみんなのリーダー的存在みたいだった。




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