第38話 旅の準備
「ラルフさん、私たちルズベリーに行きたいです」
「おや、もしかして大会に出る気なのかね?今回は確か、お菓子の大会だった気がするが…」
「お菓子かぁ、なんとか作れなくはない、かな?」
「リンさん、優勝する気なんですね…」
そりゃ、出るからには優勝するしかないでしょう。鑑定のスクロールほしいし。これは早いとこルズベリーに行って、いろいろ勉強しないといけないね!
ラルフさんに準備ができたらすぐにでも旅立つことを伝えると、魔法の便箋を10通ほど私たちにくれた。この中に手紙を入れると、魔法で瞬時にラルフさんに届くらしい。すごい、これでいつでもラルフさんと連絡が取れるってことだね。この魔法の便箋はフェリアン魔法研究所の最高傑作らしいよ。こんなにすごいもの作れるなんて、ここの研究所は優秀なんだね。
「ありがとうございます。何かあったら連絡しますね」
「うむ、うむ。では、行ってきなさい」
フェリアン魔法研究所を後にし、旅の準備を整えることにする。そういえば、レーベルクで狩った魔物の解体をしてもらった方がいいね。結局王都じゃ解体できなかったというかする暇なかったというか、そもそも私は王都行ってないしな。アルヴェラのギルマス、ザールさんにも挨拶しておきたいし、ひとまず冒険者ギルドに向かおう。
「シュウ、ここを出る前に冒険者ギルドに行ってレーベルクで狩った魔物の解体お願いしない?」
「そうですね、そうしましょう」
アルヴェラの冒険者ギルドの木扉を開くと、中にはそこそこ人がいた。とりあえず、買取カウンターで解体をお願いしよう。
「すみませーん、解体お願いしたいんですけど」
「おう、何を解体するんだ?」
ゴリマッチョなおっさんが奥から出てきて対応してくれる。グランリールでもそうだったけど、解体する人はやっぱりマッチョじゃないとダメなのかなぁ。
とりあえず、いっぱいあると言ったら奥に連れていかれる。ここは倉庫兼解体所かな。
倉庫からレーベルクで狩った魔物を取り出す。いろいろ狩ったから何があるか覚えてないや。えーと、オークが3体、ゴブリンが5体、グリズリー3体、グリーンバードに、グリムボアが1体ずつかな?
全部出したら解体のおっさんは口をあんぐり開けて驚いていた。その顔、すごく間抜けだけどいいの?
「ゴブリンやオーク、グリズリーはともかく、グリーンバードにグリムボアか。また珍しいもん持ってきたな」
グリーンバードはCランク、グリムボアはBランクの魔物だったっけ。とりあえず、食べられるオークとグリーンバードの肉は戻してもらって、その他は買取に出すことにした。お肉は旅の間の食料にもなるし、倉庫に入れとおけば腐らないからたくさん会ってもいいよね。まだ弾薬とか回復アイテムは在庫がいっぱいあるから、今回も魔石はいらないかな。
数があるので解体は明日までかかるらしい。明日の朝、肉と代金の引取りをすることにして、解体所から出る。買い取りの話もまとまったし、ザールさんのところに顔を出すことにした。
受付のお姉さんに声をかけてもらい、2階のギルマスの部屋に行く。ザールさんは相変わらず事務作業をしていたようだが、入ってきた私たちを見て手を止める。
「おう、よく来たな。もう妖精王国から帰ってきたのか」
「はい。ザールさんにはお世話になりました。それで、最終的にはサンファイユ皇国に行く予定なのですが、まずはルズベリーに向かいます」
「なるほどなぁ。ルズベリーはアンスリルドでも有名な食の街だ。楽しんでくるといい」
ニカッと笑ったザールさん。うん、グランリールのエドガーさんに比べて爽やかでイイネ!どっちも暑苦しいけど向こうはこの比じゃないからね。
今日お願いした魔物の解体が明日には終わるので、受け取ったらルズベリーへ向けて出発することを伝えると、簡単に行き方を教えてくれ、アンスリルド王国の簡易的な地図までくれた。おお、これでこの国ならどこにでもいけるな!
ふと、ラルフさんに武器を鑑定してもらったことを思い出す。レーベルクに行く前に話してたから、ザールさんも銃火器の鑑定のことは知ってるんだけど、結果はザールさんには言わない。もし、ラルフさんに聞かれてもはぐらかしてもらうことにした。異世界から来たってバレちゃうからね。
ザールさんにお礼を言ってから冒険者ギルドを出て、大分少なくなった食料の補充をすることにした。お肉は明日解体してもらえるから、それ以外かな。
「明日まで時間は空いてるし、色々見て回りましょうか。リンさん、結局レーベルクの王都も散策出来ませんでしたからね」
「そうだった!いろいろ見たい!」
レーベルクの王都、見て回りたかったなぁ。実は、妖精王の呼び出しのせいで行けなかったの悔やんでたんだよね。ミツハちゃんにまた王都行きのゲート頼むのもアレだったし。まぁ、今となってはいつでも行けるんだし、今度行ってみよう。
「そういえば、シュウはミツハちゃんとデートだったんでしょ?どうだった?」
「デー…ト…?」
「ん?ベルさんがそう言ってたよ?」
ふと王都でのことを思い出し、何気なくシュウに質問する。あれ、シュウがなんか固まってる。私そんなに変なこと言ったかな?
「デートとは」
「うん?」
「男女が買い物や食事、観光など行動を共にし、2人で過ごす時間を楽しむものである」
「えっ、うん、一般的な解釈はそうだね?」
「ミツハさんとは確かに一緒に王都は回りました。しかし、その時間を楽しんだという記憶は俺にはありません」
「はぁ」
「しかし過去、現在とリンさんと一緒にいる間は楽しいです。つまり、俺とリンさんは常時デートをしているということになりますね?」
「急にどうしたのシュウ」
「むしろこの異世界にいる間は半永久的にリンさんとデート状態ということですか?」
「おーい?」
ものすごい早口で顎に手を当て、シュウが全然意味がわかんないこと言ってる。たまーに壊れるよね、シュウ。仕方が無いのでシュウの顔の前で強く手を叩く。パァンと大きな音がして、ハッとした様子のシュウ。戻ってきたかな?
「…ハッ。すみません、色々考え込んでしまいました」
「うん、おかえり。それで、とりあえず市場に行こうと思うんだけど」
「食料ですね、行きましょう」
アルヴェラは魔法のお店がほとんどで、ごはん系のお店はあんまりないみたいだけど、市場まで行くと食べ物の露店や各種食材を売っている露店などがたくさんあった。
「わぁ!いろんなお店があるね!」
「そうですね、なにかお昼に食べていきましょうか」
「いいね!あれ食べたい!」
串肉を売っている店を指さすと、シュウがすかさず買ってきてくれた。相変わらずスマートだなぁ、さすがモテるイケメンは違うわ。
近くに飲み物の露店が出ていたので、ベリーのジュースを買って串肉と一緒に味わう。このお肉、おいしい!ジュースもさっぱりとしておいしいな。ぬるいのがなんとも言えないけど。
露店でお昼を済ませたあと、野菜や調味料、パンなどを買い足し、今日の宿屋を探す。さっきの串肉売ってたおにーさんが〈青の魔法亭〉という宿屋がおすすめと教えてくれたので、そこへ向かうことにした。
ツインの部屋が空いていたので確保し、少し部屋で休む。午後はどうしようかとシュウと相談していると、買い物も終わったので簡単な依頼でも受けてみようということになった。
RPGの定番、薬草収集とかあるかな?そもそも、私たちは普通に依頼受けるの初めてなんだよね。オーガのときは緊急依頼だったし。
どんな依頼があるのかな、楽しみだな。




