第37話 これからは考えてから発言しよう
「妖精王国!どうでしたか!」
ラルフさんの部屋である所長部屋になかば強制的に拉致られ、メモを片手に興奮してるラルフさん。どうって言われましても…
チラリと横のシュウを見る。あんまり全部詳しく話さない方がいいんだよねきっと。私が話すと余計なこと言いそうだし、シュウに任せた方が良さそう。
シュウは私の目線だけでいろいろ察してくれ、代わりにラルフさんに妖精王国のことを話していく。シュウがラルフさんに話したのは、妖精王国レーベルクが各属性ごとのエリアと王都で構成されてること、妖精王国にも魔物はいたこと、妖精王がいたことなどレーベルクでも基本的なことばかりだった。うん、私が話すよりしっかりまとめてあってわかりやすかったよ。
そんなレーベルクでは当たり前のことでも、ほとんどが謎に包まれている妖精王国だからか珍しい情報ばかりらしく、ラルフさんは時折質問を交えながら私たちの話を熱心に聞いていた。
「ふぅ、私の知りえない情報ばかりでとても有意義な時間でした」
「それなら良かったです」
「これはぜひともお礼をしなければいけませんね。何がいいですかな?」
お礼?そもそもラルフさんに会わなきゃ精霊樹を通して妖精王国には行けなかったんだし、そんなものいらないのに。断ったけど、そんなこと言わずにぜひとも!と詰め寄られ、しぶしぶながら同意する。暑苦しいおっさんしかいないのかこの世界は。
それにしてもお礼か、なにがいいんだろ?あ、ラルフさんいろいろ詳しそうだし、なにか教えてもらうのがいいんじゃないかな?サンファイユのこと、聞いてみようかな?でもそういう国のことはギルマスとかの方が詳しく知ってる気もする。
いろいろ考えてると、ふとラルフさんに銃を鑑定してもらうという話を思い出す。そういえば、元々それで釣ってあわよくば精霊樹に…って話だったよね。
「あの、これ鑑定してもらえませんか?」
ゴトリと机の上に愛用のAK-47を出す。危ないから弾は入れてない状態だ。私たちは普通に使ってるけど、この世界だと銃火器はどんな扱いなんだろう。気になる。
シュウは何故か唖然としてるけど、気になるしお礼なんて思い浮かばないんだからいいじゃん。
「おお、これは噂の武器だね。でもいいのですかな?これでは私に利がありすぎてお礼になりませんよ」
「いえ、私たちも知りたいことなのでいいんです。鑑定のスキルは珍しいらしいですし」
「ふむ、そういうことでしたら」
興味津々な顔をしてAK-47を手に取るラルフさん。回転させながら隅から隅まで眺めた後、そろそろと机に戻す。そして、心を落ち着けたようにゆっくり目を閉じる。
「鑑定」
傍目には何が起こったか分からないが、ラルフさんは驚いたような顔をする。何かわかったのかな?
「異世界の武器、と出ているが君たち、もしかして稀人なのかね?」
うん、完全に墓穴掘ったよねこれ。その可能性を全く考えていなかった。そりゃそうか、武器の説明が見れるなら異世界の武器って出る可能性を考慮しろって話だよね。
完全に浅慮な私が悪いよねこれ。シュウのあの顔はこのことを懸念していたのね。できれば事前に言ってほしかったかな。あと呆れた目でこっち見んな、言いたいことはわかってるから。
「えと、あの」
「前半の説明はあまり意味がわかりませんな。あさるとらいふる?じどうしょうじゅう?など、知らない単語ばかりだ。私が分かることは恐ろしくハイスペックな武器であること、異世界の武器であること、倉庫?に入れると自動修復、最後にこれは魔法で作り出された武器ではないようだということだね」
私の動揺はひとまず置いておいて、ラルフさんが鑑定の結果を続ける。
ああ、wiki的な感じの説明が出たのか。とりあえず、私たちの銃火器は魔法ではないってことだね。魔法で作り出したものじゃないってことは、普通の剣とかと同じく壊れるってことだよね?倉庫に入れると自動修復ってあるけど、戦ってる最中にナイフちゃん壊れたらめっちゃ困る。
「あの、ついでにこれも鑑定してください」
稀人なんですかという問いは完全にスルーし、相棒ともいえるナイフを机の上に出す。もちろんピンクのハート柄のバレンタインラッピングverだ。
「ふむ、柄は変わってますが短剣かね?鑑定…これも、この世界にはない武器と出ているな。軍用ナイフ?攻撃力も異様に高く、折れることがない、それにこちらも自動修復機能まで付いている…これ、国宝級の武器ですな」
「マジかよ優秀だなナイフちゃん」
ハッ、思ったことがつい口に出てしまった。そういえば魔物相手に何回か使ったけど、研ぐとか考えてなかったな。あの硬いグリフォンの嘴を弾き返してもキズひとつ付いてなかったし。あのときはとても頑丈なナイフだと思ってたけど、そもそも折れないんだね。国宝級の武器とかうちの子、そんな優秀だったのね。
「あの…さっきも聞いたのだが、君たちは稀人なのかな?」
ラルフさんが伺うようにこちらに問うてくる。まぁ、そこは気になるところだよね。うーん、個人的にはラルフさんには言ってもいいと思ってる。私たちが稀人だからって利用とかしなさそうだし。それに、いっそバラしちゃった方が今後いろいろ教えてもらう上で頼りになりそうだ。私は肯定することに決めた。
シュウを見ると仕方ないという顔で頷いたので、言ってもいいってことだよね。
「そうです」
「やはり!貴方たちが妖精王国に行ったり、妖精が見えたりということにもこれで納得いったよ。私に教えてくれてありがとう。誰にも言わないから安心しておくれ」
にこりと笑って私たちを見るラルフさん。その顔を見ると、嘘を言っているようには見えない。信用、してよさそうかな?
「俺たちは稀人ですが、この世界でのんびり2人で生きていきたいと思っています。ですが、現状分からないことだらけです。良ければ、これからもいろいろと教えてもらえませんか?貴方にとっても悪い話じゃ無いはずです」
「いいだろう、確かに私にとっても悪い話じゃないね。むしろ、君たちと縁ができて私は幸運だよ。初めて見る武器、妖精、今後もまだ私の知らないことをこれからもたくさん知ることが出来そうだ」
シュウの若干取引めいた言葉に、ラルフさんは本当に楽しそうな、うれしそうな顔をしている。そういえば、面白いことや知ること好きな研究バカだって言ってたね。
「しかし、今後むやみにその武器を鑑定されない方がいいだろうね。稀人だということが一発でバレてしまうよ」
「確かに…そんなに鑑定スキル持ちって多いんですか?」
「いや、そこまで多くは無いはずだ。鑑定はレアなスキルだからね。…そういえば、ルズベリーの大会の優勝賞品が鑑定のスクロールだと噂になっていたな」
「ルズベリー?スクロール?」
「ああ、ルズベリーというのはここから少し北にある食の街と言われている街だね。そこでは定期的に食に関する大会が開かれているんだ。今回は第100回だかを記念して優勝賞品も豪華にしたという話だね。スクロールというのは、読むだけでスキルや魔法を習得できる本のことだ。スクロール自体があまり見かけないものなのに、鑑定のスクロールなんて今後お目にかかる機会もそうそうないだろうね」
そのスクロール、めっちゃほしいんだけど?それに、食の街ってのも気になる。食べること好きだし。
ラルフさんに詳しく話を聞いたところ、ルズベリーの街を通ってサンファイユ皇国に行くこともできるようだ。ただ、その場合のルートだと「迷いの森」という少し厄介な森を抜ける必要があるらしい。うーん、それでもルズベリーには行きたい。
これはもう、次の目的地は決まったな。




