第35話 お揃いのプレゼント
「シュウ、いる?」
コンコンとシュウの部屋の扉をノックする。シュウはすぐに出てきてくれた。彼もお風呂に入っていたのであろうか、髪は少し濡れていて、なんだか学生時代の修学旅行を少し思い出した。男子の部屋に行ったらお風呂上がりでいつもと違う一面を見た気がしてドキドキしちゃう…!なんて青春エピソードよくあるよね。私はもちろんそんな経験ないんだけどな。
「リンさん!どうしたのですか?」
私を見てふわりと笑うと、すぐさま部屋に招き入れてくれた。事前に断っておくけど夜這いに来たんじゃないからな。とりあえずベッドに座ると、シュウも少しだけ間を空けて私の真横に座った。近くね?と思ったけど、よく考えたら他に座るとこないもんね。
「あのね、今日妖精王と話したこと、聞いてほしいんだ」
私はゆっくりと妖精王との話をシュウに伝える。稀人のこと、召喚魔法のこと、サンファイユ皇国のこと、そして、私たちのせいで命を落としてしまった人がいるかもしれないということ。
「なるほど、妖精王とはそんな話をしていたのですね」
「うん。私のせいで苦しんでいる人がいるかもしれない。だから私は知らなきゃいけないと思う」
「リンさんのせいではないですよ。悪いのは召喚魔法を指示した人なんですから」
「わかってる、けど。私に関係が無いわけじゃないから」
なんだかとても居た堪れない気持ちになって、話しながら下を向く。シュウはそんな私の手をきゅっと握ってくれた。驚いて顔を上げると、優しい笑顔のシュウがいる。
「分かりました。俺もリンさんと同じです。プーカに会ったらそのサンファイユ皇国に行ってみましょう」
「シュウ…」
思わずシュウにぎゅっと抱きつく。シュウはとてもびっくりしてあわあわしてたけど、やがて私の背中ぎこちなく撫でてくれた。シュウ、やっぱり優しいね。
そうして少し落ち着いたら、なんだか恥ずかしくなってきたのでシュウから少し距離を取る。
「いきなり、ごめん、ね」
「いえ?驚きましたけどリンさんのハグならいつでも大歓迎ですよ?」
こういうこと笑顔でサラリと言えるんだからイケメンはズルいよなぁ。なんだか悔しくなってきたので話題を変えることにする。
「そういえばね、帰り際妖精王からこれもらったの」
「は!?」
もらった指輪をシュウに見せると、シュウはとても驚いていた。この指輪、2輪のフラワーモチーフの指輪で金をベースに7色の妖精石が色とりどりの花びらになっていて、とっても可愛いデザインになっている。
こんな高そうなものもらえないって固辞したんだけど、いいから貰っておけってグイグイ指にはめられちゃったんだよね。
これ付けて祈ると妖精石がなくても、精霊樹の前じゃなくてもいつでもどこからでもレーベルクに来れるらしいよ。すごい匠の逸品だよね。
「あのヤロウ!」
「し、シュウ?」
急にシュウが怒ったように吐き捨てたのでびっくりする。私が驚いた様子を見てすぐさま謝ってきたけど、いったいどうしたんだ。
「…すみません、取り乱しました。実は、俺もリンさんに渡したいものがあります」
「え、なに?」
シュウが倉庫からカバンとアクセサリーを取り出した。このカバン、シュウが持ってたやつと同じやつだ。こっちはネックレス?
「いきなり指輪はどうかなって思ったから遠慮したのに…こんなことならもっと早く贈っておくべきでしたね」
「え?」
「なんでもないです。カバンはあまり箱持ちを大っぴらにしない方がいいと聞きましたので、あった方が便利だそうです。それと、そのネックレスにグリフォンからもらった羽を付けるといいと思いますよ」
シュウがくれたネックレスは革紐に雫型のルビーのような赤い石のついたシンプルなものだった。鮮やかですごくキレイな赤だ。確かに、これに羽を付けるとかわいいかも。早速ごそごそと腰に付けていた羽をネックレスに付ける。おお、シンプルだけど可愛いじゃないか。
「俺も…その、お揃いですが」
そう言って、シュウもつけていたネックレスを見せてくれた。革紐に雫型の青色のサファイアみたいな石がついていた。私のやつの色違いだね、こっちもキレイな色。
「ありがとう!シュウのやつもかわいいね」
「いえ、リンさんが喜んでもらえたなら俺も嬉しいです」
「えへへ、うれしいよ!アクセサリー貰ったのなんて初めてだし。今度なんかお返しするね!」
迷ったけど、指輪は右手の薬指にはめることにした。一応、王様からの贈り物だから無下にはできないよね。シュウはなんだか複雑そうな顔をしてたけど、私がつけていたシュウにもらったネックレスを見て俺はペアだし、とニヤニヤしていた。
話も終わったので自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。考えなきゃいけないこと、たくさんあるよね。あ、ダメだ少し考えていただけなのにすぐに睡魔が襲ったきた。今すぐどうこうできるわけじゃないし、と自分にいい聞かせ、今日は寝ることにした。
次の日の朝、古城の広いダイニングでシュウ、ベルさんと一緒に朝ごはんを食べているとプーカたちから呼び出しがかかった。どうやらラビさんが着いたみたいだ。
連れてくるから待っていてほしいということなので、その場でそのまま待つ。
やがて、1匹の黒いうさぎが部屋に入ってきた。
「ああ、おめぇはあの時のお嬢ちゃんか」
「うさぎさんっ!」
ベルさんがラビさんに駆け寄って抱き上げる。ラビさんは突然のことでびっくりしていたけど、仕方ねぇなと言いながらベルさんの肩をポンポンと叩いていた。
「あんときビービー泣いていたおチビさんが立派になったもんだなぁ。いや、今も泣いてるか」
「うさぎ、さんっ、ごめんな、さいっ」
ベルさんがラビさんを抱えたまま泣きじゃくる。そんなベルさんを慰めるように、流れる涙を手で掬うラビさん。何が原因で別れることになってしまったのかは私にはわからないけど、離れていてもしっかりお互い想いあっていたんじゃん。見ているだけで伝わってくるよ。
邪魔しちゃ悪いから、とそっとシュウと共にダイニングを出る。ふふふ、ベルさん本当によかったね。
「なんかいいね、感動したね」
「そうですね」
居るとこも思い付かなかったので、古城の外に出て少し散歩することにした。うーん、相変わらず暗い。なんかここ最近暗い場所ばっかりな気がする。歩いていたら黒妖犬が近寄ってきたので撫でてやる。
この子たちも妖精なんだけど、どちらかと言うと動物に近いみたいでカロさんたちほど理性みたいなものはないらしい。頭はいいんだけどね。たどたどしくしか話すこともできないみたいなので、ほとんど喋らない。でも、ドーベルマンのような強そうな黒い犬の黒妖犬は見た目通り強いらしく、闇の城の番人みたいな役割をしているんだってさ。あ、そのまま番犬か。
私たちはお客さんだと主人のミツハに言い聞かされてるらしく、私たちを見ても攻撃せずじゃれついてくる。かわいい。
黒妖犬を撫でながら、その場に座り込む。とりあえず、無事にベルさんのことが解決してひと安心だ。
「サンファイユ皇国、どうやって行くんだろうね?」
「アルヴェラに戻ったらギルドマスターあたりに聞いてみましょうか」
「そうだね、そうしよ」
お腹を見せてくれる黒妖犬に和みつつ、次の目的をしっかりと確認する。
「ミツハちゃんにお礼しないとね。あと、カロさんとチロルにも」
「そうですね、一緒に考えましょうか」
シュウとお礼について話していると、カロさんとチロルが私たちに会いに来てくれた。カロさんとチロルになにかお礼がしたいと言うと、そもそも私たちがこの前のお礼をしきれていないんだから気にしないでと言われてしまった。
むぅ。でも今後はいつでもレーベルクにこれるし、またなんかおいしいものでも買って遊びに来るね、と言ったら喜んでくれた。




