第34話 妖精王オベロン
「待たせたようだな。おい、用意を頼んでおいた食事をリンに持ってこい」
「かしこまりました」
妖精王がメイドさんにそう言ってから少し経つと、広いテーブルの上には所狭しと見たことない料理が並んでいた。なにこれ、めっちゃ高級そうじゃん。
「遠慮せずに食べるが良い。全部リンのために用意したんだからな」
いただきますと声に出し、目に付いた料理から食べていく。いい肉なんだろうなというステーキ、何の肉かわからないソテー、スープはカボチャかな?この世界でどうやって作るのであろうテリーヌまである。うわ、どれ食べてもおいしいとかマジですか。気付いたら夢中になって食べてしまっていた。
そんな私の姿をにこやかに笑いながら優しく見守る妖精王。うぐぅ、完全に餌付けなのわかっているけど惚れてまうやろ…!
「俺らはあまり飯を食わないからいまいち善し悪しが分からんが。どうだ、口に合うか?」
「お、おいひいです」
「ふっ。そうか、リンに喜んでもらえたなら用意したかいがあったな」
急に話しかけられたので、もごもごと口にものが入ったまま答えてしまう。お行儀悪いよね、ごめん。でも妖精王はとても満足そうな顔をしているのでひとまず良しとする。
ごはんをごちそうになり、デザートまでもらっておなかいっぱいだ。デザートはベリーのムースだった。これまたもちろん絶品でしたよ。
食後のお茶をもらって寛いでいると、ふいに妖精王と目が合った。
「今回の件、重ねて礼を言う。我ら妖精じゃグリフォン同士の争いを止めるのは難しくてな」
「いえ、お役に立てて何よりです」
「それで、リンは稀人という話だったな。リン、お主は稀人についてどこまで知っている?」
「どこ、まで?」
どこまで、とは?妖精王の質問の意味がわからない。私がベルさんに聞いたのは確か…
「えっと、召喚魔法?で違う世界から呼び出された人のこと、ということくらいしか知りません」
「そうだな、その認識で間違っていない。過去にも稀人はいたし、俺も実際見たことがある。しかし、召喚魔法は本来禁忌の魔法なのだ。なぜだか分かるか?」
「いえ、わからないです」
「稀人はな、世界を渡る時になんらかの力を得ることが多いのだ。理由は定かではないが、ステータスもこの世界の者より高い…だからな、これを利用して悪用する奴もいるのだよ」
なるほど、つまりこういうこと。稀人はチートを持ってこの世界に来ることがほとんどで、ステータスも他の人より高いことが多いのだそう。私たちがCAのスキルや銃火器を使うことができたり、ステータスが異様に高かったのはそのためか。
それをいいことに、戦争など人を傷つけることに使うために異世界から稀人を呼び出す悪い人もいたらしい。それで、稀人の召喚魔法は禁忌になったのだ。
そもそも、召喚魔法には大きな代償が必要みたいで生半可な覚悟じゃできないみたい。大きな代償…つまり、魔法を使った魔術師は最悪の場合そのまま…ってこと?
私がこの世界に来たことにより、命を落とした人がいるかもしれないってこと…なんだよね。
「リンが気に病むことは無い。いわばお主は被害者なのだぞ」
「そう…かもしれないですけど。それでも、私が原因で誰かがひどい目にあうなんて嫌です」
「そうか…お主は優しいのだな」
じっと下を向いて少し考え込む。そんなこと、今まで全然思いもしなかった。妖精王は気落ちした私に気を使ってか、新しい紅茶を入れてくれた。ふわりと湯気と共にいい香りが立ち上る。
「いい香り…」
「リン、お主をどこの誰が召喚したか、知りたくはないか?」
妖精王の問いに思わず顔を上げる。そんなこと考えてもみなかった。そうか、私たちが召喚魔法でこの世界に来たのなら、呼び出した人がいるはずだよね。
誰が呼び出したのかがわかれば、私たちを召喚するときに魔法を使った魔術師さんもわかるかもしれない。その人たちが、どうなったのかも…
「知りたいです」
「そうか、リンならそう言うと思ったぞ。だがな、残念ながら俺もそれは知らないのだよ。だからリン、レーベルクでの用事が終わったらサンファイユに向かうといい。そこでならなにかわかるだろう」
「サンファイユ…?」
「サンファイユ皇国と呼ばれている国だな。そこで神に祈ればリンの聞きたいことを答えてくれるかもしれんな」
「神頼み…ってことですか?」
くすくすと楽しそうな妖精王。こっちは真剣に聞いてるのになんだか肩透かしを食らった気分だ。
「神頼み、そうかもしれんな。だが、さっきも言ったように稀人には不思議な力がある。あながち悪い手ではないと思うぞ」
うーん、確かに召喚魔法自体が禁忌なんだから、自分から異世界人を召喚しました!って名乗り出る人はいないよね。となると、他にいい案はないだろうし、サンファイユ皇国に行ってみつつ方法を探すのがいい気がしてきた。
「ありがとうございます。参考にします」
「うむ。ところで、話は変わるがリンの持っている武器について詳しく聞きたいのだが」
なんだか妖精王がそわそわと私の持っている銃火器について聞いてくる。やっぱり、男の人って銃とか好きなのかな。
「いいですよ、では…」
妖精王はいろいろ教えてくれたし、アドバイスもくれたからお礼に銃火器のことを詳しく教えようじゃないか。初めて見る武器に妖精王は目を輝かせて、私の話を熱心に聞いていた。
「なるほど、リンの世界には面白い武器があるのだな」
「うーん、世界っていうより…まぁそうですね」
今となっては現代で銃火器が使われることなんてほとんどないんだけど、そうなるとゲームの説明からしなきゃいけないし、それもめんどうだから言葉を濁して曖昧に肯定する。妖精王はさほど気にしていないようでほっとした。
「おっと、長々と話し込んでしまったな…っと、ちょうどリンの仲間も帰ってきたようだぞ」
「リンさん!」
シュウが私に向かって走ってくる。あれ、なんか知らないのカバン持ってる。王都のお店で買ったのかな?いいなぁ、王都楽しかったかな。
「くくっ、心配しなくても取って食いはしない」
「妖精王オベロン…ですね。シュウです。リンさんと同じ世界から来ました」
「ああ、知っているよ。くれぐれもリンをよろしく頼むぞ?」
「貴方に言われなくてもそうするつもりなので」
お互い初見なのにバチバチと睨み合うシュウと妖精王。イケメン同士は反発し合う性質でもあるのかな?そうじゃなくても、シュウはよく誰かとバチバチしてるよなぁ。
「シュウ、おかえり」
「リンさん、ただいま戻りました」
「王都楽しかった?いいなぁ」
「いろいろ見て回ったので、次はリンさんに案内しますね」
いつの間にか夕方になっていたので、妖精王にお礼を言い、ガーデンアーチをくぐって闇の城に戻る。
宛てがわれた部屋にはお風呂も付いており、私はとても感動した。この世界にもお風呂ってあるんだ、早速入るしかないじゃん…!久しぶりのお風呂を存分に堪能し、のんびりと湯船に浸かりながら今日の妖精王との会話を思い出す。王様と謁見なんて構えてたけど、思ったより緊張はしなかったな。妖精王は想像していたよりもずっといい人だったし、じゃなくていい妖精だったし。
あ、そうだ。妖精王と話したことについて、シュウにも伝えた方がいいよね。稀人のこととか、召喚魔法のこととか。
お風呂から上がったあと、最早懐かしいモコモコパーカーを部屋着替わりに着て、シュウがお借りした部屋の扉をノックする。
 




