第30話 熾烈なグリフォン同士の争い
「リン、ありがとうなの!こっちなの!」
私の肩に座っていたフィンちゃんがふよふよと飛んで私たちを案内する。森の中心部辺りでグリフォンたちは争っているらしく、場所はここからそんなに遠くないみたいだ。シュウは最後まで反対してたけど、妖精王の頼みごとだから仕方ないって言ったら文句を言いながらしぶしぶ着いてくる。本当にしぶしぶって顔してるけど。
「アレなの!」
「あぁーあれはひどいわ」
顔は鷲、身体は立派な翼の生えたライオンだけど実際のライオンより一回りくらい大きなグリフォンが魔法やスキルを駆使してバッチバチに争っている。
辺りには激しい戦いで抜け落ちた羽が散乱し、周辺の木々は倒れ、草花は刈られ、地面はそこかしこが抉れと散々な状況だ。これはこの争いが長引けば森もどうにかなるわ。
「リン、いまなのゴーゴーなの!」
「うえっ、ちょっ、マジで!?」
フィンちゃんに背中をグイグイ押され、争っている二大巨頭の前に押し出される。ちょっと待って、まだなんの準備もしてないんですけど!?主に心の!
「やめるの!森がどうなってるのか、あんたたちはわかってるの!?」
『なんだ、お前たちは』
うお、今の私じゃないよフィンちゃんだよ!グリフォンが、直接私の脳内に語りかけてくる。魔物だから話すことは出来ないけど、Aランクで知能が高いグリフォンは人の言葉がわかるようだ。
「えーと、妖精さんたちも困ってるんでその辺でやめません?」
『ふん、たわけが。群れの長を決める神聖な決闘を邪魔しおって。まずはお前から血祭りに上げてやろうか?』
『そうだ、それがいい』
グリフォンが爪をこちらに向けて威嚇してくる。うわぁ激おこじゃん。
シュウがすかさず私の前に庇うように立ち、グリフォンたちを睨みつける。
「たわけはどっちなの!ここに居るリンはあんたたちより強いんだから!」
『『なんだと?』』
二大巨頭さんが私をジロリと見る。私を見ながら少し思案したあと、ハンって鼻で笑った。あ、バカにされてんなこれ。
『ふははは、そんな小娘がわしらより強いと?』
『まだ日も高い。寝言は起きているときに言うもんじゃないぞ』
「むっきー!じゃあ証明してあげるの!リン、やっちゃえー!」
そこで私に振るんかいフィンちゃんよ!もうこうなったらグリフォンどもをフルボッコにするしかないじゃん!
「グリフォンさんたち、私に負けたらこの争いやめてくれる?」
『ふむ、良かろう。万が一にも小娘に負けたとなれば長なんか到底つとまらんからな』
『そうだな、確かにそうだ』
私が勝ったらこの争いをやめてくれるそうだ。…勝つしかないじゃん。
1体ずつならともかく、Aランクを2体相手取るのは正直きつい。正攻法じゃ無理だな。今回はガチの殺し合いではないから相手の戦意を喪失させれば勝ちってことだよね。同じようなグリフォン2体で分かりにくいし、とりあえず私の中で君たちはグリフォンAとグリフォンBだ。
「じゃあ、いくよ!シュウ、フォローしてね!」
『かかってくるがよい』
『相手をしてやろう』
秘技、シュウを頼るだ!お前ひとりで戦うんじゃなかったの?とか言うんじゃない!どう考えても私1人でグリフォン2体に勝てるわけないだろうが!
開幕、発煙弾をグリフォンたちに向かって投げる。辺り一帯に煙が即座に立ち上り、もくもくと視界が悪くなる。
『小癪な』
グリフォンAが風魔法を使い、充満した煙を一気に吹き飛ばす。どこからともなく風がぶわっと吹き、発煙弾の煙が上空に舞う。グリフォンAが視界が良くなったことでこちらを見たが、その場に私はもう居ない。私が弱そうだからって油断したな!
グリフォンAが風魔法を使っている側面に素早く回り込むと、クロスボウで羽の付け根を狙う。たかがクロスボウとバカにすることなかれ、CAのクロスボウはめっちゃ威力が高いのだ。その威力はAWMに次いで銃火器最強と言っても過言ではない。
グルァァッと唸り声を上げて、その場に膝をつくグリフォンA。よしよし、羽を狙ったからこれでもう君はしばらく飛べないね。
私がグリフォンAを相手している間に、グリフォンBが空を飛び、私を風魔法で狙っている。竜巻を出そうとしてるのかな?
大きな魔法らしく、出すのに少し時間がかかっているようだ。その間、グリフォンBは空中にとどまっている形になっているが、それはいい的になるだけだよ。うちのスナイパーはエイムが神がかってるんだからね。
ダァン!といい音がして、空にいるグリフォンBの羽を銃弾が通り抜ける。シュウはどうやら付近の生き残っている木の上から狙撃してるみたいだ。
シュウの狙撃を受けてドチャッとグリフォンBが落下する。地面に落ちたグリフォンBはシュウのいる木を見たが、どうやら狙撃後すぐに移動したらしく、シュウはもうそこにはいなかった。余程想定外の攻撃だったのか、グリフォンBは起き上がりながら周囲を警戒し、見回している。
その隙に、立ち上がったグリフォンAが私に向かって啄くように顔を突き出してきたので思いっきりナイフで上に弾く。不意をついたつもりだろうけど、来るのは見えていたのだよ。グリフォンAは驚いた顔をしていたが、私にナイフで弾かれたため強制的に上を向く形になった。このまま首をかっ切ればそれでお終いなんだけど、殺すことが目的な訳ではないので今回はそこまでしない。
「ちょっと大人しくしていようね」
グリフォンAのノーガードの喉元をナイフの柄で突く。不意に喉に一撃を食らったグリフォンAは声にならない声を上げて、突きの勢いで後ろに吹き飛んで行った。そのままバタリと地面に倒れ込み、起き上がってはこないようだ。思惑通り気絶してくれたかな?
そんなグリフォンAの様子を見たグリフォンBは私に迂闊に近付くのは危険だと判断したらしく、一定の距離を保つ。どこにいるかわからないシュウの存在もあり、どうやら攻めあぐねているみたい。そりゃそうだ、あんなに大口叩いたのに1匹は早々に戦闘不能になっちゃったからね。
「ねぇ、もう負けを認めて終わりにする?」
『ぐぬぬぬ、小娘どもめ。こちらが手を抜いているにも関わらず、いい気になりおって…』
今さら引く気はないみたい。なんか手を抜いている言ってたな。そう、じゃあ遠慮なくいっちゃいますよ?
私が動くのを察してか、痛む翼をはためかせ、こちらに無数の羽を飛ばしてくる。うわわ、こんなの避けられるかな?
「リン、僕にまかせて!」
「チロル!」
チロルが急に私の前に飛び出してきたかと思ったら、即座に結界魔法を展開する。飛んできた羽はチロルの結界にカンカンとぶつかり、地面に落ちていった。おぉ、チロルカッコイイよ!
チロルにお礼を言い、すぐ後ろに下がって目と耳を塞ぐようにみんなに伝えてもらう。
えーと、シュウはどこだ…あ、あの木の上か。さすがシュウ、準備は大丈夫みたいだね。私がなんも言ってないのに対閃光ゴーグル付けてるみたい。以心伝心かよ。
後ろを振り向き、みんなが目と耳を塞いだのを確認した私も閃光弾とゴーグルを倉庫から取り出す。
「さて、グリフォンさん。もう飽きたしそろそろ終わりにしようか?」
『ぐぅ、小娘がぁっ!』
私はわざとグリフォンBを挑発してこっちに向かってくるように仕向ける。思惑通り私にバカにされて頭に血が上ったグリフォンBは私に向かって突っ込んできた。
それを見て私はニヤリと笑うと、素早く対閃光ゴーグルを装備して閃光弾のピンを抜いてを投げる。グリフォンの足元に落下した閃光弾はカッと眩い光とキーンとする大きな音を放ち、破裂した。
『ぐおぉ、これは一体…!?』
音と光に驚いたグリフォンBが目を瞑り足を止める。鷲は目がいいから今の光モロに受けたらキツイだろうなぁ。
動きが止まった瞬間、シュウの銃撃がグリフォンBの前足を射抜く。それと同時に私はグリフォンBの側まで移動し、首筋にナイフを当てる。
「もう戦えないでしょ?これでお終い」
『ぐぬぬぬ…うむ、悔しいが我らの負けだ。潔く殺すがよい』
「殺さないよ。もともとグリフォンたちの争いを止めることが目的だもん」
戦意を喪失したグリフォンBを見てナイフをしまう。私たちの勝利だ。




