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第29話 風の森を歩いて

 

 朝になり、再び森の前に立つ。じっと森に目を向けると今日は晴天のはずなのに、森の中は夕闇のように薄暗い。ランタンが必要なほどじゃないけど、朝でこの暗さは落ち着かないなぁ。昼夜の感覚が無くなりそう。


「この森は出入口付近は暗いですが、中心部になれば普通の森ですよ」


 何回か通ったことがあるらしいカロさんがアドバイスしてくれる。


「リン、くらいのこわい?じゃあ、僕が手をつないでいくね!」


 チロルが人化したかと思うと、私の手をぎゅっと握る。ほんとに天使かよ。


「ありがとう、チロル。とっても心強い」

「えへへ!このままいこう!」

「ダメです!いつ何時魔物に遭遇するかも分からないんですから、しっかり構えて進みましょう!」


 私とチロルの手を振り切って、シュウが間に割り込んでくる。うーん、チロルの心遣いは確かにうれしいけど、シュウの言うことも一理あるかな。

 チロルに気持ちはうれしいよ、ありがとうと伝えると、しぶしぶ手を離す。同時に猫の姿に戻り、しゅんとしながら私の頭の上に乗っかった。ごめんよチロル…!


 いざ森の中に足を踏み入れてみると、やっぱりこれ風の森じゃないよ樹海だよと思う。魔物も出るって言ってたし、お化け屋敷かな。

 しばらく歩いていると、カロさんが急に私たちに注意を促す。魔物が近くにいるみたいだ。


「気配からするとボア系の魔物ですかね。動きが早くて獰猛なので注意してください」


 ガサガサと草木をかき分ける音がする。慌ててナイフを取り出した私の前に、大きな赤黒い猪が飛び出してきた。


「あれはグリムボアですね。正直、初めからこんなに強い魔物が出てくるなんて…」


 およ、カロさんの反応から察するに強いのか。グリムボアとやらは1番前にいた私を見て、フンと鼻息を荒くする。かと思ったら、ノータイムで私に突っ込んできた。


「ちょっ、早くない…!?物事には順序ってものがだなぁ…!」

「リンさん!」

「リン!」


 猪に戦いの是非を問うという我ながら無駄なことをしながら、後ろに誰もいないことを一瞬で確認する。いないようなので、突っ込んでくるグリムボアの背中に手をやり、跳び箱を飛ぶようにグリムボアの突進を一回転して避ける。ちょうどハンドスプリングって技のような感じになった。ぶっつけでやったけど上手くできて良かった…!完全にステータスが高いおかげだな。前世じゃ絶対できないよこんなこと。

 それと同時に、グリムボアに向かって毒のついた小さなナイフを投擲する。グランリールの街で仕入れた品だ。グリムボアの胴体にナイフが刺さり、動きを止める。毒が瞬時に回り始めたらしく、グリムボアは少しフラつき出した。


「風の精霊よ、我にその力を!〈ウィンドカッター〉!」


 風の刃がグリムボアを切り刻む。ベルさんの風魔法だ。それでもグリムボアはまだ倒しきれていないらしく、フラフラになりながらも殺気のこもった目でこちらを睨みつけていた。

 それなら首を落とそうかとナイフを構えて一歩踏み出そうとしたら、目の前のグリムボアが倒れ込んだ。どうやらシュウがトドメを刺したらしい。その手にはM4が握られていた。あいつ毎回いいとこ持ってくよな。


「シュウもベルさんもすごーい!」

「「何を言ってるの(んですか)、リンの(さん)方がすごいわよ(です)」


 おおう、2人ともハモってる。息ピッタリか。グリムボアが動かないとこを確認し、とりあえず私の倉庫に突っ込んでおいた。


「リンさん、俺に心配させないでくれって言ったじゃないですか!」


 シュウが怒ったような顔をして私に言う。確かに言われたけどさ、私に向かって突っ込んできたんだから今回はしょうがないと思うんだ。断じて言い訳じゃないよ!


「リン、貴方本当に強いのね。さっきの避け方すごかったわ」

「リン、カッコイイ!」


 チロルが私に飛び込んでくるので慌てて抱きとめる。いやぁ、ほんと避けられてよかったよ。余裕ぶってたけど死を覚悟したからな。


「リンさんたち、本当にお強いです。グリムボアをこれだけ楽に倒せるのであれば、この森の魔物は心配いりませんね」


 グリムボアはやはり強い魔物らしく、Bランクだそうだ。この森の魔物は強くてもBランクらしく、グリムボア以上の強さの魔物はほぼいないそう。…うん、フラグとかじゃないよね?

 その後もチラホラ出てくる魔物を倒しては回収しながら、私たちは順調に進んでいった。


 森の中を進むにつれ、樹海のようだった森は姿を変え、風の森という名前らしい風が木々の葉を揺らす穏やかな森になったいった。森の中央へ行くほど樹木の背が低くなっているらしく、奥へ行けば行くほど陽の光も入ってくる。


「ようやく半分くらいですかね?」

「そうですね、このままのペースで行くと明日には王都に着きます」


 久しぶりに感じる太陽の光を身体に浴びて、うーんと背伸びをする。ああ、とってもいい気持ち。魔物は出てるけど対処できてるし、大きなトラブルも何にもなくて何よりだよ。

 …って思ってたそばからなんか聞こえない?


「そこのひとたち、お願いがあるの!」


 黄緑色の髪に深緑の目、長く尖った耳。2リットルのペットボトルくらいの大きさの羽が生えた妖精がこっちに向かって飛んできてる。うん、きっちりフラグ回収しなくてもいいから!


「助けてほしいの!グリフォンが暴れてて困ってるの!」

「グリフォン?」


 見た感じ風の森の妖精さんかな。ぜぇぜぇ肩で息をしながらこちらまで飛んできたかと思ったら、私の肩に座る。許可してないぞ?


「で、グリフォンがどうしたの?」

おさを決めるとかでグリフォン同士で争いが起こってて、その被害があちこち出ててたいへんなの!」


 疲れ切った顔の妖精さんがそう告げる。グリフォンって言うとくちばしが鋭い鷲の頭にライオンのような身体のアレか?結構強ポジションの子だよね?

 そんなヤツらが仲間内で争ってたら、そりゃ他所に被害も出るわな。


「グリフォン…Aランクの魔物です。縄張りに入らない限りは襲ってこない比較的温厚な魔物ですが…ところで、どうして私たちの所へ来たのですか?」

「おねーさんたち、グリムボアを倒せるくらい強いの!だから、グリフォンの争い止めて欲しいの!」

「はぁ」


 思わず気の抜けた返事をしてしまった。あーなるほどそういうことね。この子はきっと私たちがグリムボアを倒すところを見ていたんだ。

 それで、グリムボアをあれだけ軽々倒せるんだからグリフォン同士の争いも止められると思ったんだな。うん、できればやりたくないよそんな火中の栗を拾うようなことは。ただのフラグどころか死亡フラグじゃん。


「やりません。他を当たってください」

「そ、そんなぁー!」


 さすがシュウ、バッサリいったね。妖精相手でも容赦の欠けらも無い対応。即答されて悲しそうな驚いたような顔をした風の妖精さんだったけど、思い出したみたいに顔を私に向ける。


「でもでも!フィンがお願いしたいのはそこのおねーさんなの!争ってるグリフォンは2体なんだけど、そいつらをどーんと懲らしめちゃってほしいの!」


 私か、私に頼んでるのか!私だってそんな役回りいやだよ!やりたくないよ!


「えぇー…やりたくないよそんなこと」

「そう言わずに!フィンが見た感じだとこの中でグリフォンたちと対等に戦うことができるのはおねーさんだけなの!」


 風の妖精、フィンちゃんって言うらしいけど、グリフォンは風の魔法が得意な魔物でスピードも早いんだそう。

 シュウはエイムは上手いけど動きの早いグリフォン相手だと機動力が心許なく、ベルさんはそもそも魔術師だからグリフォンとガチで対峙するのは厳しいみたい。その点私はナイフがメインだから機動力も高く、スピードもグリフォンに引けを取らないとか。


「このままじゃ森がめちゃくちゃになってしまうの!お願い、風の妖精を…この森を助けてほしいの!」


 話が一気に大きくなってきたな。フィンちゃんが言うには、グリフォンたちとタイマンをして力の差を見せつければバカな争いも止まるはず!だそうだ。そんな無茶な。

 あっ!もしやこれか!?妖精王が風の森を通っていけって言ってた理由!


「カロさん、もしかしてこれが妖精王の頼みごと?」

「ありえますね…グリフォン同士の争いなんて私たち妖精じゃ止めるのも難しいですから」


 何めんどくさいことしてんだよ妖精王!まだ会ったことないけど次会ったら絶対1発入れる!顔に!覚えとけよ!

 はぁ、でもそういうことなら手伝うしかないか。このまま風の森がめちゃくちゃになるのもなんかアレだし、今のところ私にしかなんとか出来なさそうだし。腹を括ってやるしかない。


 フィンちゃんにとりあえずグリフォンのところまで案内してと伝え、グリフォン同士が争っている場所までしぶしぶ向かうことにしたのだった。




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