第3話 呼び方とナイフと向かう先
いざ街を目指して歩き始めたはいいが、道どころかこの世界のことすらわからない私たちは早々に途方に暮れた。
「藤原隊長!見渡す限りの草原であります!どっちに行けば人に会えるのかサッパリであります!」
「とりあえずある程度方角を決めて歩いていくしか無いですよね。食料や水の問題もありますし、日が暮れる前になんとかしたいとこです」
そうか、その問題もあるんだな。
今はお腹も空いてないし、何か飲みたい気はするけどノドが乾いているわけではない。
恐怖が薄れて持ち前の楽観的思考が戻ってきたはいいが、私はやはり物事を軽く考えすぎているようだ。
考えた結果、愛用のナイフを地面に立て、そっと倒してナイフが指した方向に進むことに決めた。
私は私の信じるナイフに全て託す…!
後輩くんは呆れを通り越して生暖かい目でこちらを見ていたが、真剣な私はそんなことには気が付かなかった。
いそいそとナイフを地面に立て、地面と直角になったところでそっと手を離す。
バタリと倒れたナイフは東の方角を指していた。
「こっちだな!」
「東ですね、わかりました行きましょう」
向かう方角も無事に決まり、歩き始めて数十分たった頃、草原を抜けると舗装されたような道に出た。
「この道、通りやすいようにある程度舗装されています。ということは、この先になんらかの集落がある可能性が高いですね」
「おお、さすが私のナイフちゃんの選んだ道だわ!」
「そうですね、そういうことにしておきましょう。」
「そうだ!いいこと思いついた!後輩よ、ちょっと周囲の警戒頼んだ!」
「はい?急に何を…?」
私に神の啓示が降りた。
というのは比喩表現で、私は倉庫の中からSRの中でもお気に入りのAWMを取り出した。
私は元々SRはあんまり使わないけど、後輩くんに対抗してSRを使うときなどは必ずこのAWMを使っていたのだ。
なにを隠そうこのAWM、CAで使うことのできるSRの中で1番威力が高い。
基本的に脳筋の私はこういう分かりやすく強い武器が大好きだ。
CAは無(理のない)課金で遊んでいたが、このAWMを手に入れるためにいつもより少し多めに課金したなぁ。うん、必要経費だったわけだし、今となっては懐かしい思い出だよね。
後輩くんは私の急な行動に呆気にとられた様子だったが、きちんと周囲の警戒はしてくれてるみたいだ。
アタッチメントに1番倍率の高い8倍スコープ(ハチスコ)を装着し、地面に伏せてスコープを覗く。
これならかなり先まで見渡せるので、人がいるかも分かるはずだ。やはり天才か。
「なるほど、先輩、そういうことには頭が回りますよね。」
呆れたのか感心したのかよく分からない声色の後輩は華麗にスルーし、舗装された道の先をスコープの狭い視界ごしにじっと見る。
「あれは、街というよりは村っぽいかな?おっ、近くに農家みたいな人がいるよ!」
「えっ、本当ですか!?」
人を発見して少し感動。
白いシャツに薄茶色いのチノパン、長靴っぽい靴に麦わら帽子。これぞ農家!みたいな定番のスタイルだ。
だが、衣服はどれもお世辞にも綺麗とは言えず、この村での暮らしぶりがなんとなく想像できた。
スコープから目を離し、立ち上がるとAWMを倉庫にしまう。
「この先にあるのは小さな農村っぽいね」
「なるほど。ところで、ずっと思っていたのですが先輩、その格好は何ですか?」
後輩くんが私の姿を全身くまなくじっと見る。そこでようやく気が付く。そういえば部屋着で召喚されたため、私は今とてつもなく場違いな格好をしているのだった。
「いいでしょ別に!可愛いものが好きなんだよ!」
「まぁ確かに可愛いですが。俺も人のこと言えませんし、ね」
こいつサラッと可愛いとか言いやがって。皮肉か、それとも嫌味なのか。ケンカならいつでも買うぞ?
確かに後輩もかなりラフな格好をしており、私ほどではないが十分場違いな格好だった。
「このまま村で過ごすとなると怪しまれるかもしれません。村に入るときにはなんとか誤魔化して、着いたら早めに衣服を調たちしましょうか」
後輩が私をじっと見つめて腕を組む。思ってることが透けてるぞ。まったく、失礼な後輩だよ本当に。
「服もそうだけど、呼び方がお互い先輩、後輩じゃ変なのかな?」
ふと疑問に思ったことを口にしてみる
「そう言われてみればそうかもしれませんね。この世界がどんな名前がメジャーなのかもわかりませんし、お互い名前を少しもじって呼ぶのはどうでしょうか?」
「名前をもじる…」
となると、私は凛花だからリン、後輩くんは確か柊示だからシュウという感じか。
「うん、悪くないねそれ。元の名前とかけ離れちゃうと慣れないしな!」
「じゃあ、これからはリンさんって呼ばせてもらいますね」
「おう!じゃあ後輩くんはシュウな!」
「ふふ、異世界に転移なんてこれからどうなる事かと思いましたが、リンさんと一緒でよかったです。これからも、よろしくお願いしますね?」
後輩くん改めシュウがこちらを見て笑顔でそんなこと言うもんだから、なんとなく気恥ずかしくなる。
「任せろって!」
わざと明るく、シュウに向かって親指を立てる。決して照れ隠しなどではない。シュウはそんな私の様子を見てニコリと笑うと、視線を村の方角に移す。
「格好も格好ですし、俺たちは遠い田舎の国から出て来た冒険者志望という設定にでもしましょうか。そうすれば、この付近のことを知らなくてもそこまで怪しまれないはずです」
「確かにそうね。とりあえず、適当に話を合わせて情報を入手しようかね」
そんなやり取りをしながら歩いているうちに、いつの間にか村の目前まで来ていたようだ。先ほどスコープで覗いた時も思ったが、かなり質素な村だ。
まるで教科書に出て来た江戸時代の街並みのような、茅葺き屋根のそこまで大きくない平屋が畑のそばにあちこち経っている。
この村の畑では色々な作物を育てているのか、野菜っぽい畑や麦を育てているような畑など、統一性はなくバラバラだった。
こう言っちゃあれだけど、ゲームのRPGとかでいうと特に大きなイベントも発生しない、立ち寄らなくてもいいような村っぽい雰囲気。それでも確かにこの世界に生活している人がいるんだから、多くはなくても情報は得られるはずだ。
「ぐっ、なんだか緊張するな…」
「リンさんが失言しても、俺がフォローするのでいつも通りでいいですよ?」
「よく考えてみれば、私が行くよりシュウが声をかけた方がいい気がする。さぁ、行くがよい!」
「なんですかそれ。でも、確かにと思う自分がいるので俺が行きますね」
秘技、人に任せるだ!
その時ちょうど、鍬を持った40代中盤くらいのおっさんが近くの家から出てくるのが見えた。これから農作業をするのかな?
シュウはその人に声をかけることにしたのか、おっさんの方に歩いていく。
ここで待ってるのもなんなので、私も一緒に話を聞くためにシュウの後ろを着いて歩く。
「あの、すみませ…」
「なんだお前ら!!どこから来たヤツらだ!!」
シュウの声かけを遮ってそう怒鳴ると、こちらに持っている鍬を向けていきなり敵意を全開にしてきたおっさん。
そんなおっさんの怒鳴り声に呼び寄せられるように、周囲の家からワラワラとおっさんが出てきて私たちを囲む。
その手にはそれぞれ鎌やピッチフォークなど、見方を変えれば武器になるような農具を携えている。
ちょっと待って、ただ声をかけただけなのに、なんでこんなに囲まれなきゃいけないのよーーー!