第25話 フェリアン魔法研究所所長
「えっ、ほんとに?」
まさかこんなにあっさり会えるなんて思ってもみなかった。王様とかレベルで会うのが難しいんだろうなって構えてたのに。
ザールさんと所長さんは冒険者ギルドと研究所の付き合いだけでなく、プライベートでも気の合う友達でお互い旧知の仲なんだとか。
どうもフェリアン魔法研究所の現所長、ラルフさんは面白い物に目が無いらしく、一に研究二に研究の生粋の研究バカなんだそうだ。特に面白いものを鑑定して知識を広げることに熱心で、自分の知的好奇心を満たすためなら思いがけない行動をとることもしばしばあるという。
鑑定スキル、やっぱり存在するんだね。持っている人は羨ましい限りだ。今回は見たことも無い武器に興味を惹かれ、二つ返事でOKしてくれたらしい。ありがたや。
「これから時間が取れるから研究所まで来いって書いてあるぞ」
「行きます!」
こっちとしてはありがたいけど、フットワーク軽すぎない?研究所の所長、暇なのかなぁ…
ラルフさんの好意に甘え、研究所を訪問することにする。ザールさんも興味があるらしく、同行することになった。
アルヴェラの街に入ったときも思ったけど、フェリアン魔法研究所は近くで見ると本当に大きい。中の作りも凝っていて、入ってすぐには大きなエントランスがあり、ここから各分野ごとの研究所に行けるようになっている。そっか、古城の周りにある塔は分野ごとの研究所だったのね。塔は確か6つ建っていたから、主に6つの分野にわかれて魔法の研究をしてるのかな。
エントランスには来客用の受付カウンターがあったので、ラルフさんにアポを取っていることを伝える。ラルフさんも言伝してくれてあったのか、すんなりとエントランスの奥に案内してくれた。この先に行くには魔法のゲートをくぐるのが必須になる。このゲートは過去に犯罪歴がある人を選別し、仮に該当した場合先へ進めない仕組みになっているらしい。すごいハイテクだ。
ゲートから先は立ち入り禁止区域になっていて、人気もだいぶ減った。しばらく廊下を歩いていると、中庭に出た。この辺りでは薬草が育てられてるみたい。なんの花か分からないが、色とりどりのキレイな花々が咲いている。
そんな中庭のさらに奥の方に、なんだか貫禄のある大樹が鎮座しているのが見えた。立派な幹、葉は青々と生い茂り、枝は光を求めて上へ上へと伸びている。感覚でわかる、あれが精霊樹だ。
精霊樹を横目で見つつ、今は大人しく案内に従う。今は許可をもらうことが先だ。しばらく歩いていくとやがて大きな扉の前まで来た。ここが所長さんのお部屋になるらしい。
「所長、例の方々を連れてきました」
「入りたまえ」
ギィ、と両開きの大きな扉が開く。所長さんのお部屋もギルマスさんたちの部屋のような作りで、ここは書類仕事などの執務兼来客の接待用の部屋みたいだ。
「ようこそ、フェリアン魔法研究所へ。研究所所長のラルフだ」
ラルフさんは40代くらいのダンディーなおじ様だった。うん、いかにも研究所の所長さんって感じだ。
「よう、ラルフ。元気そうだな。コイツらが例のアレだ」
「おおっ、君たちか!早速武器を…」
「まぁ待て。ベルガモット、お前何が目的だ?お前がなんの要求もせずにこっちに利があることを提案するとも考えにくい」
射抜くような視線でザールさんが私たちを見る。うう、威圧感がすごい、今なら蛇に睨まれたカエルさんの気持ちがわかる気がする。
そんな視線を受けてもベルさんは怯みもせず、相変わらず妖艶な笑みを浮かべたままだ。あ、よく見たらシュウも平然としてる。なんで私だけこんないたたまれない気持ちになっているのだ。解せぬ。
「うふふ、武器を見せる代わりに、ちょっとしたお願いがあるだけよ」
「ちょっとしたお願い、ねぇ。それはなんだ、言ってみろ」
「〈精霊樹〉を私たちに見せて欲しいのよ」
「はぁ?精霊樹だと?そんなもん見てどうす…」
「君たち、妖精王国に行くつもりなのかい?」
ザールさんの話を途中で遮って、ラルフさんが会話に入ってくる。
「所長サンにはお見通しなのね。ええ、私たちは妖精王国に行きたいの。だから精霊樹まで案内して欲しいのよ」
「ふむ…行き方を知っているのか。だが、方法を知っているだけでは行けないということもわかってるんじゃないか?」
「ふふ、それなら大丈夫よ。リンがいるもの」
あ、ここで私に振るのね。ザールさんとラルフさんが一斉に私を見る。さっきのザールさんの威圧で縮こまっている私を見て、こいつが?みたいな顔するのやめて。なんかごめん。
「まず、妖精石はどうするのかね?」
「リン、悪いけど出してあげてくれるかしら」
ベルさんに言われるがままに、机の上に倉庫から取り出した妖精石をバラバラと出す。それを見てザールさんとラルフさんは驚いているようだった。
「驚いたな、こんな上質な妖精石、しかもこれだけの数を…一体どうやって手に入れたのかな?」
「えーと、成り行き、ですかね」
「成り行き…そうか、妖精本人にもらったんだね。君は妖精が見えるのか」
ベルさんのときもそうだったけど、ラルフさんにも見ただけで一発で当てられてしまった。っていうか、妖精って普通見えないもんなの?
「これだけ質のいい妖精石、しかも7色全て揃っている。通行料はこれでいいが、資格はどうするつもりかな?」
「それも心配いらないわ。リン、お願いなんだけど、彼らにステータスを見せてあげることはできる?」
「他言無用って約束してくれるならいいですよ」
2人とも神に誓って他には言わないと約束してくれたので了承する。この世界で〈神に誓って〉というワードは特別な意味があるらしく、契約を履行すると罰が下るらしい。簡単に説明してもらっただけだから詳しくはわからないけど。それなら安心かな。
「ステータスオープン」
私のステータスが周りにもわかるように開示される。
「称号〈妖精の祝福〉…そうか、君は資格を持っているのか。リンちゃん、君は門を開くことが出来るんだな」
やったことないから断言はできないけどね。でも条件的にはできるっぽいし、試してみる価値はあるかな。
なんか憧れ?というか羨望の眼差しでラルフさんが私を見てるよ。
「すごい、すごいぞ。妖精王国に行った人間なんてここ100年以上いなかった。君たちが行けるとなると歴史的大事件だ。僕が生きているうちにこんな事が起きるなんてなんて運がいいんだ、奇跡としか言いようがない!」
見てわかるくらいとても感動してるラルフさん。ノリが海外ドラマとかの外国人っぽい。妖精王国にいけるっていうことはそんなにすごいことなんだね。
「嬢ちゃんのステータスにも驚いたが…妖精、実在するのか」
黙って話を聞いていたザールさんがぼそりと呟く。
「いますよ、妖精さん。実際に会いましたから」
「やはり会ったのか!どんな妖精に会ったんだ!?詳しく話を聞かせてくれ!」
ラルフさんがすごい反応して詰め寄ってきた。びっくりしていたら、シュウが即座にラルフさんと私の間に入った。シュウにお礼をいい、無意識にシュウの手をぎゅっと掴む。
ラルフさんはそれで少し冷静になったのか、ごほんと1つ咳払いをして佇まいを直した。いくらダンディなおじ様とはいえ、急に迫ってこられるのは少し怖いから助かった。
「私が会ったのはケット・シーという猫の妖精でした」
「ケット・シー!幸運の妖精と言われている妖精か!」
実際に妖精に会った人は数少ないと聞いていたけど、どうやら本当に少ないようだ。ラルフさんもザールさんも見たことがないらしい。ラルフさんは物知りだけど、それはほとんど過去の文献からの知識みたい。
初めて生で聞く妖精の話にテンション最高潮なラルフさんが満足行くまで、私はカロさんやチロルの話をさせられるのだった。




