第20話 テンプレ魔女のベルガモットさん
「う、ん?」
目が覚めたらそこは宿屋でした。あ、そうだ。私、お酒飲んで寝ちゃったんだっけ。シュウが連れてきてくれたのかな、なんか申し訳ない。
のそのそとベッドから身体を起こす。私はどれだけ寝ていたんだろう。えーと、確かエドガーさんと話してて、その後昼間から冒険者ギルドの酒場で飲んでたんだっけ。窓の外を見る感じ、今は夕方前くらいかな?
「リンさん、起きました?気分はどうです?これ、水です。飲んでください」
「お嬢ちゃん、大丈夫?あなた、酒場でそのまま寝ちゃったのよ?」
シュウからお水を受け取り、ごくごくと飲み干す。うー、頭が冴える。気がする。
「はぁ、それはそれはご迷惑をお掛けしました…私は家に帰りますので」
「リンさんっ!?家ってどこですか!もう、しっかりしてください!」
「まだ起きたばっかりで頭が働いてないわね…仕方ないわ。これを飲みなさい?」
お姉さまが私に小瓶を差し出す。とりあえず言われるがままに飲むと、飲んだ瞬間、一気に頭が冴え渡る。これ、知らずに飲んだけどポーションの類かな?苦い薬のような味がした。
「ああ、また知らない人からもらった知らないもの飲んで!」
「ふふっ、素直なのね。私はベルガモット。ベルでいいわ。ねぇ、リン?」
「あ、ベルさん、ですね。薬ありがとうございます。リンです」
「知ってるわ。この子がリンさんリンさんうるさいんだもの」
妖艶なお姉さまはベルガモット、ベルさんと言うらしい。さっきもらったのはただの気付け薬で、特に身体に害はないそうだ。苦かったけど、気分は大分楽になったかな。ベルさんに感謝だ。
「ところで、なんでベルさんもここに?」
「酒場でリンが寝ちゃったあと、この子がリンを抱えて連れて帰るって言うんですもの。リンが心配で押しかけたのよ」
ははぁ。つまり、ベルさんも私を心配してここまで来てくれたってことか。それはありがたいが申し訳ないことをしちゃったな。
「ありがとうございます。おかげさまで元気になりました」
「あなた、全然わかってないわね?この子はリンに…」
「それは!もういいから!ベルガモットさん、本当の要件を言ってください!」
ベルさんが何か言いかけたけど、それをシュウが遮る。ベルさんはどうやら、さっき私たちが話していた「妖精王国」のワードについて話を聞きたかったそうだ。それで私たちに声をかける機会を狙っていたらしい。シュウ狙いでも私狙いでもなかったのか。
「妖精王国に行きたいって言ってたじゃない?貴方たちがなんで妖精王国を知っているのかも含め、話がしたかったのよ」
「ふぅむ、なるほど。私はてっきりシュウ狙いなのかと思ってました」
「この人は俺と言うよりはどう見てもリンさん狙いでしょうに…」
「ふふっ、リンは本当に可愛いわね。このイケメンくんもいいけど、私が興味あるのは貴方よ、リン?」
そう言いながら、妖艶なお姉さまがベッドに座っている私に迫ってくる。ギシリとベッドが軋んで私とベルさんの距離が縮まる。やだ、ベルさんめっちゃいい匂いする!なんだかイケナイ扉を開きそう…!
「ハイハイ、ストップ。リンさんにそれ以上近寄らないでください」
シュウに抱きかかえられるようにして、ベルさんとの距離を離される。えっ、ちょっと待って!シュウもいい匂いする!私と一緒で身体を拭く位しかしてないはずなのになんで…イケメン補正が入ってるのか?
「あのー、リンさん。嬉しいですがちょっとくすぐったいです」
「あらあら、仲良しさんなのね。おねぇさん妬けちゃうわ」
私はふんふんとシュウの首元に顔を寄せて嗅いでいたらしい。上を少し向くと超至近距離でシュウと目が合う。あ、シュウが顔真っ赤にして目を逸らした。
とりあえず、シュウから離れてベッドに座り直す。ベルさんにきちんと理由を聞かないとね。
「妖精王国、確かに行きたいと言いました。ですが、それをなぜベルさんが知りたがるのですか?」
「そうね…そもそも妖精王国自体、知らない人の方が多いのよ。でも、それを貴方たちは知っている。それに、なんだかリンから妖精の気配がするわ」
妖精の気配…?そこで私はふと気づく。妖精石か!倉庫から妖精石の入った袋を取り出す。
「もしかして、これ?」
「これは…妖精石じゃない!しかも、こんなにたくさん…リン、貴方これをどうしたの?」
「これは…とある方からお礼に貰ったものです」
妖精石は貴重なもんだからむやみやたらに見せるなってノルドさんに言われたけど、なんとなくベルさんなら大丈夫だと思う。一応、カロさんとチロルのことは伏せておくけどね。
「そう、貰ったのはきっと妖精ね。こんなに上質な妖精石、妖精王国以外では手に入らないもの」
私が出した妖精石のひとつを手に取り、上に掲げる。妖精石がキラキラと光を反射してより一層輝きが増す。すごいな、そんなこと見ただけでわかるんだ。
「えっと…ベルさんは妖精王国に行きたいんですか?」
「そうね、私は妖精王国に行きたい。そのために妖精石を集めていたの。でも、リンが持っている妖精石を使えば行くことが出来るわね…ねぇ、お願いがあるの。私も妖精王国に連れて行ってくれない?」
ベルさんも妖精王国に行きたいらしい。どうやら、妖精王国に行く方法も知っているようだ。さすが見た目がテンプレ魔法使いなだけある。
でも、どうすればいいんだろう。シュウに聞いてみようかな?いまだにベッドに突っ伏してるシュウを軽く揺する。起きる気配がないので、耳元で名前を読んでみる。
「シューウー?」
「うおわっ!リンさん!」
ガバッと起き上がると、やはり顔を赤くしてこっちを見てる。熱でもあるのだろうか。お構い無しにシュウに近寄って、小声でさっきまでの話をする。
「リンさん、近いです…!」
「あのね、ベルさんが一緒に妖精王国に行きたいんだって。どうする?」
「はっ、えっ?ベルガモットさんが?」
チラリとシュウがベルさんを見たので、私も一緒にベルさん見る。ベルさんは妖艶な笑みを浮かべ、楽しそうに私とシュウを見ていた。
「リン、その男に聞いてもダメって言うに決まってるでしょう。今まではせっかくリンと2人旅だったのに、私が一緒だとリンを独占できなくなっちゃうから。ねぇ、シュウくん?」
「当たり前です。リンさんは渡しませんから」
えーと、つまりどういうことだってばよ?っていうか、なんかふたりの間に火花がバチバチ散ってる気がするのは気のせいかな?
「あの、ベルさん。一緒に行くのはいいんですが少し事情があっ…」
「リン、ありがとう!大好きよ!」
話の途中なのにガバーっとベルさんが抱きついてくる。あう、いい匂いがするだけでなく、お胸がとても柔らかいです。
「だから!必要以上にリンさんに近づくなと言ってるでしょう!」
「なによ、羨ましいんでしょう?代わってあげても良いわよ?」
「なっ!」
「シュウ、すごいよ。ベルさんめっちゃいい匂いしてやわらかいよ!シュウもやっぱり男の人だし、気になるんでしょう?」
「「は?(え?)」」
シュウとベルさんが同時に声を上げてこちらを見る。やがて、ベルさんは貴方も苦労するわね、とくすくす笑いだし、シュウはガックリと項垂れる。
なんだかよく分からないがとりあえず、ベルさんも一緒に妖精王国に行くことになったらしい、のかな?




