第19話 ランクアップと謎のお姉さま
朝ごはんを宿屋の食堂で頂いた後、とりあえず冒険者ギルドを目指す。防具を新調してルンルン気分で「風狼の群れ」から少し歩くと、冒険者ギルドが見えてきた。
冒険者ギルドの木戸を開くと、中にいた人が一斉にこっちを向いた。昨日はそんなこと無かったのに、なんで?なんだか落ち着かない気持ちで受付カウンターに向かう。昨日シュウにアピールしてたおねーさんではなく、ほんわかした雰囲気がかわいい緑色の髪のお姉さんだった。
「シュウ様にリン様ですね。ギルドマスターが2階でお待ちです」
ものすごく丁寧な扱いで2階へと案内される。とても落ち着かない。
「おう、お前らか。待ってたぞ。防具揃えたんだな。いいじゃねぇか」
「エドガーさん!なんか冒険者ギルドに入った瞬間いろいろな人に見られて落ち着かないんですけど…」
「ああ、昨日のオーガ討伐のことが知れ渡ったらしくてな。お前らは今注目の的だな」
なるほど、そういうことならまぁわかる。緊急依頼って余程のことがなければ出ないって話だし。
「昨日のオーガだがな、調べたところありゃ希少種だった」
魔物は同じ種類でもランクみたいなものがあって、通常種、特殊種、希少種の主に3種類らしい。
通常種は普通にいる種類。一般的によく見るのはこのタイプなんだとか。
特殊種は通常個体が何らかの理由で特別なスキルなどを獲得した種類で、通常種より強くなっている。
希少種は存在自体が稀で、特殊種が後天的に強くなっているのに対し、先天的に通常種とは違っているそうだ。見る人が見れば違いは一目瞭然らしいが、生憎私には分かりそうにないかな。そもそもどんな魔物がいるかなんて知らないしね。
「希少種ですか。ってことは珍しいってこと?」
「珍しいな。特殊種のオーガは何回か見たが、希少種のオーガなんてここ最近どこのギルドにも上がってきてないんじゃないか?」
ほえー、そんなに珍しい相手だったんだね。エドガーさんいわく昨日のオーガはまだまだ成体になりたてだったらしく、戦闘経験も浅く動きもそんなに早くなかったためなんとかなったのだとか。それでも希少種には変わりないということで、エドガーさんは満足そうな顔をしていた。
「希少種っていうことだったので、追加で金貨20枚の依頼報酬を出す。あと、買取の査定も出たから一緒渡すぞ」
ドンドン!と昨日よりも大きな麻袋を机の上に出すエドガーさん。私たちが呆気に取られていると、買取の内訳を説明してくれた。
「オーガはな、角と皮と魔石が買取対象になっている。今回は角が金貨30枚、皮が金額80枚、無属性の大きいレア魔石が金貨120枚だ。肉は食っても美味くないしな。久しぶりの希少種ということで価格は跳ね上がったぞ。もう方方から買取の依頼が来てるしな。いやぁ、嬉しい限りだ」
ちょ、段違いに買取高くない?オーガの角は薬の素材、皮は防具になるらしいが、希少種のものとなると通常種より数倍以上いいものができるそうだ。特殊種や希少種は魔石そのものも通常種とは違うらしく、多少高くても欲しがる人は後を絶たないとかなんとか。
「こんなに…」
「あ、あとお前らのランクをEランクからCランクまで上げておいたぞ」
「えっ!?なんで!?」
「俺も多少手伝ったとはいえ、2人でオーガの希少種を討伐できるんだ。本当はCと言わずBかAにしたかったんだぞ。しかし登録して日が浅いことを考えてこうなったんだ。あまり早くランクが上がるとやっかみとかもあるしな」
サラッと怖いこと言わないでよエドガーさん。っていうか、日が浅いというよりも登録したの一昨日なんですけど?浅すぎるにも程がある。
そもそも、ランクを上げるというのは結構大変な作業らしい。難しい依頼を数多くこなして行けばランクも早く上がるが、やはり危険が伴うし。ちなみに、ランクが上がる時には実力を測るための試験があるらしいが、今回はエドガーさん直々にランクを上げてくれたのでナシだそうだ。そもそも一緒にオーガと戦ったし、本人と模擬戦までしたもんね。
「え、あ、ありがとうございます?」
「なんで疑問形なんだ。素直に喜べよ」
「いや、だって展開早すぎて。登録してまだ3日間でCランクになるとは思いませんでしたし」
「そういや、こんな短期間でそこまで上がったのは史上最速だな」
なにそれめっちゃ目立つじゃん!そうかみんなが見てたのはそれが原因か!細々のんびり暮らしていきたいのにあんまりだ。
エドガーさんとの話を終え、新しくCランクとなったギルドカードを貰う。エドガーさんはそのまま仕事をするということなので、フラフラになりながらなんとか1階に戻る。とりあえず落ち着けるために、ギルドに併設されている酒場に入ることにした。
「飲むー!エールください!」
「あいよー!」
「ちょ、リンさん、飲むのはいいですが程々にしてくださいね?」
むぅ。最近シュウが私のお世話係と化している気がする。元々私はそこまでお酒が飲めるタイプではないのだが、何かあった時は何となく飲みたくなるもんだよね。
当面のお金もあるし、昼間だけどお酒をちびちび飲みつつシュウとざっと予定を立てることにした。
「なんか大変なことになってきたけどさぁ、これからどうすればいいのかなぁ?」
「リンさん、1杯目ですがそれでおしまいで。呂律回ってませんから」
「うう…甘いお酒が飲みたい…」
「あーこの世界、お酒といえばエールがメインですもんね。それで、今後の予定ですか。リンさんは何かしたいこととかあります?」
「したいこと…うーん。普通に考えればなんでこの世界に来たか調べて帰ることだよねぇ?あ!妖精王国行ってみたいかな。カロさんとチロルにまた会いたいし」
あぁーエールのアルコール強い。いや、多分そこまで強くはないんだろうけど、飲み慣れないのもあるんだろう。アルコールの回りが早いわ。
「チロル…あの猫ですか。あまり気は進みませんが、俺はリンさんと一緒ならどこでもいいですよ」
「そうそう!そうだね、私もシュウと一緒ならどこでもいける気がするよぉ」
「リンさんッ!」
お?シュウが急にエールのグラスを持つ私の手を取った。その時、ガシャンとシュウと私の間に割って入るようにお水入ったグラスが置かれた。
「お連れ様、だいぶお酒を飲んでるみたいだけど…大丈夫?」
「いえ!1杯目ですー!」
「そんなに…って、1杯目なのね。そうなの。お酒に弱いのかしら?」
「急に割って入って、どちら様ですか?」
邪魔されたのを怒ったシュウが割って入った人物を睨みつける。怖いよ、目が本気だよ。
それに釣られて私も目を向けると、お水のグラスを置いたのはなんともまぁお綺麗なお姉さま。黒いとんがり帽子にウェーブのかった長めの赤い髪、身体のラインがバッチリ出るセクシーな黒いドレスでこれぞ魔女!って感じのビジュアル。はち切れんばかりのお胸が今にも零れそうです。
なんか怒ってる?っぽいけどお姉さま、シュウ狙いでここに来たんじゃないの?ベクトルどこに向いてんの?助けてくれたっぽい状況から考えると、もしかしてシュウじゃなくて私?
「悪い男に騙されて飲まされてるのかなぁって。おにーさん、とってもイケメンだけど…この子に急に迫ろうとしてたでしょ?」
「なっ!せまっ!?俺がリンさんにそんなことするわけない、じゃ、ないですか!」
「ふふっ、言葉に詰まってるわよ、自信ないのね。可愛い子」
うーん、やっぱりシュウか。一瞬私かと思ったんだがなぁ。あぁダメ、目の前がぐるぐるしてきたよ…
耐えきれずに机に突っ伏す。
「リンさんっ!?」
「あらあら、お嬢ちゃん、大丈夫かしら?」
まだ1杯しか飲んでないのに、私はそのまま寝落ちしてしまった。たぶん、お酒が来た時一気に半分くらい飲んだのがダメだったんだろうな。




