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第2話 確認作業

 

「何が起こるかわからないので武器を装備しておきましょう」


 なにやら渋い顔で後輩くんが恐ろしいこと言ってますな。

 でもよく考えたら、ここが異世界なら人外のモンスターとかいてもおかしくないんだよね。

 後輩くんの言葉に私は倉庫内の武器一覧をじっと見つめる。


「ナイフだな!」

「はぁー。先輩、ここでもそれやるんですか…」


 おっ?なにやら後輩くんがまた呆れ顔をしているぞ?


「ふふっ、君も私のナイフの腕を知っているだろう」


 案ずる事なかれ、何を隠そう私は銃火器よりナイフの扱いの方が上手いのだ。

 えっそれってFPSプレイヤーとしてどうなの?とか言うんじゃない。


 自慢じゃないがFPSを初めてやり始めた頃、標準エイムを合わせることが下手くそすぎて相手に当たらずにバカスカ撃ちまくった挙句、弾切れになるという初心者あるあるをやりまくり、ついに手持ちの武器がナイフ以外にないという状況によく陥っていたのだ。

 その時ほぼヤケクソでナイフ片手に特攻していたのだが、なんと相手を単騎でほぼ全滅させるという快挙(自分的には)を成し遂げた。

 ナイフ片手に銃火器相手を殲滅する快感に目覚めた私は、それ以来ナイフで戦う最強のナイファーを目指し、腕を磨くべく猛特訓しまくったのだった。


 今となってはある程度銃火器の扱いにも慣れたが、いざとなったらナイフ1本で戦場を駆け回るCAのジャックザリッパー(自称)となったのだ。


「ふっ、CAのジャックザリッパーの異名を持つ私に心配は無用だよ」

「先輩、裏でナイフ職人とか呼ばれてましたもんね…」

「なんだと!?なにその微妙にカッコよくない異名!」

「はいはい、何が起こるかわからないんでナイフだけじゃなくメインウェポンもしっかり選んでくださいね〜」


 ぐぬぬ、軽く流しやがってこの後輩め。私は断じてナイフ職人ではない!

 しぶしぶ武器一覧からメインウェポンとなる物を選んでいく。

 そこで、ふとある事に気付く。


「ねぇ、弾が買えるのは良いんだけどさ。手持ちのCP切れたらどうするのかな?」

「そこは俺も考えてました。ゲーム内ならクエストクリアやゾンビや吸血鬼などのモンスターを倒せば手に入りましたよね。」


 そうなのだ。手持ちにある程度のCPはあるが、弾は消費すれば当然消える。無くなったらショップで購入するしかないのだが、そのためのCPをどう集めればいいのかがわからなかった。


「とりあえず、街に行くまでにいろいろ検証しましょうか」

「そうだね」


 倉庫内の銃火器の中で比較的残弾数の多いSMG(サブマシンガン)の中からVectorベクターを選択した。

 私が選んだVectorはSMGの中では威力は低いが反動(リコイル)が小さく、当てることに特化した武器だ。

 真のメインウェポンはナイフなので、数発当てて動きを鈍らせたらナイフでトドメをさせばいい。天才か。


 倉庫の武器一覧からVectorを選択し、そっと指でタップしてみる。

 すると、一瞬で手元に私の選んだVectorが手元に出現した。


「思ったより重い…」


 実際に手にする銃は、異様に冷たく、ずっしりとした重量感があった。

 そこで初めて、私はこれが現実だと急速に自覚した。

 まだ頭の中が現実に追い付かず、どこかゲームのように軽く考えていた。

 でも降り注ぐ日差しは暖かく感じるし、頬を撫でる風にも温度や感覚はある。

 つまり、ここで死んでしまってもゲームのように復活(リスポーン)は出来ないということ。

 自分がもし死にそうな状況になったとき、私は本当に引き金を引くことができるのだろうか。

 今まで自分の意思で生き物を殺したことなんてもちろんない。


 そう考えると急に恐怖が襲ってくる。

 怖くなってVectorを抱えて下を向く私の肩に、後輩くんの手がそっと乗せられた。


「大丈夫ですよ。先輩のことは俺が絶対守りますから」


 イケメンか。いや実際イケメンだったなコイツ。

 そんなアホらしいことが脳裏に浮かんだ瞬間、なんだか恐怖が薄れた気がした。


「後輩のくせに。でも、ありがとうね」


 なんだか少し悔しいが、恐怖が薄れたのは後輩くんのおかげなので正直にお礼を言ってから、グッと腕に力を込めて実際にVectorを構えてみる。

 重い、けど取り回せない重さではない。


「少し、いろいろ試したい。実際に撃ってみてもいいかな?」

「そうですね、いざという時のために少し練習した方がいいかもしれませんね。」


 幸いにもここは草原で見渡しもいい。

 試し打ちの銃声によって何かが出てきてもすぐに気がつくだろう。

 後輩くんはSR(スナイパーライフル)のM24を選択したようだ。

 そういえばゲームでもよく使ってたね。


「アタッチメントで消音器(サプレッサー)をつけたので、まず俺が試しに撃ってみますね」


 そう言って、私のVectorより倍はあるであろうM24を構える後輩くん。重くないのであろうか。

 パスンッという音が横から聞こえたと思ったら、一瞬で数百メートル先にある木が急にずしーんと倒れた。


「あわわわわ、き、木が倒れたよ!!!」


 驚きのあまり人生初あわわをしてしまった。なんという失態。


「っ。思ったよりリコイルでかいですねこれ…」


 1人でテンパる私は軽くスルーし、反動リコイルが大きかったのか少ししかめっ面をしている後輩。

 狙いは正確だったようだが、やはりリコイルなどはゲームなどとは違い、実際に感じてみると予想以上だったようだ。


「大丈夫?」

「試しておいて正解でした。リコイルに慣れるまでは結構きついかもしれません」


 私のVectorはリコイルが小さい方だが、やはり試しておいた方がいいだろう。

 後輩くんと同じくサプレッサーを装備し、構えてみる。

 かなりドキドキしたが、覚悟を決めて引き金を引いた。

 タタタタタタンっとリズミカルな音が耳に届く。


「あわっ、あわわわこれ制御難しいよ!!」


 人生2度目のあわわをこんな短期間で披露するとは思わなかった。いくらリコイルが小さいといっても、やはりゲームと現実は違う。

 狙った通りに弾が飛ばず、上下左右に弾道がズレている。

 後輩くん、よく1発で狙い通りに当てたな。バケモンか。

 とっさに脳内でナイフ!やっぱり私にはナイフ!と思い浮かべると、手元のVectorが消え、愛用のナイフが現れた。


「これ、倉庫ウィンドウからじゃなくても思い浮かべるだけで収納とかできるんだ?」

「本当ですか?そんなことに気付くなんて、さすが先輩、すごいですね!」


 ふふ、私もやる時はやるんだよ。

 少し後輩くんに乗せられた感はあるが、調子に乗った私はいろいろ試してみることにした。

 足元に生えていた白い花を摘み取り、収納と頭に思い浮かべてみる。

 すると、手にしていた花は消えていた。急いで倉庫を開いて確認してみると、一番下にさっき摘み取った花が収納されていた。

 なになに、白い花とな。

 うん、まぁ確かに白いけど。なんかこう名前とか説明とか鑑定的なことを期待したんだけど、さすがにそう上手くはいかないらしい。


「おお、これ倉庫はいわゆるアイテムボックスみたいな扱いになるんだね。でも、実際に知らないものを入れても名前や説明は出ないみたい?」


 後輩くんは私の話を聞いて、足元のクローバーのようなかわいい葉っぱをブチッと乱暴に引き抜いて倉庫にしまい、倉庫のウィンドウを確認していた。

 クローバーさん(仮)がかわいそうだ。もっと丁寧に扱いたまえ。


「ふむ、何かはわからなくても、とりあえずCAのアイテム以外でも入るってことですか。それだけでも便利ですね。CAの倉庫には制限がありませんから」


 そうなのだ。CAでは倉庫に武器、アイテムなどを入れておくことができたのだが、そもそもそこまで入れるものが多くないためか、数量や容量の制限などの設定が存在しなかったのだ。

 試しに倉庫のウィンドウの端などを詳しく見てみるが、どこにも数量や容量の表示がない。

 実際に検証してみないと詳しくはわからないが、アイテムボックス(実際には倉庫だけど)は今後かなり便利に使えそうだ。


 ナイフを戻し、しぶしぶVectorを手に持つ。初めて持った時よりは少し慣れたのか、ほどよい重量感だった。

 後輩くんも移動に邪魔になるためメインウェポンのM24は倉庫にしまい、扱いやすいハンドガンのP1911を持っている。


「ここでじっとしてても日が暮れちゃうね。そろそろ行こうか?」

「はい、行きましょう」


 いろいろと確認を済ませた私たちは、いよいよ街を目指して歩き始めた。



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