第18話 腕のいい防具職人
宿の人におすすめの防具屋を聞いたら、大通りにあるヘルムさんの所が種類も多くていいと紹介される。さっそくシュウのナビ通り進むと、無事にヘルムさんの武器屋にたどり着いた。シュウはほんとに頼すりになるなぁ。
「らっしゃい」
少し無愛想な強面のおじさんが出迎えてくれる。店内には防具だけでなく、剣や槍などの武器も多少置いてある。でも防具屋だけあって防具の種類は多そうで、さすが宿屋の女将さんがおすすめしてくれた店なだけある。
「風狼の群れの女将さんに防具ならここだと紹介してもらいました。防具が欲しいのですが…」
「風狼のとこっていうと、エダか。よし、どんなのが欲しいんだ」
宿屋の女将さんはエダさんっていうのか、あとでお礼を言わなきゃね。
どんなのがいいかなぁ。私は近接戦闘メインだし、軽いのがいいけど出来れば見た目はかわいい方がいいなぁ。チラチラと店内を見て回るけど、やはり防具らしい防具というか、堅苦しいデザインのものが多い。
「シュウ、どれがいいかなぁ」
「そうですね…店長さん、軽めの防具って何がありますか?」
「軽めか…そもそもお前らは職業なんだ?」
「俺が後衛の魔術師で、彼女が前衛の斥候です」
「ふむ、となると防御職がいねぇのか。どうする?姉ちゃんは防御力重視の素材にするか?」
「いえ、重いと走るのに邪魔になるので…」
「ハハッ、姉ちゃん斥候って言ってたがひ弱そうだもんな!」
ぐくぬ。悔しいが言い返せん。私がギリギリ歯ぎしりしてる間にシュウは店内を見回り、サクサクと皮鎧とそれに合う皮のショートブーツを選んで装備してる。焦げ茶色の皮鎧の上にしっかりしたアイボリーのローブを羽織り、満足そうなシュウ。何着ても似合うとかイケメンの標準装備だよね、ハゲろ。
「兄ちゃんの選んだのはグリズリーの皮鎧と皮靴だな。手頃な値段だが防御力はそこそこあるから初心者にはおすすめだ。ローブは魔法糸を編み込んであるから軽いが防御力は期待できる品だ。いいもん選んだな」
「ではこれをもらいます」
「鎧、靴、ローブで合わせて金額7枚だな」
鎧が金貨3枚、靴が金貨1枚、ローブが金貨3枚という内訳らしい。そもそも相場がわからないから高いのか安いのか全くわからないけど。
グリズリーはそのまま熊の魔物で、森の中に普通にいる魔物らしい。私たちは会ったことないけど、比較的良く見る魔物で皮も流通が多いみたいだ。魔法糸っていうのはその名の通り魔法を練り込んで作られた特殊な糸で、普通の糸に比べて耐久力が高く、防御力も期待できるんだそう。
シュウは倉庫から金貨7枚を取り出し店長さんに渡す。倉庫からお金を取り出したシュウに少し驚いていたが、防具屋という場所柄か箱持ちの人もそこそこいるのであろう、納得した顔をしてお金を受け取っていた。
「んで、姉ちゃんはどうすんだ?」
「うーーん、どうしよう…」
「店長、これはなんですか?」
シュウが店の端っこに隠されていたような防具を持ってきた。
「ああ、それは俺の嫁が趣味で作ったやつでな…うるさいから一応並べてるだけの商品なんだ」
強面だけど嫁さんいるんだ店長さん。シュウが持ってきた防具を見た瞬間、私のテンションは急上昇する。なにこれ、めっちゃかわいいじゃん!
もはや防具と言うより服という方が正しいその装備は紺色をベースにところどころ濃淡な赤いリボンと白いフリルがあしらわれていて、どこか魔法少女っぽい雰囲気。胸元は少し広めに空いてるが、これくらいなら許容範囲かな。下は前のみ中央から外側に向けてだんだん長くなっていく変形スカートで、足が出てるから動くのに邪魔にならなさそう。全体的に近接職というよりは魔術師向けっぽいけど。
「これにします!」
「姉ちゃん、ほんとにいいのか?…ちょっと待ってろ。おーい!カルラ!」
店長さんは私がこれにするっていったら大層驚いていた。まさか売れるとは思ってなかったんだろう。カルラと呼ばれて出てきたのは、焦げ茶色の目に茶色いポニーテールが印象的な可愛らしい女性で、おそらくは店長さんの嫁さんだろう。こんな強面になんでこんな美人が?という疑問が浮かぶが、好みは人それぞれなので口には出さない。
「あら、イケメンとかわいい女の子。いらっしゃいませ!それで、どうしたの?」
「この姉ちゃんがお前の作った防具を買うって言うからよ」
「えっ、ほんとに!?買ってくれるの!?」
カルラさんは私に急接近して手を取り、ブンブン振る。少し驚いたが、自分の作品を買ってもらえて嬉しいのだろう。
「は、はい」
「きっ、着てみて!早く!早く!こっち!」
カルラさんに連行されるようにして奥に連れて行かれる。外套を脱いだ私のモコモコパーカーを見たカルラさんが、これどこで買ったの!?と詰め寄って来たので笑って誤魔化す。それは異世界の某有名部屋着メーカーの定番の一品です。私が防具を装備している間、穴が空くほどにモコモコパーカーを見つめていた。うんうん、それかわいいよね。
先程の防具を装備してみたが、恐ろしくなるほどサイズは私にピッタリだった。
「きゃーーー!かわいいっ!!」
うん、確かにかわいい。カルラさんが装備に合わせて、腿位まである薄茶色い皮のロングブーツを持ってきてくれた。手渡されたそれをとりあえず履く。おぉ、装備と合っていていい感じ。
「うんうん、とてもいいわね!ところであなた、魔術師?」
「いえ、大きめのナイフをメインに戦う斥候という名の近接職です」
「いいわ!!見た目は魔術師っぽいこんなかわいい装備の子が前衛でガンガン攻めるなんて…ロマンね!」
あ、それちょっとわかる。かわいい幼女が大きなハルバートとか持って戦うとかいいよね。カルラさんとは趣味だけじゃなく気も合いそうだ。
着替えたので店の方に戻ると、シュウがこっちを見て少し顔を赤くしてる。なによ、年相応な格好をしろって言いたいのか。言いたいことはわかるけど、可愛いは正義だよ!まだギリギリいけるって!
「おぉ、姉ちゃん似合うじゃねーか。見た目はこんなだがこっちも魔法糸で作ってある装備だから、防御力は保証するぜ」
「おお、かわいさだけでなく防御力も兼ね備えてるとは。控えめに言って最高ですかね」
「分かってくれるかしら!あなたのような人に使って貰えるなら嬉しいわ!」
防具とロングブーツでお値段金貨8枚だって。全身魔法糸で作られた装備なのに安くない?シュウのローブなんてローブだけで金貨3枚だよ、これ絶対デザイン料とか入ってないよね?
店長さんにおそるおそる聞いてみたら、ずっと売れなかったやつだからってほぼ原価のみの値段だそうだ。ありがたい。
店長さん夫婦にお礼をいい、店を後にする。カルラさんにはとても気に入られ、またリンさん用に装備を作っておくから!とまで言ってくれた。楽しみに待っておこう。
「あのー、リンさん。それ、見つけたのは俺ですが、胸元開きすぎだし、足だって出てるじゃないですか?」
「そう?街で歩いてる人とか見るとこれくらい普通じゃない?」
街を歩いてる人たちを見てみると、女冒険者さんたちが目に入る。それぞれかなり露出の高い装備をしていた。うわ、ビキニアーマーだよ本物初めて見た!とてもいい!
「あれよりはマシですが…」
「なに、シュウ。なんかお父さんみたいだね?そんなにこの装備、私に似合わない?」
「いえ、似合いすぎているから問題というか…」
似合うならいいじゃない。ま、例え似合ってなくてもしばらくすれば見慣れることでしょう。シュウもこの街らしい一般的な格好になったからか、店を出た時から街なの女の人によく見られてる気がする。あ、さっきの女冒険者さんたち、シュウに手を振ってる。シュウはチラリとそっちを見ただけで、手は振り返さなかった。ああ、女冒険者さんたちガッカリしてるよ。私が悪いわけじゃないけどなんかごめんね!
宿屋には食堂が併設されていたので、今夜のごはんはそこで食べることにした。このグランリールの街は商業が盛んらしく、豊富なメニューに目移りしてしまう。メニュー片手に悩んでいたら、シュウが俺もいろいろ食べたいからリンさんの気になるものいくつか頼んで半分こしましょう、と言ってくれた。シュウ優しい。
出てきた料理はみんなシンプルだったが素材がいいのかとてもおいしく、張り切って食べる私をシュウは微笑ましそうに見ていた。俺の分は気にしなくていいから、好きなだけ食べなって。やっぱりお父さんかな。
予想以上においしい食事を堪能した後、お借りした部屋に戻る。ホテルのツインのようにシングルのベッドがふたつ並んでおり、その間にサイドテーブルが置いてある。シンプルだけど清潔感のあるいい部屋だ。
部屋に戻った私はさっそくエドガーさんからもらった報酬を2等分にし、半分をシュウに渡す。
「はいこれ、とりあえず半分ずつでいいよね?」
「ありがとうございます。でも、リンさんが多めでいいんですよ?」
「ダメ。こういうのはキッチリしないと」
シュウと少し話をして、眠りにつくことにした。明日は冒険者ギルドに行く予定だ。オーガの買取、いくら位になったか楽しみだな。




