第17話 戦後処理
「姉ちゃん、大丈夫か?」
地面に倒れ込んだ私にエドガーさんが手を差し伸べてくれる。ありがたく差し出してくれた手を借り、ヘロヘロと立ち上がる。
「なんとか…」
「ハハッ。にしても、やっぱり姉ちゃんも十分つえーわ」
エドガーさんは笑いながら、私の背中についた砂を払ってくれている。よく見ると、私のお気に入りのピンクと白のモコモコボーダーパーカーが砂まみれだ。めっちゃショックでかい。
「リンさんッ!ケガは大丈夫ですかッ!?」
シュウが塔の方から走ってくる。走んの早ぇな、そんなに早く動けんならもうシュウも近接戦職でいいんじゃないかな…
そんなことを考えながらパーカーが汚れたショックで呆然としていたら、シュウが私の顔を両手でガッチリ掴んだ。
「右頬!血が出てます!上から見ててハラハラしっぱなしでしたよもう!でも、本当に無事でよかったです!」
近い近い。ていうか、なんでシュウがそんな泣きそうな顔してんのさ。シュウが急いで倉庫から応急薬を取り出し、私に飲めと渡してくる。大げさなと思ったが圧がすごいので仕方なく飲むと、右頬の傷はキレイさっぱり無くなっていた。
「ああ、もう本当によかった」
「シュウのおかげで助かったよ、ありがとうね」
「オーガがリンさんに向けて両手を振り上げた瞬間なんて、心臓止まるかと思いました」
「大げさな。でもあの時左足を落とせたからシュウがLA取れたんだよね」
「死にそうなほど動揺してたので、自分でもよく冷静に当てたなと今となっては思いますよ」
シュウが外套代わりの布を持ってきてくれてたのでパーカーのうえに羽織る。落ち着いたらパーカー洗おう…
そのうち、さっきまで張り詰めていた精神の緊張もだんだん解けてきた。エドガーさんは私を起こした後早々に、被害状況の確認に行っていたようだ。とりあえずシュウと2人で塔の入口付近まで戻ると、兵士さんたちが一斉に駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!おかげで無事オーガを討伐できました!」
「早々に倒してくれたおかげで、被害も拡大せず最小限で済みました!」
みなさん口々にお礼を言ってくれ、頑張って良かったなぁと思う。怪我人はそれなりにいるが、幸いにも死者はいないそうでひとまず安心した。
怪我のない兵士さんが塔の中へと案内してくれたのでそれに従う。広々としているが、10人はいけるであろう大きな机とそれに合わせた椅子しか置いてない殺風景な部屋だった。とりあえず椅子に腰かけると兵士さんがお茶を出してくれた。貴方たちだって疲れてるだろうに、こちらに気を使わず、ゆっくり休んでてくれていいんだよ?
リコッタ村でもらったほうじ茶と抹茶をブレンドしたようなお茶を飲みながら一息つく。このお茶、この辺では一般的なのかな。
しばらくすると、状況確認が終わったらしいエドガーさんが来て私たちの向かいに座った。
「お疲れさん。被害状況を確認してきたが、あれほど強い魔物が出たのに、死者が出なかったのは不幸中の幸いだった。ほんとに助かったよ。姉ちゃんと兄ちゃん…いや、リンとシュウには世話になった。ギルドマスターとして礼を言う」
そう言いながら頭を下げるエドガーさん。とんでもない、と恐縮しつつ頭を上げてもらう。頭下げられるとか慣れてないし、こういうとこは日本人っぽいと自分でも思う。急だったけど、力になれたなら良かったよ。
「今回はギルドからの緊急依頼ということで報酬はギルドから出す。ちなみに、あのオーガはどうすんだ?こっちで解体して、素材も全部買取買取でいいのか?」
「あのオーガの所有権は俺たちにあるんですか?」
「ああ、メインで戦ってたのはシュウとリンだしな。珍しい個体だったから、こっちに全部買い取らしてくれるとありがたい」
「では、それでお願いします」
「わかった、手配しておく。検分が終わったら買取の金を渡す。んで、こっちは今回の緊急依頼の報酬だ」
ドンとテーブルの上に重量感のある麻袋が乗せられる。音といい見た目といい、かなりの金額が入ってそうだ。思わずシュウと2人で顔を見合わせてしまった。
「急だった上にヤバい内容だったからな。色をつけさせてもらって金額30枚だ」
えっ、討伐の報酬だけで金額30枚!?こんなに貰っちゃっていいのかな?
「こんなにいいんですか?」
「当然だ。ほぼ強制的に連れてきたようなもんだしな、受け取ってくれ。あのオーガはこっちで持って帰るから、そうだな…明後日にでも冒険者ギルドに顔出してくれ」
「分かりました」
持ち上げるとジャリンシャリン言う麻袋を倉庫にしまう。後でシュウと分けよう。エドガーさんは街にも報告に行かなければならないらしく、早々に帰っていった。まだ動けそうになく休んでたらいつの間にか夕方になってしまっていたので、今日のところは塔で1泊していくことになった。
まずはお腹が空いているだろうから食堂へ、という事だったのでこの前パンを購入した食堂に向かう。めっちゃお腹すいてたからありがてぇ。
食堂の中は兵士さんで溢れていて、丸で忘年会とか宴会のような雰囲気だ。シュウと席につくと、食堂のおばちゃんの好意からか次々にいろんな料理やお酒が出てくる。ありがたいけどこんなに食べられん。
もくもくと食べていたら、横に座った兵士さんに声をかけられた。
「よう。えっと…リンさんにシュウさんかな。今回は助けてくれてありがとうな」
「この前の兵士さん!」
彼は私たちに見張り台を貸してくれくれた兵士さんではないか。やっぱり今回のオーガ討伐にも参加してたんだね。
「ジャンって呼んでくれ。リンさんもシュウさんも、強くて格好良かったなぁ」
「えへへ、お役に立てて良かったです」
よせやい、素直に褒められると照れるだろ。ジャンさんを皮切りに、次々と兵士さんたちに質問攻めにされる。LA取ったのはシュウなのに、なんで私のとこばっかり来るんだ。武器のこととかは濁しつつ、矢継ぎ早に飛んでくる質問に答えてく。シュウは終始複雑そうな顔をしていたが、私はいろいろな人と喋ることができて楽しい夜を過ごした。
食堂を出た後兵士さんに案内してもらい、私とシュウで1部屋ずつお借りした。一人一部屋は申し訳ないと思ったが、ベットしかない簡素な部屋だったので各自ありがたく使わせてもらうことにした。さすがにシングルに2人はキツいな。狭いし。シュウにおやすみ、また明日と挨拶し、案内してもらった部屋のベットに横になると、疲れが一気にきてそのまま寝落ちしてしまった。
さすがにあのオーガ戦は疲れたのか、起きたらお昼前くらいになっていた。少し寝すぎたな。
自分の部屋から出て、とりあえずシュウが居るであろう部屋に向かおうとするが、いかんせん場所がわからん。自慢じゃないが私は地図があっても迷える不思議な才能があるのだ。
とりあえずなんとか部屋に戻り、窓から外を見る。オーガの死体も無くなっていて、初めて見たときの平和な場所に戻っていた。しばらく外を眺めていたら「リンさーん」と言う呼び声と共に部屋がノックされた。
「シュウ、おはよ」
「おはようって、もう昼ですが…まぁ、昨日は疲れてたみたいなので仕方ないですね」
シュウと一緒に食堂へ向かう。きちんと場所把握してんのか、さすがかよ。食堂は昨日と打って変わって静かなものだった。みんな仕事してるんだし、当たり前か。
ブランチにパンとスープをもらい、お腹を満たす。ほっとする味だ。
「冒険者ギルドから迎えの馬車が来ていますので、食べたら行きましょうか」
わざわざ馬車を手配していてくれたらしい。高待遇かよ。兵士さんたちに別れを告げ、馬車に乗り込む。今回は急ぎじゃないから通常の馬車だ。それは全然構わないんだけど、ウィンドウルフちゃんモフりたかった…
シュウと他愛ない話をしていたらあっという間にグランリールに戻ってきた。お昼くらいに向こうを出たから、今は夕方前くらいかな。
馬さんと御者さんにお礼をいい、馬車を降りる。エドガーさんに顔を出せと言わせているのは明日なので、とりあえず先に今日の宿屋を確保しておくことにする。
御者さんがおすすめきてくれた「風狼の群れ」っていう無駄にカッコイイ名前の宿屋に入る。節約のため2人で1部屋とった。シュウは動揺してたけど、ベットは2つあるって事だしなんの問題もない。
夜ごはんまでまだまだ余裕がある。部屋を確保した私たちは、いつまでもモコモコパーカーでいるわけにはいかないと、いい加減装備を整えることに決めて防具屋に向かうことに決めた。




