第16話 オーガとの戦い
「すぐ向かってほしいから、こっちで馬車を用意する」
塔までは少し距離があるため、徒歩より馬車の方が早いらしい。ありがたく用意してもらうことにした。
少し待って、用意できたとエドガーさんが言いに来たので冒険者ギルドの外に出る。あれ?馬車って馬がひくから馬車じゃないの?目の前にあるのは確かに馬車。なんだけど、ひいてるのが馬じゃない。なにこれ魔物?
ぽかんと馬車らしきものを見ていると「これは魔物のウィンドウルフだ」と教えてくれた。うん、やっぱり狼だよね、カッコイイ、いい毛並みを思う存分モフりたい。
このウィンドウルフがひく馬車は普通の馬車に比べ、とても早いんだそうだ。普通に走っても馬より早いんだけど、風魔法を使うともっと早く走れるらしい。その分、揺れはものすごいから気合い入れろってさ、マジっすか。
ウィンドウルフは人が使役できる数少ない魔物の1種で、比較的人に懐きやすく、よく働いてくれるいい子なんだとか。速さに比例して値段も上がるらしいけど、今回は緊急事態だし仕方ないよ。私が払うわけじゃないから全然気にしない。
馬車をひいてくれるウィンドウルフを我慢できず少しモフった後、馬車に乗り込む
「リンさん、なにでいきますか?」
時間を有効に使うため、ガタンゴトンと絶好調に揺れる馬車の中で作戦会議だ。気持ち悪くなりそう…
「ナイフ?」
「はぁぁ。またそれですか。死にたいんですか?」
いや死にたいんですかって言うけどな、塔のまわりには遮蔽物になりそうなものなんて塔以外に確かなかったぞ。
シュウは塔の見張り台からSRで狙えばいいだろうけど、基本近接戦闘メインの私にはかなりキツい環境になる。
「あんな遮蔽物もないだだっ広い所で重量物背負って戦う方が危なくない?」
「あぁ、言われてみれば確かにそうですね…」
こうして私はナイフメインでサブにハンドガンのベレッタ、手榴弾類。シュウは見張り台からSRということになった。オーガにナイフ通らなかったら終わりだな、そしたらシュウになんとかしてもらおう。
私たちが半日かけて歩いた道を、1時間程度という驚異的なスピードで現地に到着した。通常の馬車でも3時間はかかるって言ってたし相当早い。吐きそうなんだけど…
降りる前に念の為ドリンクを飲んでおき、塔の手前で降ろしてもらう。のどかな場所だったのに、塔の前には怪我人が溢れ、兵士がわらわらしている。なんかとても前線的な場所になっちゃってるな。
ナイフを倉庫から取り出し、機動力を上げるために外套代わりの布を外す。なんだかすげー緊張感ない格好になってしまった。
そういや、防具なんて装備してないから一撃でも食らったら死ぬよなぁ。エドガーさんが、現地にいる魔術師に防御魔法かけてもらえって言ってたからそれを信じて突っ込むしかないか。
そうこう考えているうちに塔についたので、見張り台に登るシュウといったん別行動をとる。
「リンさん、絶対ケガしないでくださいね!!」
「イエッサー!」
両肩を掴まれ、ものすごい真剣な顔で私に約束させるシュウ。そうだよな、食らったら死ぬかもしれないってことは無闇にケガもできないもんな。するつもりも無いけどさ。
「おーい、兄ちゃん。離れるのが惜しいのは分かるがそろそろ姉ちゃんを離してやってくれや」
「ぐっ…エドガーさん、くれぐれもリンさんを頼みますからね!」
エドガーさんに咎められしぶしぶ私の肩から手を離し、見張り台に登るシュウ。そんなに心配しなくてもいいと思うんだけど…私もしかして頼りない?
実はエドガーさんもいっしょにオーガ討伐に来てくれている。足止めをしていた兵士さんたちにはいったん下がって治療に専念してもらい、気休め程度の防御魔法をかけてもらう。
そして、戦闘準備が完了したエドガーさんと私はオーガの前に立つ。
話に聞いていた通り、オーガの体は紫色だ。人型の大柄な体躯はこの前戦ったオークよりも大きく、3メートルくらいはありそう。ボロボロな腰布を巻いていて、武器らしきものは持ってない。日本によくある赤い鬼のお面のような顔をしていて、額にはオーガらしい立派な角が1本生えていた。
「姉ちゃんは好きに動いてくれていい。俺と兄ちゃんがフォローする」
「わかりました」
チラッと見張り台を見ると、どうやらシュウも配置についたようだ。うう、上手くいくかなぁ…
すぅぅと大きく息を吸い込む。さて、鬼退治と行きますか。
ナイフを構えながらオーガとの距離を詰める。初手から閃光弾や発煙弾を使うことも考えたが、ひとまず控えることにする。
それらを使っても倒しきれなかった場合、対策を取られたり2度目が効きにくくなるかもしれないことを考慮すると、押しの一手に使う方がいいと思ったのだ。
一応オーガは知能が低い魔物と言われているらしいが、対峙してるのは通常種ではないので油断は禁物かな。
ひとまずナイフの刃が通るかを確認するため、オーガの腹付近を狙ってみる。大柄な体躯なためか、そこまでオーガの動きは早くなく簡単に初撃が通る。思ったより手応えあり…かな。オークの時みたいにスパッと切断とまではいかないけど、そこそこのダメージは与えられたみたい。
ヒットアンドアウェイですぐさまオーガから距離をとる。オーガは私に切られた傷に手を当てるとニヤリと笑った。その様子を見て、オーガは知能が低いとか言ってたけど、こいつは通常種じゃないらしいから知能高いかもと思う。
私が様子を伺っていると後ろからエドガーさんが飛び出し、オーガに向かっていった。私のときは小手調べみたいな感じで初手を許してたけど、エドガーさんの攻撃に対しては躱したり腕を使って防御してる。なにこれ、私、オーガに舐められてたの?
くっそーこのままじゃ引き下がれん!オーガに向かって行こうと意気込むが、エドガーさんとオーガの攻防が激しすぎて割り込めん!
私が次の手を考えていた時、エドガーさんの攻撃を器用に防御していたオーガの立派な角が折れた。このプロスナイパー顔負けのエイムはシュウだな。
一瞬時が止まったような、なんとも言えない空気になった所でエドガーさんはいったんオーガから距離をとり、私の方へ戻ってきた。オーガは角が生えていた額に手を当て、角が折られたことを確認すると大きく絶叫する。
「ウガアァァァァ!!!」
ビリビリと鼓膜の奥に響くような大きな絶叫。ガチギレってやつですね、これ。シュウなにしとん!
「姉ちゃん、ヤツの方から仕掛けてくる。気をつけろよ」
「あー怒ってますよねやっぱり…」
オーガはこちらを睨みつけると、エドガーさんではなく私を狙って突進してくる。何故私の方に来るんだぁぁぁぁ!
すんでの所で突進を交わすと、オーガは即反転し私に向かって腕を振り上げる。ヤバっ、これ食らったら一発で昇天する自信ある!
突進を避けたばかりで足元が覚束ず、この腕を交わすのは無理だと悟ったので、咄嗟にナイフでオーガの腕の軌道を逸らすことにした。それでも完全にはいなしきれず、オーガの腕が私の横っ面を掠める。掠ったのはほんの僅かだが、私の右頬からは血が流れていた。痛いぃぃ!けどナイフちゃんナイスすぎるー!
弱いと思っていた私に躱されたことに更に腹を立てたのか、ウガァァと叫びながら両手を組み高く持ち上げ、私に向かって振り下ろす。懇親の一撃ってやつですかそうですか。さっきの片手攻撃を受けた感じ、今回の両腕攻撃をナイフで逸らすのはパワー差的にかなりきっつい。よし、イチかバチか突っ込むか。
ぐぐっと体勢を低くして、オーガの左足を狙って自分が出せる最大のスピードで切り込む。そっちが懇親の一撃ならこっちも最大火力じゃい!
スピードに乗り、思いっ切り力を込めてオーガの左足を切りつける。無我夢中でナイフを横に振りかぶった後、私は自分のスピードが制御できず、前のめりに突っ込みゴロゴロと転がったあと地面と友達になる。さっきよりいてぇ!
「姉ちゃん、良くやった!」
エドガーさんの声に反応し、地面に突っ伏したままオーガに振り返る。私の全力が効いたのか、オーガの左足は膝から下が切断されており、オーガはバランスを崩してその場に膝を着く。その隙を見逃さず、シュウのM24がオーガの頭を撃ち抜いた。相変わらずキレイなヘッドショットだ。エドガーさんもチャンスと見て攻め込もうとしてたけど、シュウの方から援護射撃が来るとみてその場に待機していたようだ。
頭に一撃食らったオーガが声も上げずその場にズシーンと倒れる。エドガーさんが剣を片手に素早くオーガの傍により、生死を確認する。
「姉ちゃんと兄ちゃんの勝利だな」
ニカッと笑って私に向かって親指を立てるエドガーさん。勝利宣言を聞いた私は全身の力が抜け、再び地面と友達になるのだった。
戦闘シーン難しいですね…




