第14話 興味津々なギルドマスター
ギルドマスターに着いてこいと言われたので、大人しく冒険者ギルドの階段を上がる。ギルマスさんは2階にある奥の部屋に入ったので私たちもそれに続いた。
どうやらここはギルドマスターの部屋らしく、大きな執務用の机の前に、来客用であろうソファーのような椅子が向かい合って置いてあった。
「まぁ、座れや。そんなたいした話じゃなぇから気楽にしてくれ」
こんなところ呼び出しておいて、たいした話じゃないなんて絶対嘘だ。さすがの私も騙されないんだからね。
とりあえずシュウと2人、ギルマスさんと向かい合って座る。
「俺はグランリールのギルドマスターをしているエドガーっていうもんだ。お前ら、グリーンバードをどうやって倒したんだ?」
「どう、とは?」
「いや、あのグリーンバードの素材は質が良すぎる。普通、剣や槍で倒せばある程度損傷があるか、羽根や冠羽の枚数が少ないかするんだ。魔法にしても同じだな。よっぽど上手くやらない限りあんな上質な素材になんかならん」
あぁ、あのグリーンバードはシュウがヘッショでワンパンでしたからね、そりゃあいい素材が取れたでしょうよ。
「えーと、言わなきゃダメですか?」
「いやまぁ、単純に興味なんだがな。お前らは頭もいい。それに、恐らく戦闘スキルも高いだろう」
ギルマスさんがじっと私とシュウを見る。そんな値踏みするような目で見ないでー。
「それはどういう意味でしょうか」
「いや、本当にただの興味なんだ。ギルドマスターという職柄か、強いヤツが好きでな。そうだ、ちょっとお前ら今からオレと模擬戦だ。それがいい。そうしよう」
えっ、と思っているうちにギルマスであるエドガーさんに引っ張られて地下にある闘技場に連れてこられる。冒険者ギルドの地下にあったのは、結構立派な闘技場だった。
「よぅし、お前ら2人まとめてかかってこい。安心しろ、誰も入らないように立ち入り禁止にしたから思う存分力を発揮してくれ」
「ちょ、ちょっと待って!ケガでもしたらどうするの!」
「安心しろ、この闘技場で負った怪我は少し休めば回復する。もし死んだ場合、即復活するようになってる」
ニヤニヤと不吉な笑みを浮かべたエドガーさんがスラリと腰から剣を抜く。どこの冒険者ギルドでも、特別な魔法により闘技場は安全のためにそうなっているそうだ。
目の前にはとてもヤル気に満ち溢れてるエドガーさん。思わずシュウを見ると、シュウも考え込んでいるようだった。
「分かりました。ただ、俺らの戦闘方法は特殊なので、あまり他言しないでいただきたいのですが」
「おお、そうかそうか。分かった」
おおう、やる事に決めたんだね。私と目が合うと、さっきまで難しい顔をしていたシュウはいつもの笑顔になる。
「どうせ、いつまでも隠し通すことはできないんだ。いい機会だし、全力で行かせてもらおう」
「その気になってくれたか!ではさっそく…」
「待ってください。ギルドマスターがとても強いということはわかります。ですがあえて、僕ら2人ではなく片方ずつお願い出来ませんか?」
「ほう、自信ありか。いいだろう。まずは兄ちゃんからかかってきな」
シュウとエドガーさんが戦闘態勢に入る。私は邪魔にならないように闘技場の端っこに座った。
「いくぞ」
そう言ったかと思うと、信じられないようなスピードでシュウに向かっていくエドガーさん。はやっ。
シュウは無手の状態だし、冒険者ギルド登録の時に職業を魔術師にしていたから、なにかされる前に突っ込むのはわかるけど、普通初めは様子見からとかじゃないのか。そのスピードはガチじゃん。
シュウはそれを見ると、倉庫から取り出したARのM4を構え、即撃った。
エドガーさんはシュウの攻撃をもちろん警戒していたであろうが、やることを見てからでも避けられると余裕を持っていたのか、シュウの銃弾が想定以上に早かったのか。シュウに向かって真っ直ぐ突っ込んで来ていたエドガーさんは、直線に向かってくる弾に必然的に自ら食らいにいったことになる。
エイムがお得意のシュウのやることなので、真っ直ぐ向かってきたエドガーさんはいい的だったのか、もちろん頭に1発ヘッドショットだった。エドガーさんもシュウが武器を出して撃った瞬間反応していたが、さすがにあの速度は反応しきれなかったみたいだね。
エドガーさんの姿が消えたかと思ったら、入口付近に転送されていた。転送されたエドガーさんは、なぜかとても呆然としていた。
「今ので分かりましたか?」
シュウの言葉でハッと我に返ったエドガーさんはシュウに詰め寄る。
「な、なにが起こったんだ!なんで俺は死んだことになっているのかさっぱりわからん!」
「そりゃあ俺に倒されたからでしょう」
「その武器はなんだ!魔法か?強すぎるだろう!」
あ、死ぬとそういうことになるんだね。エドガーさん、圧が凄いなぁ。武器について話を聞きたそうにしているエドガーさんがウザイのか、シュウは早々にM4を倉庫にしまい無視を決め込んでいる。
それでもシュウに熱く食ってかかるエドガーさんが急に思い出したようにこちらを振り向く。
「次は姉ちゃんだが…姉ちゃんも兄ちゃんみたいな武器を使うのか!?」
返事が返ってこないシュウはひとまず置いておいて、次は私をターゲットにしたようだ。
なんか、さすがギルドマスター、威厳のある人だなぁと思ってたのにイメージがガラガラと崩れていく。新しいおもちゃを見つけたこどもみたいに楽しそうにしないでよ。そしてめっちゃ暑苦しいよ。
「いえ、私は…これです」
シュウに対して同様詰め寄ってくるエドガーさんの圧に押され、咄嗟にナイフを出してしまう私。あ、うん、シュウのその「えっ!?」って気持ちは私もわかる…でも咄嗟に出しちゃったものは仕方ないじゃん!
「ほー、これまた変わった武器だが…短剣?とは違うな。大きいが、どちらかと言うとナイフに近いか」
「あ、そうですナイフです。コンバットナイフというものです」
「柄が変な模様だが良いもんだな…よし、とりあえず1戦やるか!」
変な模様って、これはお気に入りのバレンタイン限定ラッピングverなんだぞ!
CAでのナイフはこれ1種類しかなかったが、その代わりかナイフの柄の部分はアバターのようにデザインを変えられるようになっている。
ナイファーだった私は数多くのラッピングを持っているが、中でもお気に入りはバレンタインイベントで限定配布されたものだ。白地に赤色とピンクのハートが散りばめられた可愛いデザインになっている。これのためにめっちゃやり込んだわ…
お気に入りのナイフちゃんを変な模様扱いされた私はさっきまでの遠慮はどこへやら、一転やる気になっていた。シュウはそんな私に対して心配するような顔をしているが、今の私は頭に血が上っていてそんなことは目に入らない。
愛用ナイフちゃんを変呼ばわりされた恩、熨斗つけて返してあげようじゃないの…
闘技場の中央に立つエドガーさんから距離を取り、ナイフを持っていつでも行けるように低く構える。シュウは闘技場の入口付近の邪魔にならない場所で観戦をしているようだ。
私のそんな様子を見たエドガーさんは、嬉しそうに「いつでもいいぞ」と言ったので、とりあえず程々のスピードで正面から突っ込む。
私に対してその場で迎撃体制を取ったエドガーさんを見て、用意していた閃光弾を素早く投げる。これは手榴弾の一種で、破裂と同時に強烈な光と音を浴びさせ瞬間的に相手の感覚を奪い、麻痺させるものだ。
私は閃光弾の破裂と共に光を阻害する対閃光ゴーグルをつけていたので、閃光弾をまともに食らって動けなくなっているエドガーさんの背後に全速力で回り、そのまま項の部分をナイフで切り裂く。
こうしてエドガーさんはシュウの時と同様、開始早々に入口に転送されるのだった。




