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side1 不思議な2人組

sideではリン以外の人目線で話が進んで行きます。今回はリコッタ村の村長ノルドさんです。


 俺はリコッタ村で農業をやって生計を立てているノルドというもんだ。一応、この村の村長ということになっている。主要都市からも遠い辺鄙な場所にある村だが、生まれ育ったこの村には愛着がある。

 最近、あろう事か盗賊団が村付近の森を根城にしているという話を聞いて村全体で警戒していた。


 村に訪れた不思議な2人組に出会ったのはその後すぐの事だった。背の高い、顔の整った兄ちゃんと、この辺じゃ珍しい黒髪黒目の大人しそうな姉ちゃんの組み合わせ。その2人は見たことも無い変な格好をしていた。特に姉ちゃんの方な。

 盗賊団かもしれないという思いから、村の男衆で囲んでしまったことは今となっては申し訳ないと思っているよ。


 そんないかにも怪しい2人組だったが、突然村に現れたグリーンバードを簡単に退治しちまった。あれには驚いたね。グリーンバードってあんなに簡単に倒せるもんじゃねぇしな。

 なにをどうしたのかは分からないが、この2人組は相当な魔法の使い手ということは確かだ。


 そして、そのあとの行動にも驚いた。特に報酬を要求することもない上に、なんと貴重なグリーンバードの肉を村人全員に振舞ってくれたのだ。あれは今まで食べた肉の中で1番美味かった。あんなうまい肉、人生で食べたことねぇし、これから先食べることもないだろう。

 村のヤツらも喜んで食べていた。グリーンバードは大きな鳥なのでかなりの肉が用意されていたが、最後の方は取り合う形になり競うようにみんなで食べ切ってしまった。


 泊まる宛ても無さそうだったので、夜になったら俺の家へと案内した。こいつらにざっとこの村のことや世界について教えてやると、感心したような、納得したような不思議な顔をしていた。

 どうやら田舎者っていう部分は間違いじゃ無さそうだ。こんなことも知らないのだから。

 物置部屋を片してやり、別の家から借りてきた布団を敷く。敷いている途中でチラッとそういや男女だったなということが頭に浮かぶが、あの2人なら大丈夫だろう。兄ちゃんには少し可哀想だがな。案の定、姉ちゃんは熟睡で兄ちゃんは眠れぬ夜を過ごしたそうだ。


 大人しそうな見た目に反して、破天荒な姉ちゃんが散歩に行くといって出かけて行った時は笑ったな。前夜寝られなかったがために昼寝していた兄ちゃんの方がすぐ起きてきて、姉ちゃんがいないと知ったあの瞬間、面白いくらい呆然としてたからな。

 少し待ってりゃ帰ってくると励ましたが、村の女たちが総出で慰めに行くくらいは悲壮感漂ってたし、姉ちゃんを心配していたな。今生の別れでもないんだから少し大袈裟だとは思うけども、それだけ姉ちゃんが大切ってことなんだな。


 姉ちゃんが散歩に行ってしばらく経ったとき、森の方からかなり大きな音が聞こえてきた。村は大騒ぎで、どこか国が攻めてきて大きな火魔法を使っただとか、グリーンバードのような強い魔物が森に現れてこっちに向かってくるかもしれないとか、そりゃもう大パニックだった。

 そんな中、さっきまで使い物にならなかった兄ちゃんが急に立ち上がった。あの音に聞き覚えがあったのか、村のヤツらに「あれは多分俺の仲間のリンさんですから安心してください」と言った。その言葉には妙に説得力があり、半信半疑だった村の連中もみんな兄ちゃんを信じたようで、騒ぎは収まった。


 そしてそのまま、確認してきますと一言残して全速力で森へ向かっていってしまった。かなりの速度だ、よっぽど姉ちゃんのことが心配だったんだな。

 やがて、兄ちゃんに連れられて姉ちゃんが帰ってきたが、くどくどとお説教をされてて笑っちまったよ。兄ちゃんは真剣だが、姉ちゃん全然聞いてねぇし。


 姉ちゃんは散歩の途中でオークの集落にかち合ったらしく、あの大きい音はオークの集落を一気に焼き尽くすための魔法の音だったらしい。

 証拠にと言って30個程の魔石を見せてくれた。その場で誰かを助けたのか、お礼にもらったと精霊石を出した時にはこの姉ちゃんの危機感の無さに頭を抱えそうになった。俺が悪いヤツだったらどうするつもりだったんだ。

 そしたらどうも姉ちゃんはこの精霊石という物を知らなかったようだ。そりゃ、存在を知らないのなら価値を知らなくてもおかしくない。高価なものだと教えると驚いていた。俺はそんなものを20個近く貰った姉ちゃんに驚きだよ。


 グリーンバードに続きオークの集落とは、この村は不思議な2人組が来てくれなかったら終わってたな。

 姉ちゃんたちはもう出発することに決めたらしい。寂しいが、この村には何も無いしな。長居しても仕方ねえか。グランリールまでの道のりを簡単にだが教えて、少しばかりの食料や水、マント替わりの外套を渡す。これでその変な格好も少しはマシになるだろう。

 見送りは俺だけのつもりだったが、手の空いた村のヤツらがみんな来ていたようだ。みんなで手を振ると、アイツらも笑顔で振り返してくれた。


 3日間のとても短い付き合いだったが、この2人には返せないくらいの恩ができちまった。また次遊びに来た時は、俺の家へ泊めてやろう。それまでに、少しでも兄ちゃんと姉ちゃんの関係が進展してることを祈って。


 俺は不思議な2人組に手を振りながら、そんなことを考えていた。




今後もsideという形で別目線の話をときどき投稿していきます。よろしくお願いします。

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