第10話 グレネードすごい
カロさんの結界のおかげで、オークの集落周辺にはグレネードの被害はないようだ。
腕の中の2人を離し、もう大丈夫だよと伝える。
『凄まじい爆発でしたね、あれならあのオークの集落はひとたまりもないでしょう』
『リン、すごい!カッコイイ!』
『結界もギリギリ耐えられたみたいです。思った以上の威力でした』
ふと見ると、オークの集落を覆っていた結界にヒビが入っていて今にも割れそうだった。
カロさんがそっと腕を前に出すと、結界は跡形もなく消えていく。
『全魔力を使ってかなり強い結界を張ったのですが…リンさんの魔法はすごいですね』
あはは、グレだけで仕留めきれるか不安だったからグレ3個も投げたしね。どう考えてもオーバーキルだよね。
そのせいか、かなり大きな音がしたけど、こんな森の奥から爆発音がしたら村の人たち心配しそうだなぁ。
「一応、オークの生死を確認してくるので、2人はここで待っててね」
カロさん親子にそう伝え、オークの集落があった場所へ向かう。
グレネードの威力は凄まじく、結界があった場所は木も草も跡形もなく、焼け野原になっていた。森さん、ごめんね。非常事態だったんだ許してくれ。
結界のおかげか懸念していた延焼などは起こっておらず、火事の心配も無さそうだったのが救いだ。
30体はいたであろうオークたちは死体すら残らず灰になっていた。
ただ、オークのドロップであろう小さな白い石がそこかしこに落ちていた。これだけは焼けずに残ったんだろう。ひとつだけ、周辺の白い石よりも大きな白い石があるけど、オークの上位種のドロップ品なのかな。
30個ほどの小さな石とオーク上位種のものらしいある程度の大きさの石を全て拾い、倉庫にしまう。
生き残りがいないことを確認した私は親子の元に戻った。
その時、かなり早くこちらに向かってくる足音が聞こえた。
『誰か、ものすごく早いスピードでこちらに向かってきている者がいます』
カロさんが耳を澄ませている。
『若めの男の人…でしょうかね。どうやらなにかをとても心配しているようです』
すごいね、気配だけでそんなことも分かるんだカロさん。
そして、その向かってくる人にはとても心当たりがあります。
「2人とも、安心していいよ。今来てるのは私と一緒に旅をしている仲間で、悪い人じゃないから」
「リン…さんッ!!」
そんなことを2人に説明している間にシュウが到着したようだ。あの爆発音がした後走ってきて今着いたってことは、この場所は村からそんなに遠くないのかな?っていうか、音だけでよく場所がわかるな。
かなり早いペースで走ってきたのか、息も絶え絶えになったシュウが私を見つけた瞬間、ホッとした様な、安心したような顔をして私をぐっと抱き寄せる。
えーと、突然どうしたんだいシュウさんよ。
「リンさん!とてもとても心配したんですよ!一体何やってるんですか!」
「あー、ごめんごめん。分かったから離してくれ」
ぎゅうぎゅうに締められて苦しい。これ心配して思わずって言うより、もはやトドメさしにきてんじゃないの?
ドンドンとシュウの胸を叩くと、シュウはこの状況に気が付いたのか慌てて私を離す。
その瞬間、チロルがシュウの足にガブっと噛み付いたようだった。
『わるいやつめ、リンになにすんだー!』
「いてててて、なんですかこの白い猫は!」
噛まれた足を軽く振ってチロルを引き離そうとするが、余程強く噛み付いているのかチロルは離れない。
「チロル、私は大丈夫だからシュウを離してあげて」
シュウの足に噛み付いているチロルをそっと撫でると、しぶしぶと足から離れる。
そんなチロルを抱き上げるとチロルは満足気な顔をした。
シュウは噛まれた足が痛いのか、ちょっと涙目になっている。
そのままバチバチとシュウとチロルは睨み合っていたが、ふと大事なことを思い出したようだった。
「リンさん、この焼け野原といい、さっきの音はグレネードですよね?何があったか説明してもらいますよ?そもそも、リンさんは散歩に行ったはずですよね?」
あっそうだった、私は散歩に来たんだった。
そこでようやく本来の目的を思い出したが、困ってる猫ちゃんを見捨てるなんて私には出来なかったんだから仕方ない。
シュウに説明をするのはいいんだけど、そうなるとカロさんたちの事情も話さないといけなくなるから、私の一存では決められないな。
「カロさん、シュウに何があったのか最初から話していいかな?」
『リンさんのお仲間ですので、もちろんいいですよ。その方は悪い方ではなさそうですし』
カロさんはあっさりOKしてくれた。
焼け野原がとても落ち着かないので、まずは全員でカロさんたちがいた洞窟に移動する。
そこで少し落ち着いた後、カロさんに再度許可を貰ってこれまでの経緯をシュウにざっと説明する。
カロさんとチロルのこととか、妖精のこととか、オークのこととか。あ、私の戦闘シーンは1番気合い入れて伝えたよ!
「はぁ、いろいろツッコミどころはありますが…リンさんは無茶しすぎです」
私の話をとりあえず黙って聞いていたシュウが吐き出すように言う。
思いのほか壮大な話になったはずだが、シュウ的に1番のポイントはそこなのか。
「カロさんたちが困ってたんだから、仕方ないよ。ねー、チロル」
『うん!リン、強くてカッコよかった!』
洞窟の中で座っている私の膝の上で気持ちよさそうに私に撫でられているチロル。可愛い、すごい癒される。
『リンさんのおかげで助かりました。本当にありがとうございます』
カロさんが改めて私に頭を下げる。
「カロさん、気にしなくていいよ。ところで、迎えはくるのかな?」
『はい、もう来ております』
カロさんが洞窟の奥の方に手を向ける。
いつの間にか、洞窟の奥に草花に囲まれたキレイなガーデンアーチが設置されていた。
ただの岩が露出しているだけの洞窟に、あまりにも不釣り合いなガーデンアーチにしばし見とれる。
じーっとガーデンアーチを見ていたら、アーチの向こうから1匹の黒い猫が出てきた。あれ?何か袋を咥えているっぽい。
黒猫は私たちの前までトコトコ歩いてきて、その袋を私たちの前にドスンと落とした。音からして、結構重そうだ。
『リンさん、少ないですがお礼になります。私たちにはさほど必要なものでは無いのですが、きっとリンさんの役に立つでしょう。どうぞ受け取ってください』
「ありがとう、カロさん」
とりあえず中身は後で確認すればいいや。もらった袋を中身を見ずに倉庫にしまう。
『お世話になりました。いつか、妖精王国に遊びに来てくださいね。リンさんたちなら歓迎しますよ』
「うん、そのうち遊びに行くね」
『さぁ、チロル、家に帰りますよ。』
『いやだ!リンといっしょにいる!』
チロルは膝の上で私の腕をぎゅっと抱えるようにして私から離れようとしない。何この可愛い生き物。
そんなチロルの首根っこをシュウがむんずと掴みあげると、カロさんの傍に強制移動させる。
『なにすんだよ!僕はリンとずっといるんだ!』
「リンさんの傍には俺がずっとついてるから、チロルのいる場所なんてないですよ」
『なんだとー!』
シュウ、すっごい大人気ないよ。チロルと同じレベルで喧嘩してんなよ。
シュウとチロルがあーだこーだ言い合っているうちに、カロさんがチロルを引きずって無理やり連れていった。
『リンさん、チロルが最後までご迷惑おかけしてすみません…』
カロさんがとても申し訳なさそうにチロルを引っ張ってガーデンアーチへと向かう。
「あはは、私は楽しかったよ!じゃあね、カロさん、チロルもまた会おうね!」
『またぜひ』
『リーンー!また会おうなー!』
2人がガーデンアーチをくぐると、先程までそこにあったはずのアーチは跡形もなく消えていた。
こうして、私の長い散歩は無事終わり、村へと帰ったのだった。




