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第1話 異世界に来てしまったようです

思いつきで始めたものなので、暖かく見守っていただけると嬉しいです。

 


「だあああああああ!!!また負けた!!!」

「あははっ、先輩、まだまだですねー」


 MVPを後輩に取られて悔しさから頭をガシガシと掻きむしる。

 私は神田凛花(かんだ りんか)。身長は160センチ、黒髪のボブっぽい髪型で、顔は一般的という何の変哲もない25歳のOLだ。

 今、職場の後輩である藤原柊示(ふじわら しゅうじ)と日課となっている有名オンラインゲームのFPSをプレイしている。


 2人でハマっているFPS「Code Ace(通称CA)」は世界的に人気のあるオンラインFPSだ。

 FPSというのはファーストパーソンシューティングゲームの略称で、一人称視点(自分視点)で行うシューティングゲームのことである。

 CAはオンラインFPSならではのチームを組んで相手チームと戦うモードや、吸血鬼やゾンビなどの人外モンスターを倒しながらクエストクリアを目的とするクエストモードなど幅広い遊び方があり、それが人気の理由のひとつでもある。


 私とプレイを共にしているこの藤原柊示、年齢は私より2つ年下の23歳で180センチの高身長。

 スッキリと整えられた黒と茶色いメッシュのいかにもオシャレリア充な髪型に、甘いマスクのなかなかのイケメンで、会社の女の子によく噂されているらしい。

 頭の回転も早く、仕事もできて上司、同僚、後輩、果てには食堂のおばちゃんと誰にでも人当たりが良いという、とてもけしからんハイスペックイケメンだ。


 恋愛なんてするよりゲームをしていたい私にとってはただの職場の後輩という認識だが、趣味がゲームということで意気投合し、こうやって週に何回か音声通話で話しながら共にゲームをする仲なのだ。

 最近はこのCAに2人してハマっており、2人でゲームをするといえばもっぱらCAになっていた。


「次は!負けんからな!」

「そういうセリフは俺に勝ってから言いましょうね〜」


 この時点で察することができるが、私はギリギリ良くいえば大雑把、ストレートに悪くいえばガサツで男勝りな性格をしている。会社で藤原柊示を虎視眈々と狙う女子社員のように、自分を磨く時間があるなら、ゲームの腕を磨いていたいお年頃なのだ。


 会社ではある程度年相応の猫を被っているが、ことゲームになるとやはり地が出てしまう。

 そのせいか、後輩の藤原柊示には3日に1度は「口が悪いですねぇ」と言われているが、私は全く気にしていない。そんなのは個性の範疇なのだよ!

 今では、藤村柊示は素の自分が出せる数少ない友人の1人となっている。


 先ほどは藤原柊示にMVPを取られて負けてしまった。

 次は負けないと意気込みつつ、勢い良くゲームスタートをクリックする。


「ふぁ、ぇ?」


 ゲーム開始画面のAre you ready?というお決まりの表示が出た瞬間、目の前が真っ白な光に包まれた。

 眩しい光に目も開けていられなくなり、ぎゅっと反射的に目をつぶる。

 何が起こったかわからないが、そっと目を開けるとそこに広がっていたのは膝下ほどの草々が青々と茂るのどかな草原だった。


「あれ、私自宅にいたよな...?何これ。草原?」


 目の前の現実に頭が追いつかず、ただ呆然と思考を放棄する。空からは日差しが降り注ぎ、そよそよと吹く風が気持ちいい。

 ふと自分の現在の状況を確認してみる。さっきまで一人暮らしの部屋で後輩とゲームをしていたため、完全に部屋着の状態だ。

 私に女の子らしさというものは無縁と思われがちだが、実は可愛いものが好きで部屋は意外と可愛いもので埋め尽くされている。


 そんな私の部屋着はピンクと白のボーダーのモコモコしたパーカーで、フードには猫耳がついている。某有名なオシャレ部屋着専門店で奮発して買ったものだ。

 上下セットだったので、下は同じ柄でモコモコ素材のショートパンツにレギンスというなんとも草原にミスマッチな格好だった。

 何故か靴は自前のスニーカー。部屋にいたからスリッパ履いてたはずなんだけど...なにこれ善意なの?


「何が一体どうなったんだ...ここどこなの...」


 心細さからなんとなくフードをかぶり、何故かその場で体操座りをする。初めのうちは不安で下を向き小さくなっていたが、草原は思いのほか座り心地がよく、座るだけではもったいないと思いその場で大の字に寝転んだ。


「わー、すっごいいい気持ち。眠くなりそう...」


 吹き抜ける風と暖かい日差しが心地よく眠気を誘う。

 考えることをとうに放棄した私は、この世界状況などなんの確認もせずあろう事かその場でうたた寝をしそうになっていた。


「この状況でよくそんなこと言ってられますね...」


 眠っちゃいかんと思いながらも瞼が完全に閉じかけたとき、頭上から聞きなれた声が飛んできた。


「その声は、意地悪な後輩の藤原くん!」

「正解ですが意地悪は余計です」


 声の主に目を向けると、少し呆れた顔の藤原柊示がいた。

 藤原柊示も一人暮らしの部屋でゲームをやっていたらしく、白いTシャツの上に赤色のパーカーを羽織り、黒いスウェット生地のズボン姿という完全な部屋着だった。私と同じく何故か靴は履いている。部屋の中で靴を履く主義なのかな?

 真面目な彼はボタンのきちんとしたパジャマなイメージがあったのだが、思ったよりラフな格好をしていた彼にはなんとなくガッカリだ。


「なんか失礼なこと考えてますね?」

「い、いやそんなことないよ!」


 考えていることが顔に出ていたのか、整った顔でギロっとこちらを一瞥する彼に、こいつは心が読めるのか...とドキッとしつつ、平静を装って言葉を返す。


「まぁ、そんなことは今はいいです。それより、この状況はなんですかね?」


 キョロキョロと辺りを見回しながら私に質問をする。だがそれはとても意味の無い質問だよ藤原くん。

 私より頭のいい貴方に分からないのなら、私にとっては分かるはずがないのだから。


「私に分かるわけがないだろう!」


 自信を持って答えると後輩くんは更に呆れた顔になる。

 なんだが酷くバカにされている気がするが、気の所為だろう。


 そこで、ふとある単語が頭に浮かんできた。


「異世界召喚...」

「はぁ?」


 私の呟きを拾ったらしい彼が怪訝な顔でこちらを見る。


「いや、だってネットの小説とかでよくあるじゃん!突然異世界に召喚されてってやつ!」

「アニメとかでもありますね、そういう設定の話」

「直前にやってたCAとなんか関係あるのかな?」

「とりあえず先輩の中で異世界転移は確定してるわけですね。それは...どうなんですかね?」


 CAはFPSなので、主に銃火器をメインに装備して戦うゲームだ。

 倉庫に所持している銃火器が入っていて、それをアタッチメントなどでカスタムしたり、組み合わせを考えたりして自分だけの戦闘スタイルを作っていく。


「物は試しだよね。えーっと、倉庫!」


 軽い気持ちで普段ゲームで使っている項目を口に出してみる。すると、目の前に透明なウィンドウが出てきた。


「わ、わ、なんか出たよ!」


 後輩くんも驚いて私の前にあるウィンドウをマジマジと見つめている。そのウィンドウには、私がCAで持っていた銃火器が一覧で表示されていた。


「おぉー。やっぱりこれはゲームとか異世界に転移で間違いない...のかな?」

「まさか、ありえない...。けどこれは現実に起こっているわけだし...」


 おう、後輩くんがなにやらいろいろ考え込んでいるようだ。じっと下を向き、顎に手を当ててなにやら思案している。

 そこで私は、他にもゲーム内で使えるものを試してみることにした。


「ショップ」


 ショップと口に出すと、ゲーム内通貨であるCPコストポイントで買える銃火器や弾丸の一覧がウィンドウに表示された。


「銃火器や弾はCPで買うのか、この辺はゲームと同じだね」


 ウィンドウを指でスクロールしていくと、武器以外にも回復アイテムなども買えるようになっていた。


「回復アイテムも買えるのかー」


 CAと内容は変わらないな、とスクロールしながらいろいろ見ていくと、自分の世界から帰還した後輩くんが声をかけてきた。


「とりあえずこのままでは埒が明かないですね。現地の人に話しを聞きに行きましょう。」


 私がショップを眺めている間にも彼はいろいろと考えていたようだ。さすが頼れる後輩である。


 彼の意見に同意した私は、情報を得るためにとりあえず街探しに向かうことにしたのだった。



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