第七話 白い少女3
扉を開けると、そこは意外にも何の変哲もない廊下だった。元いた部屋の印象からすると、思いの外広く小綺麗に見え、アーシェはいささか拍子抜けする。
左右を確認する。汚れ一つない正面の壁に沿って進んだ先に、ごくありふれた扉があった。
(あそこに行けばいいってこと?)
アーシェは歩き始めた。とはいっても、大した距離ではない。すぐに扉の前に辿り着く。
おもむろに腕を伸ばす。それが震えていることに気付いて、アーシェはもう片方の手で腕を摑んだ。
「……大丈夫」
大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
半ば呪文のように、同じ言葉を幾度も唱える。脳裏に過ぎったのは、自分を守って倒れる侍女の姿。
「…………大丈夫」
扉を開く。
「ナターシャ!!」
――もしかしたら、酷い悪夢を見ているのだろうか。
ナターシャは、本当はあのまま殺されて、私自身もまた死にかけたまま、都合のいい幻想を見ていただけなのではないだろうか。
がらんとした薄暗い中に、ナターシャの姿はなく。
「…………ナター、シャ?」
振り返る。進んできたはずの廊下は消え失せて、王都の寒々とした路地裏がただ延々と広がっていて。
「……………………ナタ、」
だから、もう限界だった。
「――おい!!」