第四話
「ああ、クリス君。昨日はお疲れ様」
不意にかけられた声に、少年は振り向いた。目の前に立っているのは、二十歳そこそこと見える細面の青年。
「……ああ」
少年は短く応じた。少女のように整いすぎた外見には不似合いな――あるいは似つかわしい――素っ気ない返事に、青年は気を悪くした風でもなく続けた。
「何か飲む? 今ならサービスで君の分も用意してあげるよ」
「いい」
「そ」
青年はあっさりと引き下がると、店の奥に引っ込んでいった。
カウンター席に座ったクリスは、一つ息を吐き出した。
王都の片隅に建つこの飯屋は、相も変わらずがらんと静まり返っていた。「飯屋」などとのたまいながら、客は滅多に訪れず、ほんの僅かな常連が気まぐれに顔を出すきりである。元より道楽の類だろうから、店主たる青年にとっては問題ないのかもしれないが。
益体もないことを考えていると、目の前にことんとカップが置かれた。中に注がれた透明な液体が、柔らかな湯気を立てている。
青年は既にカウンターの対面へと移動していた。特に何を言うでもなく、自分の分のカップを口に運んでいる。
礼を言うのは妙な気がした。クリスもまたカップに口をつける。
「……ハーブティーか」
「そう。イライザさんのね」
早朝の頭にそれはじんわりと広がっていった。あるいはこれは、青年なりの気遣いなのだろうか。
「……ありがとう」
青年は少し目を丸くし、
「どういたしまして」
「そういえば、これからどうするつもり?」
青年が切り出したのは、淹れられた茶を、クリスが飲み干した頃だった。
クリスは何となく手元のカップに視線を落とした。小さなそれは、もうとっくに空になっている。
「……さあ」
「だと思った」