第十三話
「……それで? クリス君。これからどうするの?」
昨日から数えれば既に三度目の問いかけに、クリスはいささか眉をひそめた。
問いを発した青年は、しかし意外にも真面目な顔でこちらを見つめている。
アーシェを森まで送り届けた後、クリスは早々に王都のエリノアの店まで戻って来ていた。すぐに帰ってくることは分かっていたのだろう。エリノアはそれ自体には大した反応を見せず迎え入れたのだが。
訝しげなクリスに対して、店のカウンターを挟んだエリノアは、ほんの少し肩をすくめた。
「別にからかいたい訳じゃないよ。ただ、こればっかりはきちんと確認しておく必要があるかな、って」
「…………考えてない」
「まあ、そうだろうけど」
この問答もまた三度目だ。実際クリスは、深く考えてあの少女を助けた訳ではない。
エリノアは、テーブルの上に置かれた自らの手料理を、軽くフォークでつついた。
「あの女の子、アーシェちゃんって言うんだっけ? 彼女、多分この国のお姫様だよ」
クリスは、ハッとして、自分の前にもある皿から目を上げた。
何か言いかけ、結局言葉にならず口を噤む。
エリノアは少し苦笑し、
「まあ、要は気を付けた方がいいよ、って話」
「……」
クリスは黙ったまま、また俯いた。
(ちょっと踏み込みすぎたかな?)
手製の遅めの朝食を口に運びながら、エリノアは思った。クリスの戻るであろう時間に合わせて作ったもので、口に含むとまだ十分熱い。
手を付ける様子のないクリスにも再度勧めると、クリスは無言で食べ始める。
(……って言っても黙ってるのもなあ。クリス君って変にぼんやりしてるところあるし)
自国の王女が何者かに命を狙われている。
その状況のきな臭さもさることながら、エリノアが危惧しているのは、昨日相対した刺客の力量だった。
(路地の方はともかく、屋敷にいた人は何となくやばそうなんだよね)
昨晩は相手が油断しており、かつ不意を打てたからどうにかなったが、正直なところ、もう一度会いたいとは思わない。
――とはいえ。
「……さっき送ってった時、彼女どうだった?」
急な話題の変化に、クリスは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに答えた。
「嬉しそうだった」
「そう。良かったね」
クリスは素直に頷いた。エリノアは内心苦笑しつつ、努めて軽い調子で告げた。
「まあ、どうするにせよ、――彼女たちの話を聞かないことには始まらないんじゃないかな?」