第十二話 迷子の少女3
赤いお下げが揺れる。
触れられた手から温もりが伝わって、自分は無意識に握り返す。
彼女は少し驚いて、それでも「仕方ないな」と微笑んで。
その時の表情を、今でも不意に思い出す。
*
「お前の大事な相手は、もうすぐそこにいる」
クリスがそう告げた瞬間、金色の髪をした少女は大きく目を見開いた。
きっとさぞ信じられないような思いだっただろう。薄暗い路地裏が、一瞬にして深い森の中に変わっていたのだから。
だが、戸惑いが浮かんだのも束の間、その大きな蒼い瞳が、みるみる涙で滲んだ。クリスを追い越して、幼子のようにパッと駆け出していく。その先に立っていた若い女が、飛び込んできた少女を強く抱きしめる。
(……良かったな)
少女たちの再会を遠目に眺め、クリスは思った。
(会えて、本当に良かった)
――と、少女がふと振り向いた。女に何事か告げ、すぐにこちらに戻ってくる。
「……どうした」
駆け寄ってきた少女は、改まった顔でしばしクリスを見つめ、
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた。
「ナターシャが――侍女が無事だったのは、あなたのおかげです」
クリスは少し言葉に詰まった。
「俺は何もしてない」
「そんなことはないです」
少女――アーシェはふるふると首を振った。
「本当に、ありがとうございました」
少女はふわりと微笑んだ。それは、初めて目にした、彼女の自然な笑みだった。
踵を返し、また侍女の元へ戻ろうとする。その後ろ姿を、クリスは思わず引き留めた。
「……良かったな、会えて」
アーシェは少し目を見開き、ゆっくりと頷いた。
「はい」