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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その丘サーファー、史上最強につき

作者: 散桜

今日も風が気持ちいい。

絶好の風乗り日和だ。


この風は、色んな思い出を甦らせてくれる。



「オレ、これが終わったら波乗りに行くんだ」

「おい、自殺宣言止めろ」


「いやいやいや・・それ言うなら死亡フラグだろ?」

「分かってんじゃねぇか」



「アレが また来てんだぞ?」

「あぁ、分かってる」

分かってるから行くんだよ。


アレ。

アレとは、台風の事だ。


その台風は、ただの台風じゃない。カテゴリー5を軽く越えて、計測不能と言われた台風だった。

その台風は、何の前触れも無く・・いきなり小笠原諸島に現れた。

そして、近海の海から『島』という突起物を全て消し去った。

海抜0メートル以上に島の影も形も無くなった。

それは、大気圏外の宇宙ステーションから撮影された映像で確認された。

確認されてしまったのだ。

それほどの暴威をふるっておきながら、突如として消失した為に、近海の惨状が見渡せたのである。

人の居た痕跡など一切残っていないという惨状。ただただ、ただただただ、海が広がっていた。

突如として かなりの領土と領海を失ってしまった、当事国である日本だけでなく・・国際的にも大問題になった。


規模の事もあるが、急に現れ急に消失した事が問題だったのである。

『我が国がアレに襲われない保証は無い』。


そもそも、本当に『台風』だったのか。

海上から島を消し飛ばせるモノが自然災害であって良いのか。

疑念は尽きなかったが、『核』を使ったという証拠も一切検知されず、『異常過ぎる台風』という結論にするほか無かった。


そんな『台風』だが、台風と海辺、とりわけ浜辺には切っても切れない現象が起きる。

『絶好の波』だ。

それと、単純に人気(ひとけ)が減る。

普段は格好だけの『丘サーファー』であるオレみたいなのにとって、人目を気にせず練習しまくれるチャンスだ。

台風で荒れる波を乗りこなせられれば、普段の波なんか軽いモノだろう。


そんな事を思っていた日が、私にもありました。


その結果、波に飲まれ・・気付けば何もかもを失っていましたとさ?



目覚めたオレの目の前には、見渡す限りの草原。

空全てを覆う水。

地上から天高く流れ上がって行く滝。

そんな中、サーフボード片手にウェットスーツに裸足で立つ中年オヤジ。違和感たるや・・。

苦笑しか洩れて来ない。


しかも?

巨大な動物に追われて逃げる美少女が走って来た。。

こっちに向かって来る以上、この違和感しか無い中年オヤジも巻き込まれるのは確実。

どうせ死ぬなら、カッコつけて男らしくいきたいじゃん?

とはいえ、持ってる物なんかサーフボードだけ。あの突進に へし折られて終わりだろう。

その数秒で、あの少女が数メートルでも長く逃げられるかどうかくらいの賭けだ。

盾にせず、槍の様に構えてみた。


結果として言えば、ボードから噴射された何かで巨大な動物はバラバラに飛び散った。

オレが後ろに庇った少女と2人して ただ唖然としたのを覚えている。


少女を間近で見ると、かなりの美少女だった。

遠目から見ただけで美少女と分かるくらいだったんだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。


少女に招かれ・・少女が住むという村に行ってみて、現実を認めるしか無いと思った。


そもそも、体調10メートルはあるイノシシみたいな動物?

そんな化け物に追われ、逃げれていた少女?

その少女にしたって、耳は横に長く・・笑うと、やけに犬歯が長く目立っていた。華奢な腕の先の指先も、指先自体が長く鋭利に尖っていた。

何故か言葉は通じるのだが・・。


・・きっと、ここは地球では無いのだろう。



村で世話になり、この世界の事を知っていった。

この世界・・なんと、『魔王』が存在するという。

そして、語り継がれる伝承の中の『異装束の勇者様』という存在。


少女が村人達に オレにどう助けられたのかを伝えると、村人達とは どう見ても『違う』装束であるオレに村人達からは ある疑問点が生まれた。


『異装束の勇者様なのではないか?』と。


助けた少女の父親から、伝承を参考に検証をしてみようという話になった。

「余計な事を・・」とは思ったが・・少女の瞳が期待に輝き、やるしかなかった。

だってさ・・?

中年のオッサンだって男なんだもの・・女の子の前でカッコつけたいモンじゃん・・?




少女、名前はシシトゥル。

シシトゥルと結ばれるまで、そう時間は掛からなかった。

シシトゥルのお腹が大きくなる頃には、勇者様としての『力』も使いこなせる様になっていた。


そのまま幸せに過ごしたかったけれど、魔王が世界に侵攻し始めてしまった。




泣き、引き留めるシシトゥルをなだめ・・・今生の別れ・・生まれてくる子供の為に世界を救わねばならなかった。

せめて、相討ちに持ち込めれば御の字だろう。シシトゥルとの出会いに感謝を。そして、まだ見ぬ生まれてくる子供の未来に幸あれ。





魔王は呆気なく倒せた。


オレの能力の一つ、『ゲート』を使い・・かなり悲惨な死に方をさせてしまった。

相手が『魔王』だったとはいえ・・死に方の尊厳くらいはあったのではないか・・。


液状化した腕を突き刺し、そこから『ゲート』で喚び込んだ海水を噴出させたのだ。・・・一切の制限無しに。

体内から超高水圧の噴出をされた魔王は、木っ端微塵に吹き飛んだ。

TVで観た水爆の爆発を思い浮かべてもらえれば分かり易いだろうか。

オレの場合、水素爆弾では無く・・水の噴出が激し過ぎて爆発した様に見えただけだけどね・・。

魔王を爆心地に、周囲20キロは消し飛んだ。

それまでの戦いで、既に かなりの有り様だったのだけれど、噴出する水流と水圧でキレイに(なら)され・・巨大な円形の湖になっていた。



村に帰り・・シシトゥルと、生まれていた子供に会えた。

子供は、シシトゥルに似た愛らしい女の子だった。



愛娘トゥルラは もうすぐ10歳だ。

トゥルラの弟トゥルルはお姉ちゃんが大好きな6歳。


風に乗るサーフボードの上、オレの背中に抱き付くシシトゥルの美しさは変わらない。とても二児の母親とは思えない美人で、いまだに夢なのでは無いか不安になる。

オレのボードに並走する様に飛ぶ小さめなボード二艘には、トゥルラとトゥルルが乗っている。


オレしか出来なかったハズの風乗りが、トゥルラとトゥルルにも出来た理由は当初分からなかったが、シシトゥルが答えをくれた。

オレに抱き付くシシトゥルだが、無力な訳では無い。

実は、身一つで飛行出来る。


出会った当初は か弱い少女だったシシトゥル。

そんな彼女は、いつも辛そうにしていた。

倒れた事も・・高熱にうなされた事も、吐血した事だって、一度や二度では無かった。


飛べる様になった後に知ったのだが、オレと出会う前のシシトゥルは決して『か弱い』少女では無かったという。

そんな彼女が体調を崩したのは、オレと身体を重ねてからだったそうだ。

恐らく、オレの何かが彼女の身体を侵食していたのだ。

そして、その侵食が終わり・・シシトゥルを完全に変えてしまった事で、シシトゥルの身体の変調は終わったのだろう。

最初から この世界の住人だったシシトゥルは変調をきたし、血の半分を引くトゥルラとトゥルルは最初から耐性があったという事なのだろう。


シシトゥルが辛い思いをしていたのはオレのせいだった、そう知ったオレは自分を責めに責めた。

でも、シシトゥルはオレを宥めてくれた。

体の変調は確かに辛かったが、貴方と過ごした時間が癒してくれたのだ・・と。

オレは、シシトゥルを生涯愛し続けよう。


オレは、ここにいるシシトゥルを・・。

・・病める時も。

健やかなる時も。

富める時も。

・・貧しき時も。

妻として愛し。

敬い。

慈しむ事を誓う・・。



今日も、世界は続く。

愛する妻と娘と息子が居てくれれば、オレは何だって出来る。


水の上で波乗りに成功した事は無いが、風乗りでオレ以上の者は居ない。

それで良いと思う。


だって・・オレは、丘サーファーなんだからな・・。

電車の中で台風情報のニュースを見てて、ふと思いついた短編です。

ほら、台風の最中に波乗りに行く人・・居ますよね。

そんなバカな人のお話です。



↓↓以下、一応、『設定』を記載。↓↓


主人公は、

・サーフボードで空中を飛べる。風があればスピードも増す。

・身体を『液状化』できる。液体は『海水』

台風の荒波の中、「オレも水になれたら苦しくないのに」と願ったのが元になっている。

・海水になるのは、溺れたのが海中だった為。

・『ゲート』は、『液状化』した時に使える能力。

液状化した部分を媒介に『出入口』を開け、無尽蔵に海水を出し入れ出来る。

本人は『蛇口』と呼んでいる。

魔王を倒した時も、ど真面目な顔で死に物狂いな感じに「蛇口っ!!!」と叫びました。何か力抜けますね。


・『魔王』は妙齢の女性の様な姿で現れ主人公を陥落しようとしますが、なびかないと分かるや、二足歩行するスマートなゴリラの様な姿に変わり襲いかかりました。


・異世界ですが、地球と同じく球状の惑星です。

地上に『海』は無く、ある程度までの規模の『池』は有る。

ある一定以上の水量になると溢れて、上空の『海』に落ちて(昇って)いく。

その『海』が成層圏に当たる。厚い水の層で、地上から溢れた水と一緒に空に落ちてしまった魚介類が繁殖している。

夏場に茹であがった状態で落ちてきたり、冬場にカチコチに凍結して落ちてきたりする。

この世界での自然現象のひとつ。

・上空の『海』も、ある程度の許容量の限度があり、溢れたモノが雨として降り注ぐ。

地域により、『毎日・週1・月1・まったく降らない』の隔たりがある。


・『水の層』で包まれた星の為、水中から水面を見上げた様な景観で・・水中に降り注ぐ様な日差しが差す。

どんな静かな夜も、上空の水面の さざ波の音が響いている。



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