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夜空

 それから俺は夕食の時間まで短刀を作ったり盾を作ったりした。

 『身体変化』をさせる度に体力を使っているのがわかる。

 既に身体が重い。 

 想像以上に疲れているのがわかる。

 これは乳でも揉んで癒されなければならない緊急事態だ。


 夕食の時間にはナルシッソスも戻ってきた。

 そんな早く連絡できるものなのか? 電話でもしたの? と思ったが手紙を送ったらしい。

 なるほどね。手紙があるのか。

 この世界の手紙は届けるのも大変そうだし高そうだ。


 みんなで夕食を取っている時にママにお世話になっているお礼、ギルドから貰った5,000Gの一割、500Gを渡す。

 

 律儀に払わなくても黙ってればわからないだろう。

 金額だって誤魔化すことができるだろう。


 しかしこういう小さな事はだんだん癖になってしまう。

 一度だって誤魔化さないことが大切だ。

 ママは将来の嫁だしな。

 ラブラブちゅっちゅなのだ。


 そして、どうやらママにもコモンドール国からの話は来たらしい。 


「ママ、今日も夕食おいしいです。毎日食べたいなぁ、毎日食べれたら幸せだろうなぁ」


「ミーリア、よかったですね」


 ママは微笑む。

 今日の夕食はミーリア担当かよ!

 

「陽介先生! あたしのご飯が毎日食べたいの? あと5年経ったら結婚してあげようか? 」


 ミーリアは賢そうなかわいい子だ。将来は美人になるだろう。

 だが俺はロリコンじゃない。

 おねいさん好きだ。

 ロリコンはいらぬ。

 その辺でロリロリしてなさい。


「で、結局国はママになんて? 」


「はい、私はこう見えてちょっと凄腕(すごうで)なんですよ」


 ママは少し恥ずかしそうに微笑む。


「この街周辺の治療と警護に協力する事になりました。今すぐコモンドールへは行きませんが、招集がかかったら行くことになるでしょう」


 やけにニコニコしているな。これは…… お金もらったな!

 このニコニコ顔はお金貰った時の顔だ!

 ママ・マニアの俺にはわかる。


 けどそっか、ママと一緒に旅ができると思ったのになぁ。

 ラッキースケベを期待していたのにだめだったか。


 俺達はよつばの『聖神の寵愛』もあるので、いったんコモンドールに行くことにしたことを伝えた。

 正直俺はあまり乗り気じゃないんだが。


 三日後には出発しようと思っているので、それまでに改めて訓練をお願いしたい事、ナルシッソスもその間ここに泊めて欲しいことを伝える。

 どちらも問題なく了承してもらえた。

 特によつばが手伝ってくれるのが嬉しいらしい。 

 やっぱりすごいんだろうな、よつば。

 そういえば。


「ママ、よつばの『ヒール』なんですが、なんか治癒力高くないですか? 」


「治癒力が高い? 」


「はい。私は森でコーンウルフに腕を噛まれてかなりの重傷だったのですが、よつばの『ヒール』ですっかり治ったのです」


「うーん。魔力が高く、治療魔術に適性がある者の『ヒール』なら傷口を塞ぐくらいはできると思いますが。腕の感覚まで戻したとなると、中級以上が必要なはずですが…… 」


 眉間に(しわ)を寄せて「うーん」なんて言っている姿がかわいすぎて頭がおかしくなりそうだ。


 ママぺろぺろ。


「さすがにそこまで強力なはずは…… これも『聖神の寵愛』(ゆえ)にですかね…… 」


 ママぺろぺろ。


 じゃない、ママでもわからないのか。

 ママが近くにいると精神年齢が(いちじる)しく下がる。

 まずいな。

 はやくママを実際にぺろぺろしないことには知力の低下が収まりそうもない。

 このまま知力が低下し続けてステータスがマイナスになったらどうなるんだ?

 冒険者カードにマイナスって表記されるのか?


 結局よつばの『ヒール』の秘密? はわからなかったが、良く効く!! すごく効く!! って事でいいか。


 オセ分かる?


〈その場を見ていないからな。なんとも言えん〉


 そういやいなかったな。

 まぁいいか。


 俺達は夕食を済ませるとそれぞれ与えられた部屋へ戻る事にした。


 さぁ! さぁさぁ!! 

 これからが俺の時間だ!!


 よつばの部屋に行き約束通り乳を揉ませてもらう!!

 俺は井戸から水を汲んでくると念入りに体を清める。

 何があるかわからないからね。

 俺も卒業してしまうかもしれない。

 

 しばらくしてから俺は隣のよつばの部屋へ行く。

 部屋の扉がまるで童貞卒業へのゲートに見える。

 神々しい。


 俺はやらしく扉をノック、いや、優しく扉をノックした。


 コンコンコン……


 木製のコンコン、と言う音色が心地よい。

 流石神々しい扉だけある。

 俺は期待にドキが胸胸しがら返事を待つ。


 …………


 ……


「よつばさん? よつばさーん? 」


 そっと扉の取っ手に手をかける。

 鍵は…… 掛かっていない。

 

 まったく!! こんな異世界に来て部屋の鍵を掛けないだと!?

 けしからん!! 危機管理がなってない、この世界は危ないのだ。

 よつばが心配だ。

 俺は紳士だからね。


 そっと扉を開くと着替えの真っ最中のよつばがいてラッキースケベが! 

 

 ない。


 あれ? いないぞ? どこ行った?

 トイレか?

 まさか一人で異世界転移とかしてないよな?


 よつばの部屋はとても綺麗に使われている。

 毛布もたたまれており、スーツの上着は椅子にかけられている。


 脱ぎ捨てられたブラもパンツもない。

 つまらん。


 それにしてもこんな夜更けにどこに?

 俺は静まった教会を探すことにした。



 

 夜は静かだな。

 少し気温は下がっているが寒いという程ではない。

 教会の外に出ると雲一つない星空だった。


「はぁ…… 」


 夜空はこの世界も一緒だ。

 少し星が多いかな?


 星空を見ていたらなんとなくため息がでる。

 なぜ俺はこんなところにいるんだろう。

 ほんの少し前までは普通に日本で生活、仕事をしていた。

 

 俺がいなくて会社は大丈夫か? 


 まぁ……大丈夫だろうな。

 組織ってものはそういうものだ。

 むしろそうじゃなくてはならない。

 後任がいないなんて事は合ってはならない。


 俺の代わりか……


 俺は何かしてきただろうか。

 特別な能力は特になかった。

 それは日本でもだ。


 『普通』という言葉は俺の為にあるだろう。

 『童貞』という言葉もだ。

 この二つの言葉とは切ってもきれない関係だ。


 あまりにも普通の人生を歩んできた。

 異世界転移、それは俺のような男ではなく、もっと特別な奴が適してるんじゃないのか?

 なぜ俺だったんだろう。

 特に取り柄もない『普通』だ。

 『普通』が取り柄だ。

 むしろこの世界で冒険者としては底辺だろう。



「はぁ……」


 考えこむとため息しか出ないな。


「あれ? 先輩? 」


 気づいたらよつばが目の前にいた。 

 少し息が上がっている。


「よつば、何してたの? 」


 恥ずかしいのか、少し赤面しながら指先でクルクルと髪先をもて遊んでいる。

 

「今日はごろごろしちゃいましたからね、少し魔術の練習です」


 へへへ、と誤魔化し笑いをするその仕草は破壊力抜群だ。

 童貞の(よこしま)な考えをぶっ飛ばされた。


 真面目に魔術の練習をしているよつば。

 真剣に乳の事しか考えてなかった俺。

 真面目さのベクトルが違う。


 その差は歴然だ。

 

 これが聖神の寵愛を受けたる者って事か。


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