5節(2) 召喚組1年目の軌跡 (2)
第1章5節の改訂版(15/1/24)です。
分割した2番目です。
突っ込みどころ満載の状況が続きます。
side 田中達也 場所 アルトヘイム国、迷宮内ボス部屋
色々懐かしんでいるうちに、俺は目的地のボス部屋に到着した。作戦も協議しつくして完璧だ。皆作戦は頭に入っており、装備などの準備も余念がない。
現在の俺のPTメンバーはこの8人で、名前とレベル職業はこんなだ。
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タッチャン (田中達也) Lv.41 勇者
インフィニットフレイム (高比良清夜) Lv.40 火の魔法剣士
ガンダルフ (川端篤) Lv.40 暗殺者
ケンセイ・ムラカミ (村上賢誠) Lv.41 守護騎士
アーサー (北嶋蓮) Lv.40 施療師
ジャンヌダルク (浅田恭子) Lv.39 勇者
ヴィーナス (木下綺羅羅) Lv.39 風と水の魔法使い
アンナ (井上杏奈) Lv.41 プリースト
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村上と井上は本名を名乗っていた。せっかく異世界に来たのに勿体無いって思ったが、何かの思いがあるのだろうから下手に藪をつつかず黙っている。リーダーとしてこういうところを受容れられないと器が小さいって言われるしな。
今回の戦闘で戦うコボルトは、小柄で犬に似た頭部を持つ人型魔物だ。群で行動し手には武器を持っている個体がチラホラ存在する。仲間意識が強く、群のリーダーつまりボスを倒すまで死兵の如く戦う。迷宮のボスは"コボルトキング"というコボルトのボスだが、それを倒すためには周りの雑魚をどうにかしなければならない。雑魚の数が数百ということなので、俺達といえど疲労して後れを取るかもしれない。
「勇者タッチャン様、開始の合図を!」
「おう、任せときな!」
俺は用意された踏み台にあがり、全部隊へ威厳を示すようにゆっくりと見渡した。皆俺の顔を見て、表情を引締めたようだ。
「さて、いよいよ作戦開始だ!敵に取巻きが数百もいる。作戦は前に説明したとおりに行く。連合軍には取巻きの処理を、俺と仲間は道が出来次第コボルトキングに強襲をかける!」
一度言葉を切る。理解していない指揮官がいないかちゃんと確認する。ここまでの指揮がいきなりできるやつはそういないだろう。前の世界の社内では、俺はチームリーダーから外されてばかりだったが、俺がいるべき場所はやはりリーダーポジションだと再確信した。
大規模戦闘の初実戦指揮だが、連合軍が訓練時ど同様に動けるかが問題だな。数度、戦況パターン毎のリハーサルをしているんだ。足を引張ってくれるなよ。
「では、作戦開始!連合軍、突撃!」
俺の掛け声のもと戦闘は始まった。
まず最初に、連合軍の部隊がボス部屋の扉を乱暴に蹴りあけて雪崩れ込んだ。数歩進んだとき、いきなりコボルト共から弓による攻撃を受けた。意外と知能はあるみたいだ。遠距離武器の弓による先制攻撃は想定外だが、いきなり突撃攻撃で強襲されることもシミュレーションしていた。本来は無理やり力任せで盾で押込む予定だったが、頭上に盾を掲げ一気に突撃し距離を詰めている。
歩兵部隊を援護するべく、後衛の弓部隊や魔法攻撃部隊も遠距離援護攻撃を次々繰出している。
「一本の槍だ!中央を貫くように道を切り開け!」
歩兵部隊が無事に距離を詰めたようだ。中央部を突出させてどんどん斬りこんでいく。歩兵部隊は2層に分かれており、一気に盾を持って距離を詰めた軽装歩兵部隊のすぐ後ろに重装備に身を包んだ歩兵部隊が続いている。軽装歩兵が開いた突破口を重装歩兵が切開き中央に道を作っていく。
指揮官が作戦の内容を復唱する。ちゃんと作戦通りに動いているようだな。感心、感心っと。
今回の作戦は至ってシンプルだ。まず敵中央に楔を打ち込むように連合軍を展開、左右に雑魚共を押しのける。ボス付近まで斬り込めたら、俺達勇者部隊が中央に突撃、ボス周辺を含めて一気に強襲して倒す。ボスさえ倒してしまえばコボルト共は烏合の衆となる。逃出すのは放っておけばいいし、向ってくるとしても大将が倒され足並みが乱れているので各個撃破は容易だろう。
戦闘開始からしばらく経った頃、陣形の中央先端部分の進軍が膠着状態に陥った。もう少し削って欲しかったが、そろそろ俺達が出る頃合だろう。
「予定より少し早いが、ボスへの急襲作戦を開始する!皆俺に続けぇ!」
俺の掛声のもと勇者部隊が中央を走った。
すぐに戦闘エリアに辿り着いた。俺達の火力は連合の兵士を圧倒的に上回る。今までの膠着状態が嘘のように進軍した。
俺達が作った道を連合軍の後続が続く。コボルトキング付近一帯を中心に円形に囲い込むためだ。
コボルトキング付近に近づくと、俺達は左右に分かれボスを囲い込んだ。
円の中央にはボスのコボルトキングがいる。
外側の雑魚処理は付いてきた連合軍に任せ、囲い込んだ中にいるボス以外の取巻きをまずは殲滅することにする。
順調にコボルトの数は減少していった。残り30匹程度になったとき、急にコボルトどもが天井を仰ぎ吠えた。
畜生といっても多少は知性があるのだろう。死を覚悟して最後の悪あがきをする決心をしたってところか。
「気をつけろ!窮鼠猫を噛むってやつだ!」
俺は素早く指示を出す。
次の瞬間、俺の側で血飛沫が飛んだ。
一瞬、何が起こったかわからなかった。
何かの気配を感じ、俺は反射的に剣で何かを弾いた。
(け、剣だとっ!?)
コボルトが剣を振って襲ってきたみたいだ。だが、今までの雑魚は動きはこんなに早くない。これがコボルトキングってやつか!今までの雑魚とは比べものにならない。
「こいつは俺が抑えておく!みんなは…」
「ぐえっ!?」
「きゃぁッ!!」
「ッ!?」
何が起こっている!?そこかしこで悲鳴が上がっている。
パーティメンバーの村上が俺の加勢にくる。
俺は状況を把握するため、村上にこの敵をまかせ少し後退して戦場を見渡した。
どうやらこの状況は戦場の至る所で見られるようだ。何故だ、と何度も頭をよぎる。
何気なしに円の中央を見て、俺は凍りついた。
コボルトが5匹動かずにじっとこちらを見つめていたのだ。中央の一体は剣を片手にもち水平に振り下ろした状態で止まっていた。
まるで指揮のため剣を振り下ろしたような姿勢だった。いや実際に指揮をしたのか?!
先遣隊の話によると、取巻きのコボルトもボス同様の見た目をしているが、ボスは周囲の取巻きに比べ若干良い装備を着けているのが特徴だ。つまり、今目の前にいる幅広の片手剣を水平に掲げ革の鎧を付けているヤツがコボルトキングだったのだ。
「撤退!撤退だ!」
俺は叫んだ。このままでは全滅する。
「周りは敵だらけだぞ!」
「何処に逃げればいい!?」
「いや、このまま押切るべきだ!撤退戦は非常に難しいんだぞ!」
怒号が飛交う。
「何故分からない!敵は力を隠していた、つまり嵌められたのだ!」
俺は状況を理解できていない馬鹿共に、罠に嵌っている現実を突きつけた。俺がコボルトキングと思っていたのはただのコボルトだったのだ。今は一刻も惜しいんだ。
「今切開いている道を全力で後退するぞ!」
俺の先ほどの言葉が理解できたのか、皆すぐに動き出した。
俺達はゆっくりと後退していくが、敵もぴったりと張付いて追撃をしてくる。
ボス部屋から10[m]ほどの位置まで後退したとき、敵の前衛の追撃はなくなり引いた。
なんとか切り抜けられたと思ったら、弓と今度は魔法まで使った遠距離攻撃に晒された。
俺達もボス部屋外から遠距離攻撃職が援護をしており、弓矢と魔法が飛交う中俺達は必死にボス部屋から抜け出した。
ボス部屋から抜け出し少し離れた敵がいない小部屋に入ったところで、俺達はやっと落着けた。
回復ポーションや治癒魔法を使ったりして、体調を整えていく。
俺達のパーティからも脱落者は出た模様だが、皆それには触れずとにかく休息をしていた。
ある程度落着いたのを見計らってか、連合軍の代表が俺に会いに来た。
「勇者タッチャン様、皆疲労困憊です。ここは一度王宮に戻って態勢を整えるべきかと愚考します」
「あ、ああ。俺もそれを丁度考えていた。敵は予想以上に強い。今は戻って被害状況の確認が先決だ」
まさか敵が罠を仕掛けるだけの知能があるとは予想外だった。この俺としたことが不覚をとってしまった。次はこうは行かんぞ!
俺達は王宮に戻ってきた。
そこでまずは怪我が酷いものは集中して治療を行うことになった。超高位の治癒魔法による治療を受けられるので、多少の欠損程度ならば明日には治っている。
明日の昼に反省会をすることに決め、俺はその日は何も考えずに倒れこむように眠りについた。
次の日、王宮内にある会議室の1つを借りて反省会を開催した。参加者は勇者部隊の全生残りと、連合軍代表のみだ。
まずは、人数確認から行った。勇者部隊の生存者は58人だった。連合軍は198人だったらしい。勇者部隊は約5割、連合軍は約7割、昨日の戦闘で死亡したことになる。
また、討伐個体数は総計2千匹程いたらしい。先遣隊の数百匹~1千匹という話だったが、誤情報だったため作成に狂いが生じた。
大敗だった。撤退の指示は、正しかったかどうかは賛否両論だった。
原因が先遣隊の情報収集不足と誰も予想していなかった"コボルトの卑劣な罠"のせいなので、俺の責任問題は不問となった。作戦協議の際、誰も想定できなかったからだ。
俺達は1人で王国兵4,5人に囲まれたとしても、余裕で切伏せるだけの実力を有している。しかし、今回の敗退で迷宮ではそれでは足りないということがわかった。なので、以降迷宮の未踏破の攻略は控えてレベル上げを行うことになった。
大量に消耗した物資の補充には、連合側からの賠償や死んだ仲間の遺品をあてることとした。無念に散っていった仲間もこれで少しは浮かばれるだろう。
その後、レベリングやアイテム収集などをしながら俺達は順調に力を蓄えていった。大規模戦闘では数で圧倒されやすい。それを跳ね返すには、今まで以上のレベル差は必須だと痛感したからだ。俺は同じ徹は踏まないのだ。
そうこうしているうちに、俺達が召喚に応じてから1年が経とうとしていた。
ご清覧ありがとうございました。
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