5節 アンデット大量発生
side ルーシャ
時間が予想以上かかったが、まだ日があるうちに無事に野営できそうな所に到着した。これでエルちゃん達がゆっくり休められる。一安心だ。
「今夜はここで野宿かな。準備する?」
「うん。それがいいと思うけど、ルーちゃんどうかな?」
「そうしよう。簡単な結界張っておくね」
「お願い。妾達は寝床でも準備してようか」
エルちゃん達は疲れている体に鞭打って作業にとりかかった。
私も設置型(自動発生型)の結界を張るために行動を開始した。
結界や寝床の準備ができたので、早めの夕食を食べることにした。【亜空間】から料理を取り出し、焚き木を囲んで食事にする。
「作り置きの料理はどれぐらいある?」
「1週間ぐらいはあるかな。補充は必要ないかな」
野宿に備えて料理は確保していた。一応はぐれた時やカモフラージュのために、各自マジックバックに3日分ぐらいの食料(保存食)を持ち歩いている。食料集めに奔走する心配はまずない。
「なんか、不思議。こんな状況なのに久しぶりにまともな食事をしてる」
「馬車で移動中してた時は、周りに合わせて配給される干し肉だったよねー」
「そうだったね」
他愛無い雑談をしながら夕食を食べた。
「「「ごちそうさまでした」」」
食後の片付けをテキパキとしながら、今後について確認をしていく。
粗方終わった後、エルちゃんが唐突に質問してきた。
「ねぇ、ルーちゃん。"突撃娘"の効果を明確に出来ないかな・・・?」
「んー、どうだろうね。長時間かけて訓練するとか?」
「・・・それじゃ遅すぎる気がするの。妾はこれでも王家に連なる者だ。権力争いで命を狙われる宿命にある。昼間のアレは妾が居たから起こったようなものだ」
「・・・・・・」
「殆ど妾の居場所が補足しずらいはずなのに、暗殺者達は的確に妾を補足し襲ってきた――これこそ妾の称号"突撃娘"のせいではなかろうか。だとすると、妾は・・・」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。ただ、旅には危険が付き物よ。魔物、盗賊との遭遇は皆想定内だったはずよ。そういう危険から身を護るために、態々護衛を雇うのだから」
「そうなのだけど、でも・・・」
「昼間のアレは盗賊が出るか暗殺者が出るかの違いだっただけで、エルちゃんのせいじゃない。もし称号の効果で護衛を殺したていたなら、それは称号を使わせている私のせいよ」
「別にルーちゃんのせいじゃ・・・」
「私のせいよ。私に力がないから、エルちゃんに頼るしかなかった。エルちゃんに強要しているのは私よ。なら、その結果の責任は私にあるわ」
「それは違う。例え責任がルーちゃんにあったとしても、"突撃娘"による妾の罪は消えない」
「エルちゃん・・・」
"ウィルを助ける"――私はそれだけを考え、周りが全く見えていなかった。近くにいるエルちゃんのことも分かっていなかった。途中で諦めないか、ただそれだけをその覚悟を聞くだけで、配慮をしていなかったんだ。
あの時、気付かれないように暗殺者を皆殺しにするべきだったのだろうか。そうすれば少なくとも昼間死んだ護衛は助かった。
だが、それをできなかった。いくら私が異常なほど高い能力値を持っていたとしても、それは平均よりも相当強いだけだ。私より強い者はいくらでもいるし、私の感覚をすり抜ける者も当然いるだろう。エルちゃん達の側を大きく離れることはできなかった。
でも、それなら他にやりようがあったのではないだろうか・・・?
「大丈夫だよ。ルーちゃん。終わるまでは"突撃娘"をフル活用するよ」
「・・・エルちゃん、ありがとう」
本当は謝るべきなのかもしれない。でも、ここで謝るのは何か違う気がした。
少し重い雰囲気になった。が、時間は待ってくれない。日が落ち辺りは次第に暗くなっていった。
side アリシア
あたしは見張りをしながら先程の会話を思い出していた。
エルちゃんとルーちゃん――2人は少し考えすぎだと思う。
冒険者の両親からあたしは色々なことを聞いている。
ステファニア国では、周辺諸国に比べて命の重さは重い。治安がよいからこそだ。
でも、他の国では違う。ちょっといい剣を持っていたら、殺して奪おうとか平気でする。可愛い娘が貴族の目にとまったら誘拐なんて当たり前だ。最低限、自分の身を守る力を持たないと死ぬ世界なのだ。目的のためなら、他は犠牲にするのが常識――嫌な常識だけど、これが世界の実状だ。
あたしも、エルちゃん達の姿勢で生きたいと思う。だって、そのほうがきっと楽しいから。だけど、それで心を潰されそうになるほど追い詰めたりはする気はない。あくまで余裕があるときの信念としてすることなのだと考えている。
ま、人は慣れる生き物っていうし、なるようになるだろう。エルちゃん達も一晩寝れば元通りになるさ。
2人の寝袋を見ながらほっこりしていると、急に悪寒が走った。
「ッ!?」
「エルちゃん、起きて」
気付くとルーちゃんが起きて暗闇を凝視していた。
「ふぁぃ?」
「寝ぼけてる暇は無いみたいだよ?」
「アリシアちゃん、すぐに出発の準備を」
「結界を破られそうなの?」
「多分それはないかな。朝まで無視して寝ることも可能だと思う。だけど、急に現れたのが気になるわ」
「緊張して疲れもとれないってことかぁー」
「ええ、寝ても殆ど意味ないからね。危険度は上がるけど、夜間の移動もありでしょ。どこから現れるか分からないなら、原因を探って取り除かないとオチオチ休めないよ」
「・・・ルーちゃん。もしかして敵なの?」
「やっと起きたのね。ええ、そうよ。おそらく気配からしてアンデット系の魔物よ」
ルーちゃんの『神凪』は不浄なアンデット系の魔物にとっては天敵ともいえる系統の職業だ。絶大な効果を及ぼすスキルが多数ある。『巫女』を持っている先輩が言うには、本来感知しずらいアンデットの存在を感じ取ることさえ出来るらしい。『巫女』の何段階も上の上位職の『神凪』なら、同じように感じ取れるのだろう。
「それにしても変ね。現れるポイントが一直線に並んでいる。それに線から離れるように行動しているわ」
「・・・もしかして、結界?破れて溢れてるとか?」
「!!それよ!多分この位置に結界があるんだわ」
「行ってみようか。探していたモノかもしれないよ」
「うん、そうだね行こう」
「ええ、行きましょう」
焚き木を消さずにエルちゃんとあたしで持てるだけ持つ。ルーちゃんは暗視能力を付与したり、移動式の結界をあたし達に張った。
「先頭は私で行くね。側を離れないで頂戴。あの結界は私の認識力を上回っていた。あれが破られたんだとしたら、相当の強敵が居てもおかしくない。雑魚は一気に殲滅していくわ。基本素材は無視しましょう。移動中足元に落ちていたら拾うぐらいにしておこう」
「離れた位置から時空間魔法で収納したら?」
「余裕があったらするけど、こんな夜更けだし無理せず行こうと思う。だめ?」
「いや、それでいこう」
そうと決まれば行動だ!
あたしはエルちゃんと一緒に後ろを警戒しながら、慎重にルーちゃんの後に付いて行く。ルーちゃんは手印を忙しなく結んでいる。あたしには分からないけど、きっとアンデット達に絶え間なく攻撃しているのだろう。
「ルーちゃん、今どんな感じ?」
「エルちゃん。今ルーちゃんはすっごく大変だから・・・」
「今のところは大丈夫よ。数が多く範囲も広いから何回もスキル使って大変そうに見えるけど、雑魚ばかりだから大丈夫よ」
「そうなんだ。ちなみに数はどれぐらい?」
「もうすぐ1000匹ぐらいいくんじゃないかな。ゾンビ、スケルトンばかりね」
「そ、そんなに・・・」
「ここからじゃ分からないけど、人型以外にも小動物とか色々種類あるみたい。数が多いのはそのせいだと思う。余裕があるのも動きが単調なおかげかな」
それでもその数を相手に余裕があることが凄すぎだよ、ルーちゃん。
そうこうしている内に、目的の境界線に着いた。ある一定ラインを超えたアンデットの魔物が光に包まれ、どんどん消えていく。
「あそこが境界みたいね。目視では結界内の魔物が確認できるけど、感知はできていないわ」
「一気にあの内側に行く?」
「そうね・・・そうしましょうか」
「・・・あの中を突っ切るのかぁ」
ゾンビの腐卵臭とかすごそうだ。嫌だなぁ…だけど、仕方ない。
ルーちゃんの合図で一気に駆けだす。進路上の魔物は気付いたときには消えているが、臭いは残っている。凄く気分悪そうなエルちゃんの横顔を見ながら、ただ一心に駆け抜けていった。
side エルヴィアンヌ・フォン・ステファニア
臭い!
気分が悪くなるほどの臭いの中、妾達は走り抜けていく。
すると、前方で戦闘の音が聞こえてきた。妾達とは違う。声からしてかなりの人数だろう。こんな森の中で戦闘とは誰だろうか?
「ルーちゃん!あっちのほう!」
「ええ。戦っているようね。この付近のを一気に殲滅したら、向かおう」
辺り一面が光に包まれ、次々とアンデットが消えていく。
一掃後、すぐにルーちゃんは高い木に登り状況を確認している。
「向こうの様子はどう?」
「えっと・・・あれは羽?子供みたいな体格…って妖精族?!」
「妖精族!?」
なんと、ついに見るけることが出来たようだ。
とすると、やることは唯1つ。コンタクトを取るためにも救助に向かわないと!
「すぐに行こう!」
「ええ!」
色々思うところはあるが、今は目の前の状況に対処しよう。
逸る気持ちを必死に抑えながら駆ける。
周囲の敵は根こそぎ殲滅しながら一直線に向かった。
「加勢します!」
戦線に到着し、すぐに近くにいたエルフに声をかける。どうやら、エルフと妖精族の混合部隊で戦っているようだ。
「に、人間?!なんでこんな所に?!」
「く、くそっ!こんな時にッ!!」
な、何でだろう。助けに駆けつけたのに警戒――いや、敵とみなされている。
「い、今は目の前の魔物に集中しましょう!」
「そうです!色々あるでしょうが、まずは魔物を始末してからです!」
戦場に似つかわしくない、綺麗な高い声が響き渡った。
「フィア様!」
「先程から、視ていました。彼女らが魔物達を薙ぎ払って向かってきているところを!彼女達については後です。今は魔物に集中してください!」
フィアと呼ばれたエルフの女性は周囲に指示を出すと、妾達に向かってきた。
「色々あるでしょうが、まずは不浄なモノを片付けるまで共闘しましょう」
「ええ、よろしくお願いします」
簡単に2、3言話した後、エルフは別の場所に向かっていった。
ご清覧ありがとうございました。
更新遅くなってすみません。
色々あって、プロットの修正を少しすることにしました。
メッセージ、感想ありがとうございました。おかげで色々考え直すことができました。没にしたものは何かの機会に、利用できたらと思います。
エロ描写?ですが、書いたことがないのでどうなるかわかりませんが、もう少ししたら入れてみようかと思います。セクハラ表現ぐらいが精々かもしれませんが・・・(ウィルくんがもう少し大きくなるまで、ウィルくんにはそういう描写は無しの方向で行こうかとは思っています)。
今回のでもそうですが、文章を短くと意識すると、会話が多くなってしまいます。全体的に会話部分が多すぎる気がします。でも会話が少ないと説明っぽくなります。バランスを考えるより文章自体をよく出来たらいいのですが・・・難しい問題です。