3節(1) 無鉄砲な赤子 (1)
第1章3節の改訂版(15/1/23)です。
分割した1番目です。
主要キャラの1人が登場します。
side ウィルルアイト・スヴュート
次に目が覚めたとき、お昼のようだった。窓から柔らかい光が降注いでいる。周囲を見渡すと綺麗な女性が椅子に座ってゆっくり舟をこいでいた。どうやら寝ているようだ。
女性のことも気になるが、まずは自分のことだ。急激に眠くなって確認もできないまま寝てしまったのだ。すぐに確認しておきたい。
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ウィルルアイト・スヴュート 人間族・男 0歳
職業:武神 称号:異邦人(転生)
Lv.1 Exp 0/100
【AP:308】
HP: 154/154 MP: 104/104
STR 101 INT 31
VIT 101 MEN 31
DEX 101 AGI 101
【SP:28473】
<アクティブスキル>
能力値手動分配[1]
固有図書館[1]
<パッシブスキル>
解析[1]
究明[1]
言語理解[1]
体術[1](new!)
武技の真髄[1](new!)
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うん、なんかおかしいね。
APとSPが急激に増えちゃってるよ。それ以外は予定通りかな。
理由は見当もつかないし、とりあえずログ見てみようか。
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職業『武神』を獲得しました
スキル【体術】Lv.1を習得しました
スキル【武技の真髄】Lv.1を習得しました
クエスト[職業を手に入れてみよう]をクリアしました
スキル【身体強化】が習得可能になりました
スキル【成長率増加】が習得可能になりました
スキル【成長速度上昇】が習得可能になりました
スキル【限界突破】が習得可能になりました
称号『賭博師』を獲得しました
称号『自殺志望者』を獲得しました
スキル【背水之陣】が習得可能になりました
スキル【戦闘時HP回復速度上昇】が習得可能になりました
スキル【戦闘時MP回復速度上昇】が習得可能になりました
隠しクエスト[母の愛情]をクリアしました
スキル【HP回復速度上昇】が習得可能になりました
スキル【MP回復速度上昇】が習得可能になりました
隠しクエスト[死地からの生還]をクリアしました
スキル【起死回生】が習得可能になりました
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ログを見て俺は固まった。
称号『自殺志望者』って文字通りの意味なら……俺は勝手に自殺行為をして死掛けていたらしい。いったい俺は何をしてしまったのだろうか?
皆目見当が付かないので、表示できるもの全ての確認をしていく。
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クエスト
・Lvをあげてみよう
・武器を装備してみよう
・防具を装備してみよう
・魔物を倒してみよう
・神殿にいってみよう
完了済クエスト
・称号を手に入れてみよう
・スキルを使ってみよう
・職業を手に入れてみよう
・母の愛情
・死地からの生還
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称号を手に入れてみよう(完了、未収)
条件 称号を入手する
報酬 SP+100(+5)
スキルを使ってみよう(完了、未収)
条件 スキルを起動する
報酬 SP+10(+0)
職業を手に入れてみよう
条件 職業を獲得する
報酬 SP+100(+5)
母の愛情
条件 母親が、発狂するほど重度の心配しながらも、一定時間以上無事を無心に祈ってもらう
報酬 SP+10000(+500)
死地からの生還
条件 圧倒的に不利な瀕死の状態から、魔法やアイテムや仲間などの一切の助けを借りずに、全快する
報酬 称号[生還者],AP+1000(+50),SP+500(+25)
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クエストの条件とはクリア条件のことだ。みやすいように省略しておいた。
[母の愛情]をみたとき、うるっと来た。どうやら本当に心配をさせてしまったようだ。母親(まだ見ていない)に発狂するほど心配させたようだ。前世でも親は大事にしていたつもりだが、今世の母には特に大切にしよう。
さて、色々と取得可能スキルも増えているみたいだし一応みておくか。
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能力値手動分配 Lv.2 300
解析 Lv.2 10
究明 Lv.2 10
固有図書館 Lv.2 250
言語理解 Lv.2 150
体術 Lv.2 50
武技の真髄 Lv.2 200
身体強化
成長率増加
成長速度上昇
限界突破
背水之陣
戦闘時HP回復速度上昇
戦闘時MP回復速度上昇
HP回復速度上昇 Lv.1 10
MP回復速度上昇 Lv.1 10
起死回生
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レベルのよこにある数字はそのレベルのスキルを取得するために必要なSPだ。選択可能なスキル項目が増えているな。SPが表示されていないのは【能力値手動分配】のレベル不足によるものだろう。
神様もいっていたが、このスキルにはレベルによる取得制限がかかるというデメリットが存在する。
通常、自動でスキルに割振られ一定以上SPが対象スキルに溜まればそのスキルを取得できる。
一方手動で割振られる場合、まずはSPを分配するスキルのレベルを一定以上にしたうえで、必要なSPを溜めなければならない。
つまり、最初無駄にSPを稼がないと必要なスキルを覚えることができないのだ。レベルアップや取得するスキルは使用頻度や訓練等で通常でもある程度調整できることから、このスキル取得するとデメリットが多いと、転生前の話合いのときそう皆結論付けていた。
俺もスキルの成長スピードは全体的には遅くなると考えている。ただし、俺のアマチュアだがゲームクリエーターとしての勘が"スキルに指向性をもたせることでそれ以上のメリットがある"と言っていた。もっとも、根拠がなく外れても責任もてないので、初期設定をしたあの場ではだまっていた。
粗方の確認ができたので検証の続きをしようと思っていたら、突然抱きかかえられた。
視線を上のほうに向けてみると、先ほど側で寝ていた女性の顔が目の前にあった。女性は涙を溜めながら、何語かわからない言葉をさけんでいた。
この人が俺の母なんだと直感した。話している内容は多分"無事でよかった"とかそのあたりだろう。
ああ、母さんの話している内容を聞きたい。
ありきたりのただの"よかった"でもいい。肉体的に喋ることはまだ無理だろうから、せめて聞くだけでもなんとかしたい。
前世の俺は考えすぎて機会を逃し何度も後悔したが、もう同じ徹は踏まない!
何の打算もなく【言語理解】のスキルレベルを上げていく。
【言語理解】は言葉に対する理解力をあげ、言葉を解読(理解)するスキルだ。レベルが上がる語とに何をいっているのか段々予想がついてきた。レベル5まであげたとき効果音が鳴った。ログで確認していないが、取得可能スキルの項目に【セリノイス語】が増えているのでこの合図音だろう。なんとなく意味が分かってきていたし、おそらく話している言語がこれなのだろう。
迷わず【セリノイス語】を取得する。
はっきりと母さんが言っている言葉が理解できだした。
「よかった。ほんとによかったよ。体に異常はない?ない?ウィル、母さんの声聞こえてる?」
矢継ぎ早に同じような言葉を、話しかけられた。
やはり俺の母だったらしい。
クエストで自分の母が発狂するほど心配させていたと知っている俺は、少しでも安心してもらうために母さんの顔をよく動かないはずの手でなでてみた。
予想に反し思った以上に動かすことができ、しっかりと頬をなでることができた。
「ウィル!」
おもいっきり抱きつかれた。
正直ちょっと苦しいが、我慢できないことはない。されるがままにしておいた。
本当に心配かけてごめんなさい。
かなりの時間抱きついて満足したのか、母さんはそっと俺をベットに寝かした。
目元は真赤に腫れて涙の跡がみえている。
母さんは綺麗だった。推定年齢27歳、淡く輝くような金色の綺麗なロングな髪、パッチリとした綺麗な青い瞳、すましたような目鼻、前世では創作物でしかみかけなかったような整った顔だった。体つきは細いながらも、出るところはしっかりと出てるモデル体系と、改めてみると超美人であった。
「ごめんなさい、ウィル。取乱しちゃって。本当にもうダメかと何度も思ったから、元気な姿を見ると感動しちゃって」
目元の涙を指で拭いながら母さんは話しかけてきた。
ホントごめんなさい母さん。心配かけるつもりはなかったんです。そもそもどうしてそうなったのか理由はわからないのです。ああ、どうやって伝えたらいいんだろう…って普通生後1ヵ月の赤子が高度な意思表示をするのは無理だよね、普通に考えて。
俺はアーとかウーとか口からだしながら、母さんの顔を見ながらどうしたもんか悩んでいた。
「あ、ごめんなさい。忘れていたわ。まだ産まれたばかりだったわね。ウィル、ちょっと驚くかもしれないけど母さんの言うとおりにしてくれるかな?【パーティ結成】の呪文となえるから、私のパーティに入ってね」
え?何いきなり普通に言ってるの、母さん?普通の赤子に言う言葉じゃないよね?
と、とりあえず言われたとおりにするか。
母さんは何かブツブツ唱えていた。おそらくあれが呪文なんだろう。詠唱が終わると俺の脳内に何やら選択肢のようなものが表示された。
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"シャルロット・スヴュートがパーティの参加を求めています。参加しますか? はい いいえ"
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母さんの名前はシャルロットなんだ。何処となく高貴そうな母さんのイメージぴったりだ。おっと、ちゃんと選択しないと。俺は迷いなく"はい"を選択する。これでパーティに参加したことになったのだろうか?
「入れたみたいね。次は【命令伝達】を使うからね」
【命令伝達】ってどんなスキルなんだろうか、と思っているといきなり脳内に声が響いてきた。
(ちゃんと聞こえてるウィル?聞こえてたら、頭の中でしゃべりたい言葉を浮かべて言ってみて)
え?!【命令伝達】って脳内会話を行えるようにするスキルだったの!
(え、えっと母さん?聞こえる?)
(ウィル!!ちゃんと聞こえてるよ!)
(母さん、なんだか分からないけど心配かけてたみたいで、ごめん。もう大丈夫だから)
(もう、大丈夫かどうか判断するのは母さんの仕事です!ま、でもウィルは本当に無事みたいね)
(はい)
(さすが私達の子と言いたいところだけど、異世界からの転生者の資質なのかしらね)
(え?!)
どうして俺が異世界からの転生者って分かったんだ?
(どうしてわかったんだ、って顔してるわね。簡単な理由よ。母さんは【鑑定】もってるからね。【鑑定】で称号みてわかっちゃった)
(そ、そうだったんだ)
(納得しちゃった?)
(うん。すごくなっとくした)
(もう、ウィル可愛いわね!でも減点よ。今の会話ね、誘導質問とも取れる内容だったでしょ?)
(そ、そう言われてみれば…)
(母さんは【鑑定】で昨日倒れたときに知ってるけど)
そう言うと母さんはウィンクをしてみせた。中々茶目っ気のある母さんだ。
(それともう1つ注意しておくわ。普通1ヵ月やそこらの赤ちゃんがこうやって会話するのは前世の記憶もって転生してますって宣言してるものだから、母さん以外にはしないように)
(は、はい。やっぱ普通に会話してるのおかしかったんだね)
(ええそうよ)
(ところで母さん。何でか僕の言葉遣いに違和感があるの、どうしてかな?)
(それは、精神年齢が肉体の年齢に影響され下っているのよ。しばらくすれば慣れるはずよ)
転生者はこの世界に度々現れる。数十万、数百万人に1人と言われるほど珍しくはあるのだが、そう特別視されている訳ではない。過去の記憶を持っているだけであり、幼児期にその記憶さえも薄れてしまう者が大半だそうだ。精神年齢や思考などは新しい体に準じているし、そう大した違いがないのが一般的だ。
ただ、異世界からの転生者というのはとても珍しいらしいが、異世界転生時の特典があるだけでそれ以外は普通の転生者と同じらしい。
(どうして母さんはそんなに詳しいの?)
(それは母さんが一生懸命研究したからよ~)
(すごいんですね、母さん)
(ありがとう、ウィル)
母さんは本当に嬉しそうに微笑んで、俺の頭をやさしくなでてくれた。
ご清覧ありがとうございました。