18節(2) 古の生誕方法 -前編- (2)
第2章18節を分割した2番目です。
前回と同じく前半は説明が多めです。後半の展開は…多分反響多そうで少し怖いですが最初考えた流れどおりに書いています。
side ウィルルアルト・スヴュート
思った以上にキツイなこれは…!
俺は今【降臨術】で母さんの魂そのものを、"祓い鎮めながら"自身に憑依させていっている。ルーシャも魂魄を分離する際、魂には出来る限り清浄な――正常な状態へ回帰するように分離していっている。
【降臨術】は上位の存在などを魂の"片鱗"を一時的に取り込むことで様々な力を引き出すスキルだ。肉体をコップで魂を水に例えるならば、【降臨術】はコップに淵ギリギリまで水が一杯に満たされているところに更に水を注ぐスキルなのだ。普通ならば水溢れる。つまり、己の魂が肉体から剥離してしまう。
そこを何とかする技術を持った者のみがこのスキルを使えるのだが――当然、限度というものがある。肉体に無理矢理押し込められなければ、待っているのは存在の消失――魂ごと破裂するという転生もクソもない完全な消滅だ。過去【降臨術】で魂に傷を負いジワジワと魔物化した例もあるが、ある意味魂が残っているだけそいつは幸運だったと言われているほど、このスキルにはリスクがある。
もっとも、普通に起動したぐらいじゃ、リミッターがかかっていて己の魂が崩壊するほどのものを降ろす事はできないのだが……もちろん、今のこの儀式ではそんなリミッターは解除して使っている。本来の使い方ではないし、そもそも別の存在丸々1つを降ろすなんてこと普通しないからである。
「グッ…」
いきなりかかる負担が急増した。
集中のため瞑っていた眼を開けると、ルーシャも大量の汗を流しながら手を合わせていた。
おそらく俺同様限界が近い、このままでは……
「分離が完了したわ!」
「!」
そうか、先程の急激な負荷増大は完全分離したために起きたことだったのか。なら、これ以上は【降臨術】で憑依させた状態の維持のみに集中できる。
「こちらも何とか。ギリギリだけど維持できそうだ」
「よかった。じゃ、次は!」
「ああ、肉体を創る。定着は任せた!」
さっそく、肉体を創り始める。
肉体を作成するのは俺の役割だ。母さんの魂に触れていればその魂に合った肉体が創れる可能性が高いこと、ルーシャには引き続き【太山府君之法】で魂と肉体を最適化しながら繋げ定着させる作業に集中してもらうために、俺がこの役割をすることになっている。
肉体を創るのに参考にしたのは、この世界の住民――特にエルフ族や妖精族に纏わる伝説だ。
エルフ族の祖先はハイ・エルフ族と言われている。時代と共に霊格が下がったというのが一般的な見解だが、俺はそれは違うと考えている。ハイ・エルフは元々妖精族であるとか、さらに妖精族は元々は神だったという御伽噺があったからだ。
この世界の人々はある時期に急に現れたことになっている。
人類の祖先は、異世界から来たか、元々精神的な存在である神や精霊などが物理的な存在へと変化していったか、それともその両方か――どれが正しいかは分からないが、少なくとも多くの資料が地球の進化論を否定している。
DNAが異なる筈の生物どうしの繁殖、具体的には人間族はエルフ族やドワーフ族、妖精族、竜人族など様々な種族と子供を作ることができる。肉体構造や肉体組成が無茶苦茶異なる者同士で繁殖できること、産まれてくる子供は父親か母親のどっちの種族になるかは分からないしこと、稀にどの種族でも突然変異や先祖返りで精霊の力を宿した子供ができるなど、もう地球のように進化していったと考えるのは無理な事例がわんさかある。異世界から来ていたとしても、精神的、霊的な存在から産まれた種族がこの世界にきていると考えなければ、色々と不都合もある。
つまり、この世界の全ての種族は、"非物理的な存在であるものが長い年月をかけて肉体を獲得し、物理的な存在になった"と俺は考えているのだ。
妖精族は精霊に近く体の大部分を構成するのは魔力らしい。精霊が魔力の塊に意思があるのとよく似ている。つまり、もっとも元始的な存在で霊的存在だった先祖が肉体を得るためにまずなったであろう最初の種族だと考えられるわけだ。
ならば、魂だけの状態からこの世に安定させるならば、妖精族を参考に肉体を用意すればいいのではないか。そう俺達は結論付けたわけだ。
MPは厳密には魔力ではないが、余剰に回復したMPなどが魔力として空気中をしばらく漂うのは【魔力掌握】で観測している。俺は、回復薬をがぶ飲みしながら【魔力転換】などで余剰MPをわざと作り空気中に魔力として拡散、【魔力掌握】で体内の魔力と合わせて1点に集中させる。
だが、中々上手くいかない。やはり、依り代がいるのかもしれない。
もっともこれは想定内だ。丁度都合よく俺の一部だった血が散乱している。もし血が無理なら俺の腕でも切り落として依り代にするつもりだ。怪我を負わなくても血をまず試して、それでも無理なら片腕を、それでも無理なら…さらに増やしていく予定だ。
「何もなしは無理だった。血を媒介にする」
「了解」
短くルーシャに報告をする。俺は周囲にある血に魔力を集めて押し固めてみた。ただの魔力の塊が若干魂に合わせて変化したように感じた。
「手応え有りだ。このまま形成する!」
「わかった。少しずつパスを繋いでみる!」
それから何時間が経過したことだろう。
ルーシャも俺も時間の感覚は既にもう無い。スキルを使って時間を調べることもできる筈なんだが、その余力がないほど俺達は疲れ果てていた。
だが、それだけの成果はとりあえずあった。
俺達は体長50cmぐらいの大人をそのまま小さく縮小したような姿をしている"彼女"を見つめて一先ず緊張を解いた。
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????? Lv.1? 妖精族?・女? 0歳?
職業:???
称号:???
□AP 0 □Exp 0/0
□SP 0 □SC 0/3000?
HP 0?/1? MP 0?/1?
STR ? INT ?
VIT ? MEN ?
DEX ? AGI ?
スキル一覧
なし?
状態異常
魂魄分離進行中 Lv.∞ (28.0145[%])
霊魂複合融合中 Lv.∞ (5.0068[%])
加護
なし
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【鑑定】結果に"?"が多数入っている。こんなことは初めてだ。だが…まだ目を覚ましていないし、記憶もあるか確認していないが母さんの魂を留めることはできたはずだ。状態異常に書かれていることとか問題はまだ山積みだが、一応は目的は達成したはずだ。
限界がきたのか、俺はルーシャは顔を見合わせた後意識が遠のき、崩れるようにその場に倒れた。
何か、力が急速に抜けていく……
俺は意識を手放した。
次に目を覚ました時、ルーシャが"必死に儀式を続けている"のが目に入ってきた。
俺は自分と"彼女"を【鑑定】して状況を理解した。
「失敗……いや、不完全だったのか」
「ウィルくん!」
ボソっと呟いたら、俺の意識が戻ったことに気付いたのか、ルーシャが泣きながら飛びついてきた。
「ごめん……」
「何故謝るんの?ルーシャは十分やってくれたさ」
自分の力不足で失敗したとでも思っているのだろう。だが、それをいうなら俺も力不足だった。
「確かに、完全には母さんを新たな肉体に転生できなかったかもしれない。けど、不完全ながら一応は出来てるじゃないか」
「でもっ!こおままだとウィルくんも侵食されて死ぬんだよ?!」
「だろうね」
現在、俺と母さんの魂はゆっくりとだが融合を開始している。更に悪いことに、俺達2人の肉体と魂が分離しかけている。
「ルーシャ。【太山府君之法】借りるよ」
「ウィルくん…?」
だが――だが、まだ手はある。俺が常時【太山府君之法】を使って進行を抑えておけばいい。
「何とかと言ったところか……」
「でも、ウィルくん。その状態はこの場じゃなければ保てないよ。それに完全には止められない」
「ああ、そうだな。だが、時間は稼げる。対策を講じる時間がな」
先程の【降臨術】もルーシャの力を借りて効力を割り増しにしていたからわかる。『神凪』所有者ほど上手く操作できないのも、この祭壇の維持も俺はそう長く出来ないことも。
「この進行スピードだともって2ヶ月といったところか。もし進行度合いを示す%の値が80%以上とかでアウトとかならもっと短いだろう」
「具体的にどれぐらい持ちそう?」
「何とも言えんが、おそらく1ヶ月が限度じゃないかな。いくらルーシャから『神凪』の力を借りようと、この祭壇を1月維持するのがやっとだろう」
「祭壇のほうは私が何とかするから、気にしなくていいよ」
「いや、それはダメだ」
「何で?!」
昨日、突貫とはいえ今知りえるあらゆる知識を総動員しても目的の答えは見つけられなかったのだ。今の俺達じゃ無理だ。
「それだと、現状維持が精々だと思う。それよりも、ルーシャには頼みがあるんだ」
「頼み?」
「僕がここでこの状態を維持している間に、解決方法を探してきて欲しいんだ」
「!!」
「どう考えても、今の僕はこの境界内から出られない。この霊的に守護された空間内だからこそ維持できているのだから。それに方向性は間違っていなかったと思うんだ。現にこうして不完全ながら新たな肉体に魂をある程度定着させられたからね」
「確かに、そうかも……」
「と、すると何かが足りないってことになる。現状の俺達は分からないなら、分かりそうな人達に教えてもらうしかない」
「分かりそうな人達?」
「妖精族やハイ・エルフ族、それも長老や口伝者など古の知識を持った人達だよ」
「!そうか。その手があったわ!」
そう、仮説が正しいならば古の時代彼等の祖先が通った道なのだ。同じような事例の話やその時の対策方法などを知っている可能性は十分にある。
「うん。だから、動けない僕の代わりに探してきて欲しいんだよ」
「私にできるかな……でも、やるしかないんだよね」
「ああ」
正直できるかどうか分からない。だが、できなければ俺達はそこで終わる。ルーシャには重荷を背負わせて悪いが、今は彼女に頼るしか俺いは手がない。せめて、少しでも成功率を上げる方法を考え、例え失敗しても彼女が傷つかない方策も考えよう。
ご清覧ありがとうございました。
次章はルーシャ中心の話ですので、主人公交代してんじゃねぇとか言う方が多いのは覚悟の上で投稿しています。今のままだとルーシャはウィルに依存しっぱなしで、よくないので次章はルーシャの挫折と再起を中心に描けたらいいなと思いこのような流れにしています。
あと、主人公はあくまでウィルくんです。次章はルーシャを中心にはしますし、3章だけ取り出せばルーシャが主人公と言えますが、4章以降は戻る予定です(まあ3章も書き途中なので何ともいえませんが)。
感想に革命という言葉を楽しみにしている方がいるようなので、私の中の革命の定義を書いておきます。
革命 : 短期間で、社会構造や技術形態などが大幅に変革すること。
端的に言うと、このように考えています。なので、戦争が起こるとか革命軍が政権を倒さなければならないとかそういう狭い意味で革命とは使っていません。技術革命とか、産業革命とかそういうのもあるので、その辺はご理解いただけるかと思います。
ファンタジーの世界ですしいずれ大規模な武力衝突とかは発生する予定なのですが、それだけが革命とは思っていないのことだけ書いておきます。