15節 ウィルとルーシャの日常 その4
第2章15節(15/2/28)です。
日常エピソードを追加しました。
side エルヴィアンヌ・フォン・ステファニア
「今日は現代魔法と古式魔法の違いについて学びましょうか」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
今日もウィルのお母様にご指導して頂けるようだ。
ウィルと父上の会談から早一週間、妾は毎日ウィルの元に通っていた。条件付きとはいえ、外に出ることを許されたのだ。この町にいる間は毎日欠かさず出るつもりだ。もちろんアリシアと一緒だ。
最初、町中だけとはいえ自由に外出できるだけでも妾は満足していた。が、アリシアが雑談中ひょんなことからウィル達に技の指導を頼んだことから、何故か妾も含めたお勉強会が開かれることになった。
正直、最初はどこで間違えたのかと思ったが、今では滞在期間中だけじゃなくもっと学びたいと思ってしまう。
妾は勉強は嫌い――少なくとも今まで王宮とかでしていた勉強は嫌いだ。何を目的としているのかは説明してくれるが、今一いつも漠然とした目標でいまいち納得ができない。
だけど、シャルロット先生の授業は違う。明確に目的と目標を設定してくれる。しかも妾の興味のある目標にしてくれるのが実に嬉しい。
外に出かけるならまだしも普段王宮で生活する上でも、暗殺者などから身を護る最低限の力はいる。この前の事件で、今までどれ程皆に護られていたかを知り護身のための力の必要性を妾は痛感した。
今迄以上に勉学に励もう――嫌だが、王宮に帰ったらそうしようと考えていたが、予定はあっさりと覆った。まさかこの町でこれ程の学がある方がおられるとは思わなかった。シャルロット先生は王宮のどの家庭教師よりも深い知識をお持ちのようだ。説明もわかりやすいだけじゃない。疑問に思ったことを聞くと、段階的に一つ一つ説明してくれる。"常識です"と昔押し切られた箇所もしっかりと理論的に説明してくれる。
「現代、主流になっている魔法は"元素魔法"に分類されます。この場合の"元素"とは魔法元素、エレメントとも呼ばれるものですね。一方、古代では魔法元素を扱う術はありませんでした。古式は物体そのものを動かす魔法しかありません」
「そうなんだ。でも、古代魔法でも炎や氷を操ったり色々あったはず…矛盾しませんか?」
「一見、矛盾しているように見えますが、古式では炎や氷などは厳密には同じ原理で起こしているのです」
「そ、そうなんですか」
「そのことを理解する上で、魔法と歴史について軽く説明します」
宮廷魔術師は呪文がどうとかこうとか説明して全く違うようなこと言っていたが、本来は同じ系統だったのか。しかも、理解するには歴史を知っておいたほうがいいらしい。
「"魔法"を技術として最初に確立させたのは異世界人です」
「えっ?!」
「それまでは漠然と現象として似たような効果はありましたが、スキルとして確立したことにより効力はより明確に、そして強くなったと言われています」
「「・・・・・・」」
復習になるのだろう。ウィル達は驚いていないが、初めて聞く妾達は驚きの連続だ。相変わらず、先生は底が知れない。
「さて、異世界と言っても様々あります。そのうちの1つに"魔法が全くない異世界"というのも存在します」
「魔法が全くない?ですか?」
「ええ、文字通り魔法という概念は空想の産物でしかない世界です。実は魔法を最初に造った者はこの世界からの来訪者のようです。彼等の世界には魔法に代わる技術――科学技術が発達していました。そのうちの1つ"物理学"を利用して作り出されたのが最古の魔法――古代魔法です」
「物理学…それが古代魔法?」
「物理学は学問の1つですよ。古代魔法はあくまで物理学の知識を元に造られた魔法です。彼等はエレメントなどのこの世界独自のモノは理解し難かったのでしょう。慣れ親しんだ元の世界の技術を利用するのはある意味当然なのかもしれません。一方、現代魔法はこの世界の者が開発しました。今迄漠然とあった魔法的な効果を及ぼすモノを扱う術を技術として確立させたのです。現代魔法は古式魔法が起こす現象を参考に造られていきました。その結果、エレメント等が発見され今に至ります」
んーちょっと難しい。正直言葉が難しくてよく分からない。でも、いつも最後に簡単にまとめてくれるし、多分理解できる…………といいな。
「つまり、古式魔法は異世界人の知識を元に造られているのでその分野の知識がないと上手く扱えない――現代魔法はこの世界の人なら直感的に感覚で扱えるということです」
「えっと、古代魔法は異世界人が造ったから異世界の知識がいる。現代魔法はこの世界の人が作ったから直感でいいってこと?」
「大雑把に言ってしまったらそうです。ただし、別の知識を織り交ぜることによって新スキルを開発できたり、スキル運用方法の幅が広がるので、余裕ができたら関係なさそうな事でも積極的に勉強するといいでしょうね」
「ちぉーょっと疑問に思ったんだけど、いいですかぁ?」
「アリシアちゃんどうしたの?」
「古代魔法と古式魔法と二通り呼び名があるのは何で?」
「いいところに気付いたわね。古代魔法は古式魔法の一種なのよ。古代魔法は物理現象を用いて炎や雷なんかを操って攻撃することを中心とした魔法ね。古式魔法には他にも再生魔法、治癒魔法なんかも含まれるわ。当然、これらの魔法を理解する夫々に対応した異世界の学問をある程修めていないとダメなのよ」
なんと!古代魔法以外にも似たような魔法が存在するのか!
「そんなんも含めて古式魔法はある程度勉強しないと魔石とか使って覚えても満足に効果を発揮しないのよ。よしんば上手くいっても、同じ動作でも違う結果なったりするのよ。特に仲間を癒す治癒魔法とかでそれが起こると悲惨ね。回復させている筈が逆にHPを削ってしまったりね」
「そ、そんなことも……?」
「魔法式には安全装置が付いているから普通はありえないけど、可能性としては十分ありえるわ。それに、古式の攻撃魔法の中にはそういった経緯で偶然開発された魔法なんかもあるという話よ」
「う、うゎぁ……」
「だから、もし、古式魔法を普通に習得しようと思ったら覚悟するように。膨大な勉強が必要よ」
「普通じゃない方法もあるの?」
「凄く特殊な方法だけど、有るには有るわよ。私は勉強して覚えたけど、その特殊な方法で覚えてる人達が目の前にいるわよ」
「えっ?!もしかして、ウィルは覚えているのか?!どうやったんだ?」
「うん。まぁーなんだ。前提条件として特殊なスキルがいる。それにステータスなんかもちょっと特殊な状況にする必要がある。狙って条件を揃えるより、素直に勉強したほうが早いぞ、多分」
「でしょうね。多分そのほうが早いでしょうね。解決方法もあるにはあるけど、それをするならば死ぬ覚悟ができてからにしなさい」
「そ、そこまでしないとダメなのか……ぐ、具体的な方法は?」
「その覚悟が出来てからにしなさい。教えた以上は後戻りはさせません」
「か、母さん!?」
「ウィルもルーシャも、その覚悟をしてから話なさいね。中途半端な覚悟でするとお互い後悔することになります」
「う、うん。わかった」
き、気になる。が、まだ妾は死ぬ覚悟なんかはない。それに、魔法を覚えようとは思っておるが、古式魔法を緊急に覚えなければならないわけでもない。機会があったら聞くことにする程度に留めておこう。
side アリシア
今日の午前中は講義はあたしには少しむずかしかったなー。ま、午後はそんなことがないからいいか。
トリシアさん(ルーちゃんのお母さん)の美味しいお昼を食べて、ここ最近恒例となっている午後の実技の準備をする。エルちゃんは片手用の小さな杖、ルーちゃんは小型の弓、ウィルくんは刀、あたしはレイピアと夫々武器を手に取る。こっそりセバスさんが剣と盾を装備しているけど、見なかったことにしよ。ウィルくんに言われるまで気付かなかったけど、セバスさんは常にあたし達を隠れながら護衛してくれている。エルちゃんは気付いていないみたいだし、ここは気付かないふりをするのが優しさとのことだ。ウィルくんが教えてくれた理由は、もし何かあったときに護衛のあたしが行動しやすいようにとの配慮みたいだし、いったいどこまでウィルくんは見通しているんだろう。
「今日は実際にダンジョンに行って雰囲気でも味わってみましょうか」
「なんと!ダンジョンとな!」
エルちゃんが大はしゃぎです。セバスさんは慌ててたけど何でかなぁー?
「いつも訓練ばかりじゃ飽きるでしょ?それに殆ど人が来ない穴場のようなダンジョンだから、自由に試せるから丁度いいでしょう」
「い、いいのかな?難易度的にまずはダンジョン以外で練習なんじゃ……」
「ウィル、私がなんとかするから大丈夫よ」
「なるほど。ならあそこほど練習に最適なところはないんだね」
どうやらちょっと特殊なダンジョンのみたい。外より訓練に向いているダンジョンなんて有るわけないと思うけど――ウィルくんたちには常識というものが通じないのは実証済みだし、そういう特殊なダンジョンもあるんだろうなぁー。
と、言うわけでシャル先生の魔法で一気にダンジョンまでやって来ました!
5人を同時に補助ナシで転移かぁ。今迄、シャル先生もウィルくんと同じく規格外なんだろうなぁーって思っていたけど、規格外なの確定しちゃたなぁ。さすがウィルくんのお母さんだ。
で、問題の実戦はというと――順調だ。
先生は全く手出しなし、ウィルくん達もあたし達に合わせて動いてくれている。
「少しぎこちないけど動きとしては悪くないわ。後は実戦で自分で修正していくだけね」
「はい、先生!」
「おぉー!どんどんいこー!」
エルちゃんが凄く元気です。この一週間頑張って覚えた【インパクト】と【ヒール】を実戦で使えて嬉しいみたい。そういうあたしも、【セイントスラッシュ】とか新たに覚えたスキルを試せてホクホクだ。
シャル先生に教えてもらうまで、あたしは技の発動方法について深く考えたことはなかった。例えば【レイジング・スマッシュ】だと、"上から振り下ろす"、"斜め上から切り下ろす"、"斜め下から切り上げる"と3通りほどある。それぞれ、何となくで使い分けていた。PTMとの位置や持っている武器と相手の装甲などの関係で最もダメージ効率のいい発動方法が変わってくることを知らなかったのだ。
自分の剣技によるダメージだけ気にするんじゃなく、PT全体での与ダメージを最大にするように動くこと――これがPTプレイに求められるものだった。小難しいこと考えるのは嫌だけど、そうしないといずれ壁にぶつかるのは目に見えてるし、頑張ろうかぁー。
「次、右通路から4匹、ゴブリンね」
「了解。アリシア、2づつ持つでいい?」
「おっけー」
確認し終わるとほぼ同時にゴブリンが姿を現す。
ヒュン!
比較的後にいたゴブリンを掠めるように何本か矢が飛んでいく。ゴブリンの歩調が乱れ分断される。流石ルーちゃんだ。
先頭に来たゴブリンの相手をしながら、全体をみるように心がけてみる。
うぅーん、まだ立体的に把握できないなぁ。分かっても精々3m以内かぁ。
「これで終わり!」
あたしが牽制していたゴブリンを、エルちゃんが【インパクト】で吹き飛ばす。それがトドメになったのか、動きが止まった。
「よしっ!!」
「いい感じだったよ、エルちゃん。覚えたてってのが信じられないくらいスムーズに使えてる」
「借りている武器も良いから。妾専用に欲しいぐらい」
「エルヴィちゃん、威力以外は何も補助しない武器ですから、照準やタイミングを合わせれているのはエルヴィちゃんの力よ」
「先生にそう言って頂けると、すこし自信が沸いてきます」
「と、話込む前に解体済ませましょう」
そうだった。このダンジョンは時間が経つと死体が消えるダンジョンだった。
解体は一度実際にしているところを見学して以降、特に指導はされていない。独自に工夫しながら数こなすのが一番とのことだ。
最初はおっかなびっくりしながら解体していたエルちゃんも、今は随分なれた手つきで解体していってる。
エルちゃんは王族だからこんな技能なくてもいいのに……かなり真剣に取り組んでる。あたしも負けてられないなぁ。騎士として魔物討伐にもいずれ駆りだされるだろうしね。
解体用のナイフを持って、ゴブリンの死体に向かう。
この常識外れな授業がいつまでも続けられたらいいなー。
ご清覧ありがとうございました。
投稿が遅くなってごめんなさい。最近、仕事が忙しくて投稿が遅くなっています。明日から3章始めたいので、今晩中に微修正で更正を一旦終わろうと思います。