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異世界転生からの世界革命  作者: アーシャ
第2章 ウィルルアルトの幼児期
36/52

14節(2) 称号の可能性 (2)

第2章14節(旧12節)の改訂版(15/2/22)です。


分割した2番目です。

称号の効果についての推測します。

side セバス



 私は夢でも見ているのだろうか。


 目の前には姫様を狙っていた賊3人が猿轡を噛まされて寝転がっている。

 見渡す限り――私の索敵能力の限りでも、屠った敵の数は30人は下らないだろう。


 強いとは聞いていたが、まさかここまで圧倒的だとは思わなかった。


 護衛兼指導役の熟練の冒険者達が2人ともやられたとき、正直私は諦めかけていた。せめてウィル様が敵を倒す間、姫様だけは私の命に代えてもお守りせねばと、死ぬ気で時間稼ぎをする決心をしていた。

 が、結果は私を含めた全員を護りながら、無傷で圧勝してしまった。しかも彼にはまだ余裕がある。

 正直、私はウィル様が怖ろしくなった。彼はその気になれば国1つ落とすことも容易いだろう。本当に人間族の子供かと疑ってしまう。


 横ではアリシアお嬢様とエルヴィアンヌ姫様が呆けた顔をしていらっしゃる。こんな非常識な力を目の当たりにしで仕方のないことだろう。まだまだ世の中どうしようも無い理不尽な力というものがあると実感するには早過ぎるお年なのだ。


「セバスさん。犯人の生き残りを確保しておきました。暗殺者2人と盗賊1人ですね。あまり僕の情報も拡散したくないので、この場で尋問お願いできますか?」

「かしこまりました。感謝します」


 相手の身分まで分かっているとは、おそらく鑑定系のスキルを持っているようですね。彼には今日だけで何度驚かされているだろうか。とりあえず、驚くことは後にしてやることをさっさと済ませよう。


 尋問は苦手なので本当は兵士を呼んで来たかったが、あまり大事にしたくないので私がするしかない。やれるだやってみようと意気込んだものの――ウィル様に何らかの魔法をかけられていたのか、尋問は非常にスムーズに終わってしまった。本当に白昼夢を見ている気分だ。


 ただ一点、思わぬ収穫だったのは、姫様達が自分達の行動がどういったものだったのか理解してくださったことだろうか。盗賊や暗殺者の言葉を聞きながら、必死にお互いを抱きしめあって脅えておられた。いい薬になったようだ。


 情報を引き出した後、彼等は私が処分した。ウィル様が手を下そうとしていたが、本来こういった輩の排除も王家に使える執事の仕事なのだ。あまりお手を煩わせる訳にはいかない。


「では、一度国王陛下の御前で事情説明をお願いします。助けて頂いた手前強制はしたくないのですが、事が事ですので」

「わかりました。あの、レオンさん達もですか?」


 そう言って"気絶したままの"指導員役の冒険者2人を見ます。


「できたら彼らには、セバスさんが襲撃者を撃退したと説明しておいて欲しいのですが……」

「いいでしょう。彼等にはそのように伝えておきましょう」

「はい、ありがとうございます」


 律儀に礼を言ってきます。ウィル様の力を知られたくないのでしたら、私を含めて殺してしまえばいいのにその気は全く無いようだ。これでは確かに陛下が言うように、心強い味方なってくれそうだ。


 私は、気絶している2人を何とか起こし、姫様達を連れて町に戻って行くのだった。




side エルヴィアンヌ・フォン・ステファニア



 妾はどうすればいいのだろうか?


 妾の前では父上とウィルが話し合っている。その内容を聞いていると耳を塞ぎたくなる。

 聞けばウィルの年は6歳、アリシアと同じ年で妾と1歳しか違わぬ。だと言うのに、父上に対して理路整然と受け答えしておる。これが、温室育ちの妾との格差なのかもしれない。


 妾はこの時初めてウィルが昨日の段階で父上と会っていたことを知った。しかも、昨日の段階で妾の周りには暗殺者がうようよ居たらしい。ウィルが倒してくれていたそうだが、先程の戦闘を見なかったらことの重大さを正確に分からなかっただろう。


 妾は護られてばかりだった。いや、そんなのは分かっていた。だが、自分がどれほどの脅威から護られていたのかを理解できていなかった。今回父上が外出の許可を下さったのは、そういう事を含めた色々な経験を積ませる為であったのだ。何度も言われていたのに、それをしっかりと理解せずに自由に外出できると思い飛び出してしまっていた。


 妾の名前にある"フォン"は、王位継承権を持つものに与えられる名である。そう、"フォン・ステファニア"はステファニア国の王位継承権所持者ということを示すものだ。

 妾達の国は比較的治安が良いことで有名だ。だが、比較的良いだけであって、盗賊などの犯罪者が全くいないわけではない。たとえ犯罪者じゃ無かったとしても、目の前に鴨が葱背負って無防備に歩いていたら魔がさしてしまうこともある。

 そう、何の対策もせずに護衛無しのか弱い王女が町中を歩けばどうなるかは、少し考えてみれば分かることだった。


 妾が迂闊な行動をしなければ犯罪者にならなかったのかもしれない民達――妾はどうやって償えばいいのだろう。


「エルヴィよ、あまり気に病んでも仕方ないぞ」

「父上……」

「迂闊な行動で多くの血が流れたのは事実じゃ。しかし、こういう輩は遅かれ別の悪事を働いて民衆を苦しめるだろう。その時に被害で遭うであろう者達の命を助けたと思えばよい」

「しかし……」

「犯罪を助長した可能性は否定できん。失われた命もあるが、それで救えた命もあるのだ。大事なのは行動の結果を否定しないことじゃ」


 間違いを認めることはいい。だが、結果を否定することは亡くなった者達を冒涜する行為なんだ。

 だったら、これまでと同じく自分が正しいと思ったことを全力でするだけだ。判断のために今迄以上に色々なことを考える必要はあるけれど。


 妾は今日何度目になるか分からない涙を拭き、正面に座っているウィルとルーちゃんを見据える。

 2人は最初こそ、緊張して話していたけど、今では妾と話すのと同じような口調になっている。妾が涙を流した時、最初こそはウィルはすごくオロオロしていたけど、今では普通に対応している。堂々としたものだ。彼等と比べたら今まで妾は何を学んできたんだろうか。悔しい。



「フェリクス様、エルとアリシアの称号についてどの程度知っています?」

「"突撃娘"と"頑張り屋さん"という称号なのは知っておる。"突撃娘"は、無茶なことに挑戦する女性にのみ得ることができ、成功率が若干上昇する補正がある称号じゃ。我が娘ながら、こんな称号を獲得するとはちと御転婆すぎると思うがの。元気な証拠じゃから、まあ可愛いもんじゃ。"頑張り屋さん"は、弛まぬ並外れた努力をしたものが獲得できるもんで、疲労がたまり難くなる効果がある称号じゃ。普段の様子からは想像できんじゃろうが、アリシアは凄く努力家なんじゃよ。たまに頑張る方向が間違っておるが、そこはお愛嬌だの」


 ウィルが凄く悩みだしている。いったいどうしたのだろうか。

 考えが纏まったのかウィルは妾を真っ直ぐ見て切り出した。


「少し推論が多くなりますが――今回の問題は"突撃娘"の称号が原因の可能性がある」

「何と?!」


 いきなり言われて妾は本当に驚いた。父上も横で素っ頓狂な声を上げている。驚いていないのはウィルとルーちゃんだけみたいだ。


「して、どうしてそのような結論に至ったのか教えてもらえるか?」

「はい。その前に確認を。エル、僕を見つける前、つまり抜け出す時の目的は"外を自由に出歩きたい"でいいよね?」

「うん」

「フェリクス様、"突撃娘"は目的を達成しやすくなる効果があるという認識でいい?」

「そうじゃ」

「僕はもう少し称号の効果を詳しく見ることができる。それによると……」


 ウィルが説明してくれた内容はこうだ。


 "突撃娘"の効果は、設定した目標の達成率を上げる効果があるが、その効果値は元々の成功率に一定倍率を乗算したものになるそうだ。つまり、元々成功率が0%の目標以外であれば、この称号の効果で成功率が"強制的に"上昇する。その結果、妾が感じていた匂いなどの第六感的なものだけでなく、周辺環境などにも多少の影響が出ている可能性は否定できないとのことだ。


 今回の場合、通常では考えられないほど警備の不手際が起こっている。いくら、暗殺計画が元々あったとしても、ここまで重なることはまず考えられない。さらに、妾は5番目の子――第5王女であり王位継承権は5位とあまり権力には関係が無い。歳も幼くまだ政治的な価値はそれほど無い。危険を侵してまで干渉する理由が殆どないのだ。


 それらの事を考えると、父上や妾でも想像さえつかない特殊な思惑があるか、何らかの力が働いているとしか考えられない。本当に単なる偶然かもしれないが、今後不用意な危険を避けるためにこの称号の使用は慎重にするべきだ――と、そうウィルは締めくくった。


 ウィルから話された内容を聞いたとき、妾はこの称号が怖くなった。

 もし、これが事実なら――妾の"外で遊びたい"という目的を叶えるために、副産物として妾の暗殺などが付いてきたのだ。


「なるほどな。その可能性は否定できんじゃろ。余の私見だが、報告を聞く限りその仮説は多分正しいと判断する。エルヴィ」

「……はい、父上」

「今後、不用意な称号の使用を禁止する。辛いじゃろうが、最低限の護身ができるまではこれは厳守してもらう」

「うん……」


 ああ、これで妾の希望は消えてしまった。いや、希望は元々無かった。あったのはまやかしの希望だった。

 妾は――妾の夢を覚ました張本人のウィルを見ながら、絶望に駆られていた。


「して、ウィルルアルトよ。何故、急に力を示すような真似をしたのじゃ?昨日の行動やセバスの報告などで、其方はギリギリまで手札を隠す男だと思っておったが?」

「それは、僕達のために必要だからだ。このままだといつルーシャやエル達が危険な目に遭うかわかったものじゃない。それに"王様"は"不用意に"僕のことを言いふらさないでしょ?」

「確かにな。其方を不必要に刺激したくは無いの」

「だったら、何も問題はないのでは?」

「ふふふ、そうじゃの」


 ああ、父上とウィルが笑いあっている。凄い笑みだ。


「それじゃ、僕達はこのぐらいで……」

「ちと、待つのじゃ」


 ウィル達が立ち去ろうとしたら、父上が急に止めに入った。

 一瞬、ウィルの顔が引きつったように見えたのは気のせい……かな?




side フェリクス・レ・ステファニア



 昨日からずっと、余は何とかしてこのウィルルアルトという男を手に入れられないか考えていた。いや、手に入れることは不可能かもしれん。この男の器を余は未だに量れずにいるのだから。


 昨日の段階で彼の力はおそらくこの国トップレベルと予想していたが、セバスの報告でそれでは過小評価だと認識を改めることになった。そう、彼の力は余の騎士達の誰よりも強い。"最低限敵対関係にはならないように、可能ならば協力関係を築きたい"と思うのは為政者としては当然だ。


 正直、得体の知れない怖さはある。が、今までの行動で、人格的には問題ない――いや寧ろ情に厚く甘い性格の持ち主だと余は感じている。

 先程の発言でもそうだ。自分の危険よりも、周囲の危険ばかり気にしておった。会って間もないエルヴィとアリシアのこともちゃんと考えてくれておる。歳のことも考えれば、こんな逸材は滅多に現れないだろう。


 こんな逸材を連れてくるなんて、流石エルヴィだ。少々、称号などで迷惑がかかった可能性があるが、それを考慮してもなおお釣りが来る大戦果だ。

 後は如何にして、この男と繋がりを保つかが問題だ。


 プランは昨日の段階でいくつか考えてある。

 が、それを実行する前に席を立とうとしたので顔には出さなかったがかなり焦っておった。というか、この男……【鉄仮面】などの表情を抑える交渉に役立つスキル覚えてるんじゃ無いのか?腹の探りあいで平然としておったし、貴族と同じ心持ちで交渉に臨まねば!


 先程引きとめたとき、極僅かだったが顔が引きつるのを余は見逃さなかった。戦闘力では勝てぬが、交渉では勝てるかもしれぬ。真意は見抜かれてそうだが、それはそれでやりようがある。


「そなたにお願いがある」

「お願い、ですか?」

「そう、"依頼"ではなく"お願い"だな」

「…………なんですか?」


 あ、こやつ気付きおったな。もう諦観しきった顔をしておる。


「しばらく、エルヴィとアリシアに稽古つけてくれないだろうか」

「父上?!」

「教えたことが無いので無理です」

「誰でも最初はあるものじゃ。そんなのは断る理由にはならんぞ。それにな、別に指導しなくてもよいのじゃ。この町にいる間、そなた等の側にいるだけでいい訓練になるじゃろうて」

「……でも警備上それは不味いのでは?」

「いま、どこに暗殺者がいるかも分からない、しかも警護の者も暗殺者の可能性がある状況じゃ。少なくともそなた等の側の方が安全だと余は考えるがの」

「僕が暗殺者の可能性が有りますよ?信頼を勝ち取っていいようにする心積もりかもしれない」

「それは無いな。前にも言ったが、そなたがその気になればそんな小細工せずともどうとでもなるじゃろう?なら、それを考えるだけ無駄じゃ」

「…………」


 さて、トドメの一撃を入れるかの。


「なんじゃ。そなたはエルヴィ達と一緒にいるのが嫌なのか?」

「い、いえ」

「無理しなくていいよ。妾がいると迷惑かけるのはよくわかったから」


 ナイスだエルヴィ。涙を流すまいとこらえながらのその発言、これでこやつは断れないだろう。


「いいじゃない。ウィル。エルちゃん達いい子だよ?」

「ルーちゃん」

「あーもう、分かったよ。別にエル達と遊ぶのが嫌なわけじゃないさ」

「なら、どういうわけ?」


 ふむ、あのルーシャという子には頭が上がらないのかもしれないな。これは良いことがわかった。後はどうやらあの子に任せておけばさらに好条件で約束できそうだ。


 横を見ると、エルヴィが泣いていた。嬉し泣きだろう。

 アリシアと一緒にルーシャに抱きついていったときは余ももらい泣きしそうになった。


「…………いくら国王とはいえ、ルーシャやその家族に手出したら潰すからな」


 気付くと、すぐ側にウィルルアルトが来ておった。余もそれなりの危険から身を護るために、索敵系などは相当鍛えてる筈なんだが全く分からなかった。


「あい分かった。余としてもそなたの逆鱗に触れるようなことはしとうないからな」


 殺気に気付けたのは、セバスと余のみ。いや、違う。殺気を余とセバスのみに振りまいておるのだ。末恐ろしい。



 これなら、当分他のプランは凍結しておいたほうがよさそうじゃな。まあ、繋がりをもてたようなのでこれで良しとしよう。


 余は、はしゃぐ娘達3人を見ながら、セバスと一緒に冷や汗を流し続けるのだった。

ご清覧ありがとうございました。


エルヴィは元々男キャラでしたが、色々あって女性キャラになった経緯があります。エルヴィは、元々出る予定だった同年代の姫との融合で生まれたキャラです。今思い返すと、脳筋の猪突猛進男がPTにいるってのは中々難しいと改めて感じています。

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