13節 突撃娘、現る
第2章13節(旧12節)の改訂版(15/2/21)です。
3人ほど主要人物が出てきます。
side ウィルルアルト・スヴュート
新暦5007年9月6日、今日も訓練の合間に日課となっている町内の散歩をしていた。
今日は人通りがいつに増して多い。よく見てみると、鎧を着た兵士の数が特に多かった。何かあったのかもしれない。
「何かあったの?」
「ん?坊主か。ああ、これはお偉いさんが視察にくるからなんだ」
町の視察か。とすると、この兵士達は交通整理のために駆りだされたのか。こんな大人数が駆りだされるとは、よっぽど身分が高い者なのだろ
う。要らぬトラブルに巻き込まれるのも嫌なので、今日は大人しく返ることにするか。
俺は、散歩を切り上げ早々にルーシャの家に帰ることにした。
しばらく歩いていると、何やら視線を感じる。悪意は感じないので無視しているが、中々しつこい。何か俺がしたのだろうか?
面倒事の匂いがする。撒いていこう。
side ルーシャ
ウィルくんといると退屈しない。今日も面白い2人を連れてきた。
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アリシア Lv.7 人間族・女 6歳
職業:剣士[2]
称号:頑張り屋さん
□AP 0 □Exp 4/160
□SP 0 □SC 15/54
HP 205/237 MP 92/98
STR 70 INT 20
VIT 40 MEN 26
DEX 44 AGI 32
スキル一覧
<学問系統>
【ステファニア語(6)】
<武術系統>
【剣術(3)】+
<その他>
【礼儀作法(2)】
状態異常
なし
加護
なし
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エルヴィアンヌ・フォン・ステファニア Lv.1 人間族・女 5歳
職業:なし
称号:突撃娘
□AP 0 □Exp 6/100
□SP 0 □SC 0/14
HP: 18/22 MP 14/14
STR 3 INT 3
VIT 2 MEN 2
DEX 2 AGI 5
スキル一覧
<学問系統>
【ステファニア語(5)】【歴史(2)】【算術(1)】
<その他>
【礼儀作法(6)】
状態異常
なし
加護
なし
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試しに【鑑定】してみたら、面白い名前が出てきた。名前に【鑑定】を使ってみる。
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エルヴィアンヌ・フォン・ステファニア
身分 王族(王位継承権第5位、ステファニア国第5王女)
新暦5002年8月14日生まれ。人間族、5歳、女性。
賞罰
なし
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やっぱり貴族の子のそれもお姫様だった。
さっき、自己紹介のときフルネームで言わなかったのは自衛のためだろう。ミドルネームが家督継承権を持っ
ていることを示しているし、ステファニア国で名字に国名を使えるのは王家だけだから。
只今お姫様は、私の店の中をキョロキョロしながら探索中だ。
(ウィルくん、お姫様だよ!お姫様!お姫様連れてきちゃったね!!)
(連れてきたくてきたんじゃないんだがな…………)
よく見ると、ウィルくんが少し疲れて窶れ気味だ。いつもの訓練のときに疲れなんて見せないのに、いったい何が起こったのだろうか?
聞けば、いつの間にか付いてきていたとのことだ。初めは気にしなかったけど、お姫様が付き纏うのは絶対に面倒事になると思って振り切ろう
としたらしい。死角に入った時、ステータスにモノいわせて強引に引き離した。が、何故か先回りされるてしまい、結局連れてくる羽目になった
とのことだ。
(一度なら偶然で済んだんだけどな。5回も先回りされたら、もう諦めてしまったよ……)
(へぇー、【鑑定】ではそういったスキルとかは全くないけど?)
(そうなんだよな。2人ともそういったスキル全くないし、産まれ持った素養なんだろうなぁー)
ウィルくんがまけなかった人達だ。私は俄然興味が出てきた。
姫様はお忍びで町中歩き回ってるんじゃないの?
「アリシアちゃん、ウィルくんをどうやって追ったの?」
「ほぇ?あーあたしは何度も見失っちゃったよ?でも、エルちゃんがいい匂いがするって」
「いい匂い?」
「うん。妾には分かる。こやつから面白そうな匂いがする」
「面白い匂いって何だよ……」
「事件が起こりそうってことかなぁー」
「うむ」
「護衛の人は何やってるんだか……火の中に突っ込む勢いだぞ、こりゃ」
「護衛?アリシアは友達だぞ?」
「「………………」」
ウィルくん見事な誘導尋問です。でも横をみるとウィルくんも固まってる。
「えっと――少々不敬な態度で申し訳ないが、君達はこの町に来てるお偉いさんの子どもでいいんだよな?」
「どうしてそれを?!」
うーん。そんなことで驚くのはどうかと思うよ。というか、隠す気あったんだ。
「いや、どうしても何もないだろう。まず言葉使い――1人称が王侯貴族のものだ。そして、さっきから言動でどう考えても町に慣れていないことが丸分かりだ」
「なんと!」
「ほぇー。そうだったんだ」
「それに、俺は【鑑定】もっているからな。町中には同じようなスキルを持っている人が他にも沢山いる。偽装手段がない状態で、姫様がうろつ
くのは襲ってくれって言っているようなものだぞ?」
ウィルくんがさらに畳み掛ける。あ、姫様が涙目になっている。
「妾だって…妾だって…町を見てもいいじゃないか……」
姫様が泣き出しちゃった。
「大丈夫だよー。またエルちゃんも一緒に怒られればいいだけでしょ?」
アリシアちゃんが、宥めている――いえ、あれは宥めていると言えるのかしら?というか、いつも抜け出して怒られているんだ。
エルちゃんはいつも歴史の勉強だの礼儀作法だの詰まらない生活を送っているらしい。今回こそは町を自由に見て回りたいと、何とか抜け出し
たらしい。あ、呼び方がエルちゃんになったのは宥めていたらそうなっちゃった。
アリシアちゃんは父親の護衛の子供で、小さい時から一緒に過ごしているそうだ。両親は元冒険者で、6歳にして冒険者としてやっていけるだけ
の最低限の技量を叩き込まれたそうだ。
「それにアリシアが言ってた魔物とかいうのも見てみたいしの……」
「それは、無謀すぎるだろ」
「うん。今のエルちゃんだと死ぬよ?」
エルちゃんのパラメータ的に低すぎる。多分ウルフの攻撃を数回受けたら死んでしまうだろう。
「そこは大丈夫、アリシアがおる!こう見えてもレベル7と同年代の子供の中ではずば抜けて強いんだ!」
「エルちゃん、多分ルーちゃんたちあたし達より強いよ?」
「なんと?!本当か!?」
「あー、まぁー、うん。2人ともレベルはアリシアより上だ」
確かに今のレベルは2人とも2百代だけど――アリシアちゃんのパラメータは私が天職『神凪』を覚醒したときより低い。あらためて、私の天職
は無茶苦茶高性能なんだと思った。
「おお!それなら問題ないな!すぐに行こう!!」
「そうだねー」
「……行くって何処に?」
「魔物退治によ!」
よく聞いてみると、魔物と戦ってみたいらしい。
アリシアちゃんは戦ったことあるみたいだけど、エルちゃんは見たことも無いそうだ。
「わかった。でも、行くのは明日にしよう。今日は準備と、明日はお父さんに連絡してくるように」
「それは無理よ。妾が何度お願いしても聞いてくれないんだ」
「でも、そうしないと町を出られないぞ?門番もいつも以上いるんだし」
「そこを何とか抜け出すのが良いんじゃない!」
「どの道準備せずに出かけたら、戦う前に戻る羽目になるよ」
「そうだよぉ。おやつとか準備しないと」
「まあ、そんなところだ」
まず、武器や防具は必須だろう。素手で戦える人もいるけど、どう見たって2人は無理だ。アリシアも護身用の短剣しか持っていないようだし、
最低限武器を持ってくる必要がある。
「ま、とりあえず装備でも見て話し合っててくれ。俺は必要なモノを取り揃えてくるから」
(ルーシャ、俺ちょっと出かけてくるわ)
(ウィルくん、何処に行くの?)
(エルの親のところ。その前にこの家近辺の掃除もしておくよ)
(やっぱり、狙われてる?)
(だろうな。おそらく身内――護衛の者が絡んでそうだ。じゃ無きゃ、彼女達がこんなに簡単に抜け出せるとは思えない)
(わかったよ。時間稼ぎは任せて)
(頼んだ)
見ると、エルちゃんは店内の見本(飾りで置いてる装備)を眺めては取り付けている。興味が装備に移ってるしなんとかなるだろう。
ウィルくんは私に目配せをした後、足早に家を出て行った。
side ウィルルアルト・スヴュート
何故こうなった?
俺は今、フェリクス国王――エルの父と大広間で会食をしていた。
ことの発端は俺の散歩中にエルに見つかり逃げ切れなかったのが原因だ。この際エル達の異常な追跡能力は、問題の本質じゃないのでおいてお
く。
俺がこの時疑問に思ったのは護衛は何をしてるんだってことだ。エル達は出し抜けたとか言ってるけど、ステータス的にその可能性は低い。と
すると、考えられるのは2つ。
1つは、陰ながら見守っている可能性だ。社会勉強のためと、気付かれないように護衛しているってことだ。
もう1つは、命を狙われている可能性だ。王族は様々な理由から標的になりやすい。警備の不手際も誰かの仕業ってことだ。
俺の予想通り、今回は暗殺のほうだった。殺気が漏れ出ていたので、制圧して話し合うことにして正解だった。
そして、そいつらを捕まえて兵士に引き渡すべく、こっそり教えに行ったのだが……何故か、あっさりと隠れてる場所がばれ、今のこの現状に
なったわけだ。
「どうした?遠慮せんで食すがいい」
「は、はぁ。それではお言葉に甘えて」
礼儀作法は気にするなとは言われたけどさ、いきなり王様と食事するなんて思わなかったよ。
そりゃさ、お昼まだ食べてなかったけどさ、何でこんな見ず知らずの――というか、明らかに怪しい子供とご飯食べることになるわけ?ねぇ、
どうしてよ?
「王様、質問してもよろしいでしょうか?」
「硬いのぉー。ここは非公式の場じゃし、もっと気楽にしていいぞ。で、何じゃ?」
「では、ご質問を。何故、僕のような者と食事をしてくださっているのです?自分で言うのも変ですが、僕は明らかに怪しい人間ですよ?」
「確かに、突然こっそり手紙を置いて帰ろうとするそなたは怪しい人間だろうな。確認にいった兵士から手紙の情報通りだったと報告を受けても
、正直信じ切れずにいる」
「もし全てが本当だとすると、そなたは我が国の精鋭を無傷で取り押さえた子供ということになる。そのような貴重な人材を野放しにする馬鹿な
王など、王として失格じゃ。先程までの言動を見るに、そなたは嘘をついておらんし、まだ幼いとはいえ人格的にも同年代と比較したら十分すぎ
ると余は判断した。だから食事に誘ったのじゃ。それにその気になれば、余も含めて何時でも殺せるのだろう?」
どうやら、俺がステータスを偽装しているのはお見通しらしい。ギリギリ取り押さえられるぐらいの強めのステータスに書き換えていたのに、
偽物だと気付いているみたいだ。
「さすがに、そこまでは……」
白をきってみた。
「隠さずともよい。まぁ、隠す気持ちも分からんでもないがな。何れそなたの真のステータスを見せてもらえることを楽しみにしているぞ」
「……善処します」
「うむ。で、どうじゃ。余からの依頼を1つ受けてくれんか?」
うわぁ……絶対に面倒なことだ。どうやって断ろう。
「えっと、まだ僕は子供なんで難しいですよ?
「何、簡単なことじゃ。それに、この依頼はそなた以外にできんじゃろう」
「……何でしょうか?」
「エルヴィを、私の娘を連れてウルフやゴブリン辺りでも狩りに行ってはくれないか?」
「はぃ?!」
「我が王家には護身のために最低限の力を付けることが推奨されておる。もう少し大きくなってから連れて行くつもりじゃったが、状況が変わっ
た。何故エルヴィが狙われたのかは分からんが、今迄のように護衛の力頼みじゃまずい。一刻も早く力を付けさせたい。幸い、あの子も行く気の
ようじゃしの」
「えっと、それだと僕じゃなくても、腹心の部下にさせたほうが良いのでは?」
「それは難しいだろうな。凄く信頼しておった護衛を付けていたが、裏で暗殺を企てられておった。余の部下を見る目が無かったということじゃ
な。この点、そなたなら大丈夫じゃろう。何故なら、そなたがその気になればどうあがこうとエルヴィは死ぬからの。信頼があろうが無かろうが
関係ないのじゃよ。それにのぉ……エルヴィはああ見えて頑固でな。一度決めたら中々諦めんのじゃ。絶対にそなた等と行こうとする筈じゃ」
「………………」
「なら、依頼という形にしておいたほうがお互いのためになるだろうて。冒険者ギルドには余から通知しておこう」
「あ――え、えっと。僕、冒険者ギルドに登録していませんよ?」
「何と!?てっきり冒険者として活動していると思ったぞ」
「いえ、そういうのは全くしていませんよ?」
確かに、人間族の5歳ぐらいといったら、早い者だと弟子入りして仕事を始める年齢だ。見習い冒険者として活動し始める者もいる。鳥人族にい
たっては平均寿命が20年ほどなので1歳から仕事をしてる者もいるぐらい、この世界の労働年齢は凄く低い傾向にある。教育機関があまり発達して
いないようだし、学校などの代わりに大人の下で仕事を見ながら勉強してると言ったところか。
レベルを上げるためには、敵を倒さなければならない。スキルの反復練習だけではパラメータは伸びてもレベルは上がらない。俺が先程偽装し
たステータスのレベルは30、年齢的にはちょっと高すぎるがこれぐらい無いとどう考えても説明できなかった。
レベル30と言ったら、中級の冒険者の仲間入りってところだ。騎士団や冒険者ギルドなどに所属しておらず、大量に魔物を唯倒すだけなんて者
はそうそう居ない。この町は魔物避けの防壁に囲まれているし、常駐の兵士達もいる。自らの命を守るために子供自らが戦うなんてことはまず怒
らない。冒険者として仕事をしているから、レベルが上がっていると考えるのは自然なことだ。
「えっと、何れちゃんと登録しようかと思っていますが、今はしていません」
「では、何処で教えてもらっておるのだ?」
冒険者ギルドでは初心者に戦い方も教えている。ただし、利用できるのは登録した冒険者のみだ。なら何処でというのは当然の疑問だろう。
「元冒険者に教わっていした」
一応、母も昔冒険者ギルドに登録していたようだし、嘘は言っていない。現在進行形で教えてもらっているがな。
「ほう。そのような者がおったんだな」
「はい」
「では、依頼内容を変えよう。明日、冒険者ギルドでパーティメンバーを探し、ウルフかゴブリンを一匹以上討してくれ。アリシアに細かい指示
は伝えておくので安心しておくがいい」
全然安心できないんですが?
ってか、もう受けること確定しちゃってるよ。どうしよう。
その後、俺はなんとか粘ったが、結局"依頼内容"は変わることは無かった。
エル達の説得を手伝ってもらうつもりだったのに、予定が狂った。
もしかすると、この親子は俺にとって天敵かもしれんな――――はぁ…………
ご清覧ありがとうございました。