9節(1) 眷属契約 (1)
第2章9節の改訂版(15/2/14)です。
分割した1番目です。
side ルーシャ
今日は3月20日、私の誕生日だ。
今日私は2歳になる。
普通、人間族の2歳と言ったらやっと言葉を喋りだすぐらいで、まともな会話なんて出来ない。
だが、私もウィルくんも1歳のときから普通に話せるし、しっかりとした思考をすることができる。前世の記憶所持者か一定以上のINTがあると幼い人間族でも出来るようになるらしい。もっとも、強制的にINTを高く変化させた実例は私が始めてだから更なる検証をしないと推測の域を脱しないそうだ。
最近、"後継者"のこととか"ウィルくんが神託の勇者――転生者である"ことを聞いた。知った時は本当に驚いたな――あの時の私の取り乱し様は、黒歴史に刻まれちゃったな。
後継者のことは私の家族全員知っているけど、ウィルくんが転生者のことは家族で知っているのは私だけだ。理由は最近の世界情勢を説明されたら納得なので、いずれ時期が来るまで秘密にしなくちゃいけない。
ウィルくんもだけど私も珍しい職業を持った"特異な"人間らしい。
『神凪』――私が持って産まれた天職の名称。
天職以外で取得するためには、『巫女』や『巫覡』などの系統の職業を何段階かランクアップさせる必要がある。凄く厳しい修行をしなければならず、その過程で死ぬことさえあるらしい。
そんな極めて珍しい職業を私は持っているのだ。
力ないものがレアなモノを持っていると、要らぬトラブルに巻き込まれる。
これらの説明を受けた私は、今迄以上に訓練に励んだ。
だって、今の私はちょっとパラメータが高いだけの子供だから。修行で『神凪』を取得したのなら、何らかの自衛手段があるけど――天職で得たスキルは巫術系統のスキルを覚えていなければ全く役に立たない。パパの幼い頃のような事態にならないように、しっかりと護身術を身につけないといけない。
そういえば、シャルロット小母さんは私を"後継者"の1人とするのに何処か迷いがあるみたい。
でも、私の心は決まっている。
私はおばさんの"後継者"になりたい。
何もしなければ、この世界は終わってしまう。つまり、自分のお家が無くなってしまうのだ。なら、お家を守るために何かするのは当然だ。それに、その為にウィルくんと世界中を旅するのはきっと楽しと思う。
閑話休題。
今日は"伸び悩んでいる"私の為に、ある契約の儀式をすることになっている。
今の私では、シャルロットおばさんの後継者になることも、ウィルくんの隣に立つこともできない。ウィルくん達は別にそんなことないと言うけど、能力的に私はお荷物だ。
旅行中ずっと守ってもらう訳にはいかないし、絶対に強くなってみせる!
さて、朝早いけどお風呂に入り身を清めましょうか。
side ウィルルアルト・スヴュート
「母さん、やっぱり必要ないと思うけど?」
「ん……確かにそうかもしれないわね。でも、ルーシャちゃんの気持ちも分からなくもないのよね」
俺は母さんと今日儀式で使う契約書の最終チェックをしてなばら、何度目になるか分からない疑問を口にする。
「と言っても、僕はスキルとかがあるからだし、それと比較しても……」
「それでも、よ。5ヶ月しか違わないのに能力差は歴然。頭では分かっても感情では割り切れないのよ」
最近、ルーシャに俺のことを教えてから、いい意味でルーシャは俺に凄く対抗意識を燃やしている。
「比較対象を変えたら十分強いこと分かるんだけどな――上の兄2人にステータスで負けている項目なんてないし」
「そんなことはルーシャちゃんも分かっているわよ。何にせよ向上心が出ることはいいことだわ」
「それは、そうなんだけど……それで何で"眷属契約"することになるの?」
"眷属契約"――それは、契約魔法などで魂の眷属を増やす契約である。
各眷属には主といわれるトップが存在し、主と新たに眷属になる者が霊的なパスで繋がれことで契約は成立する。
契約内容によって様々な眷属の形態がある。
例えば、前世でホラー映画とかで有ったような吸血鬼などのような形態もある。もっとも、あれは"隷属契約"で実現可能なレベルなので、わざわざ相当高度な"眷属契約"の術式を組むことはまずない。ちなみに、この世界にも"吸血鬼族"はいるが、前世の空想のような生態ではない。
今回俺達が目指している形態は、魂の結びつきが最も強い形態だ。
この形態では、主は主本人が所持しているスキルを眷属スキルとして任意に設定でき、眷属の者はそのスキルを使うことができる。
ここまで霊的なパスが太いと、パラメータのやり取りなども出来るようになるそうだ。
一見何もデメリットがないように見えるが、問題はいくつもある。
問題の1つとして、主の方は一方的にパラメータやスキルを取り上げたり出来ることが挙げられる。
霊的な結びつきが強ければ強いほど眷属スキルの効果を引き出せるが、その分主からパラメータを取り上げられるモノが大きくなってしまう。
他にも、主の魂魄状況の影響を受けてしまうとか、一度眷属になると一生その眷属で居続けなければならないとか、眷属内での霊的に明確な序列が無ければ主の死亡でパスがズタズタになって最悪共倒れになる等、様々な問題点がある。
まさに諸刃の剣だ。
この契約を、ルーシャは俺と結ぼうとしている。
ルーシャは契約魔法を取得していない――つまり、契約魔法の使える俺が主となる。
確かに、俺と契約すれば様々なスキルを利用して今以上に効率的な成長をすることが出来るだろう。だが、それは同時に今後一生俺に左右されるということを受け入れなければならない。
いくらINTが高くて、思考が大人並に働くとは言ってもルーシャはまだ今日2歳になったばかりである。本当にいいのか不安になってくる。
「ウィルはルーシャちゃんと契約するのが嫌なの?」
「それは無いよ。ただ、彼女がしっかりと考えた上での決断ならいいんだけど、勢いで言っている気がしてならないんだ」
「多少は勢いもあるでしょうが、しっかりと考えた上だと思うわよ」
「そうか。なら僕も覚悟を決めないと」
彼女の魂を拘束してしまうのだ。今後何があろうと彼女の力になろう。
俺は迷いを振り切り、契約書の最終確認作業に戻った。
隅々までチェックし終わり、後はルーシャたちが来るのを待つだけになったので、俺は一度自分のステータスを確認しながら待つことにした。
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ウィルルアイト・スヴュート Lv.9 人間族・男 2歳
職業:武神[50] /付与術師[50] /契約術師[50] /召喚術師[50]
/妖術師[50] /古代魔導師[50] /アークビショップ[50]
/メイジ[50] /探索者[50] /指揮官[50] /時空術師[50]
称号:生還者 /異邦人(転生) /探究者 /スキルジェネレーター
/肉体改造の達人
□AP 14,240,987 □Exp 47/180
□SP 10,099,280 □SC 740/11,113
HP 72,000/72,000 MP 72,000/72,000
STR 45,800 INT 45,800
VIT 45,800 MEN 45,800
DEX 45,800 AGI 45,800
スキル一覧(右横に"+"が付いているものは下の階層にスキルあり)
<システム系統>
【技能統制】【スキルメイキング】【固有図書館】【データベース】
【パーティコマンド】【命令伝達】【隠しパラメータ可視化】
【能力擬装隠蔽】【擬装工作】【夢幻図書館】
<サーチ系統>
【鑑定】【目利き】【真贋眼】【看破】【洞察眼】
【隠密】【威圧】【索敵】【遠視】【マッピング】【戦況把握】
<固有スキル>
【武技の真髄(1)】【時空間掌握】【箱舟の教会】
【契約魔術】【契約付与】【契約解除】【召喚契約】
<生産系統>
【筆写】【模写】【算術】【暗算】【複製】【解体】
<探求・学問系統>
【探求之神髄】【見透かす力】【万物の知識】
<能力上昇系統>
【処理力上昇】【治癒回復力】【魔力掌握】【状態異常耐性】
【消費MP減少】【起死回生(1)】【鉄仮面(1)】
<武術系統>
【身体強化】
【体術】+
<魔術系統>
【魔力転換】
【元素魔術】+
【回復魔術】+
【治癒魔術】+
【蘇生魔術】+
【再生魔術】+
【時空魔術】+
【付与魔術】+
[召喚魔術]+
【古代魔術】+
【生活魔法】+
【儀式魔術】+
状態異常
なし
加護
なし
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俺はこの1年の間に【魔力掌握】や【魔力転換】など色々なスキルを作った。
【魔力掌握】は【魔力把握】の上位互換スキルで、両方とも作ったスキルだ。
【魔力把握】は【魔力操作】【魔力感知】【魔力吸収】の3つの統合スキルとして作成した。
【魔力転換】は【魔力生成】の上位互換スキルとして作ったものだ。
効果はほぼ同じだが、コスト表示が割合になるように定義されている一点だけ違う。これにより、俺はHPを計算して制限しなくてもAPを稼げるようになったのだ。
【探求之神髄】は【解析】【究明】【研究】【言語理解】【暗号解読】などの上位互換(統合)として作った。
学問や真理を探究する効果のあるスキルを一定数以上所持するのが条件とし、【万物の知識】同様に全ての統合でもあるようにした。
【処理力上昇】は【並列思考】【高速思考】【高速演算】などの上位互換(統合)として作った。
【夢幻図書館】とかで、処理速度とか同時処理力に限界を感じていし、念願の途中中断ができるようになったので、これが出来た時は本当に嬉しかった。今でもデータ形式の見直しなどをやって少しでも負担を軽くするような方法がないのか模索はしているが、やっぱりスキルを一新したほうが明らかに改善されるような気がする。
【治癒回復力】は【自然治癒速度上昇】【戦闘時回復力上昇】の統合発展版のスキルだ。
治癒魔法と回復魔法は結果だけ見ると同じように見えるが、中身は全く違う。治癒魔法は元々体にあった治癒力を高めて傷を治すのに対し、回復魔法は特殊な魔力元素を使って傷を覆い代替して治す。
【自然治癒速度上昇】と【戦闘時回復力上昇】にも実は同じような違いがあり、前者は身体の治癒力を後者は魔術的な回復力に由来している。本来は性質が全く異なるので区別されてきたが、複数属性の魔法があるのだから複数性質のスキルも作れるはずと結構強引に作成した。
多分この1年の中で1番苦労したスキルだと思う。
これらのスキルを作るのに5百万か6百万ほどSPがいったと思う。
これだけで済んだのは【治癒回復力】以外は一度の試行に必要なSPが比較的低かったこと、失敗の回数が少なかったことが大きい。
他にも、俺は魔術系統のスキルをいくつか新たに習得している。
ルーシャもこの1年で、結構色々なスキルを習得している。パラメータの伸びも兄弟と比べても遜色ない、というより寧ろ良過ぎる。
焦る必要は無いと思うんだが、どうしても今直ぐに強くなりたいらしい。
俺は自分の能力値を隅々まで確認し終え、準備ができたことを母さんに言った。
さあ、SCにも十分な余裕を確保できている。あとは失敗しないように細心の注意を払い、進めるだけだ。
ご清覧ありがとうございました。