3節(3) 再戦、コボルトキング (3)
第2章3節の改訂版(15/2/6)です。
分割した3番目です。
side 田中達也
やはりボスというだけのことは有ったようだ。この俺が全力を出しても押し切れなかったとは予想外だ。
俺は回復薬をいくつも飲みHPとMPを回復していく。
相変わらず【限界突破】を使うと大量に消費するな。全回復までしばらく掛かりそうだ。
ボスは今村上たちによって、なんとか食い止められている。だが、何時までももつまい。早く俺が戦線に復帰しなければ…!!
後方からボスに向けて攻撃魔法が飛んでいく。村上を巻き込むつもりか?!
だが、予想を外れて村上のギリギリ横をかすめボスに次々着弾していく。
「左、10秒!」
「わかった!」
よく見ると、村上と攻撃している者達が会話をしていた。器用だな。
まてよ、ということは…村上は誘導しているのか!
俺の目に狂いはなかった。俺のパーティメンバーに相応しい!
さて、俺も攻撃に加わりたいがまだ最大の3割程度しか回復していない。しばらくは任せるしかないが、この分なら大丈夫だろう。
ワオ゛ォォ・ォ・・ォ…
突然ボスが叫んだかと思ったら、動きが止まった。俺がトドメを決めるはずだったんだが、予定が狂ってしまった。まあ、討伐できたから良しとするか。
俺はボスに慎重に近づき、死んでいるのを確認する。
「よし、コボルトキングを倒したぞ!作戦は成功だ!!」
「よっしゃぁぁぁぁ!」
「流石!苦労した甲斐ありましたね~」
5時間近くの持久戦の末の勝利だ。達成感が半端ない!
俺達は勝利を喜び合った。さて、長居は無用だ。死体は回収して騎士団の奴等に解体させればよいし、腹も減った。帰るとしよう。
「疲れているし、一度戻ろう。明日王宮の会議室を使って戦利品の分配だ!」
皆足取りは軽く、上機嫌で王宮に戻った。
騎士団に死体を渡し、明日までに解体するように言った。ただ、村上とか数名が一緒に解体したいとか言ったのが意外だった。本人達は練習がしたいようだ。数は一杯あるし、失敗しても問題ないだろう。俺達は練習したい者はしてもいいということにした。
その日の夜、王宮で祝勝会を開いた。俺達の力を改めて認めたのだろう。晩餐会には王族や騎士団長なども参加してきた。
翌日、俺達は会議室で戦果を確認した。総撃破数はボスも含めて2008体、こちらの被害は負傷者が出た程度、大勝利だった。
討伐数は多いが、コボルトは毛皮と魔石以外は殆ど使えない。魔石にしたって、有る固体と無い固体がいる。数は多かったが、素材はあまり期待できないだろう。一応、均等に分配しておいた。
国家からの報奨金は、ボス撃破と前回の謝罪分を合わせて総額5800万円つまり1人百万円用意させた。今回の成功で、俺の主張が改めて認められたのだ。報奨金額の百万円は金貨1枚に相当する。俺は金貨を1人1枚ずつ配った。
分配が終わり解散しようとしたとき、徐に誰かが手を上げた。
「ん?何かあるのか?」
俺は何の気なしに尋ねた。えっと、あいつは確か吉田だったかな。昨日、斥候に任命したものだな。
「丁度いい機会だ。俺はこれから別行動したいと思う」
「?今だって自由に行動してるだろ?」
「いや、本当の意味での別行動だ。今後交渉なんてのも自分でするし、作戦に参加するかも自分で決める」
「は?無理だろ。俺が交渉しないと」
何をいきなり言い出すのだろうか。今迄俺がしてきたから、なんとかこの現状があるのだ。
「俺も、俺も本格的に旅に出ようかと思う。タッチャンとは別の方法で魔王討伐を模索してみたい」
突然村上が言い出した。
一瞬俺はあいつ等が何を言っているのか分からなかった。
side ケンセイ・ムラカミ(村上賢誠)
俺はずっと迷っていた。
昨日、なんとかコボルトキングを倒した後、俺は斥候部隊で一緒だった仲間と秘かに集まっていた。皆外部に出かけて修練を行っている者達だ。俺達は戦いを振り返り、いかに綱渡りの戦闘だったのかを再確認した。倒せたのは本当に偶然だと、俺達は結論付けた。皆不満は沢山あったが、命があったことと上に立つ難しさを考えてあまり表立って言う者はいなかった。
また解体場所に集まった者達も、かなりのストレスを感じている者が多かった。昔はそう気にはならなかったし、皆を引っ張っていくその姿勢を頼もしく思えていた。しかし、異世界で己の命がかかることになったとき、"タッチャンの行動は相手のことを本当に考えての行動ではない"と感じるようになってしまった。本心はどうかは分からないがこれではリーダーをいずれ辞めなければならないだろうと、俺は思った。
俺は、このまま付いていってはダメだと考えていた。しかし、表立って行動する勇気を持てずにいた。
俺は冒険者仲間の情報と【ステータス閲覧】で、この国のトップレベルの兵士が俺達よりも格上なのを知っている。さらに、対象が友好的な場合【ステータス閲覧】の制限が少しは緩和されることも知っている。それが意味するところは、俺達よりも圧倒的に格上か俺達に敵対心を持っているかあるいはその両方ってことだ。
アルトヘイム国王は猜疑心が強く危険な男だ。疑われたら奴隷にされるか殺されることだろう。海千山千の政治家に一般人が腹芸で勝つのは不可能だ。おそらくタッチャンはいい傀儡人形となっているのではなかろうか。自然な流れで、俺はこの王宮とタッチャンから離れたかった。
そう悶々と悩み続けながら、俺は報酬の分配に来ていた。
解散という段階になったとき、斥候で同じだった吉田が手を上げた。
「丁度いい機会だ。俺はこれから別行動したいと思う」
なんとも勇気あることだろう。俺が足踏みしていたことをストレートに言っていた。
どうするか、一瞬迷った。が、この機会を逃せば次は何時になるかわからない。卑怯だが便乗させてもらうことにしよう。
「俺も、俺も本格的に旅に出ようかと思う。タッチャンとは別の方法で魔王討伐を模索してみたい」
そう、あくまで"別の方法を探る"ために旅にでることにする。1人ならばかなりの確率で本心は別だと見抜かれるだろう。が、俺が便乗さえすれば他にも便乗する者が出てくると踏んでいた。
「私も、私も旅に出て異世界をよく見てみたいわ。具体的にどうなっているか知らないのはいけないと思うの」
「俺もちょっとやりたい事がある。物資の調達だ。色々な物を見てこないと何がいいかわからん」
次々と声が上がる。
タッチャンを見ると、顔を真っ赤にしていた。理由は深く考えないほうがお互いのためだろう……
それよりも、この場をどう纏めるかだ。
「俺達がこの人数で呼ばれたのにはわけがあると俺は思ってる」
「………どういうことだ?」
「おそらくだが、様々な視点や立場から協力しあうためだと思う。その為には全員が同じ行動をするだけじゃダメだ」
「…………」
「もちろん、集団で行動することによるメリットもある。が、それだけだと偏ってしまうと思うんだ」
「……なるるほど。ということは割り振る必要があるわけか」
「タッチャン、それは違う。他人が考えて行動するから、予想外の収穫があるんだ」
「それだと、収拾がつかなくなるだろ!!」
「なんとかなるだろ。現に今の状況と殆ど変わらないぞ?」
「いや、違うだろ?!」
「現状でも、俺達は各々レベリングしている。ただ少しだけ自分の判断の割合を増やそうってだけだ」
「い、いや、そうだけど…ああ、もう!!」
タッチャンは荒れていたが、俺達も根気よく説得していった。
最後は渋々だが、半年に1回は手紙(報告)を出すという条件で俺達の言い分を聞いてくれた。
結局俺達は、俺のようにアルトヘイム王宮から距離を置くものが24人、とりあえず王宮に残っておこうってのが14人、タッチャンに付いて行こうってのが20人の3つのグループに分かれることになった。王宮に残るのもほぼタッチャンに付いて行く気の者もいるから、離脱を明言したものは24人ってことになる。
そして翌日、ある者はパーティを組んで、ある者は1人で、王宮を後にしていった。
俺は、外部パーティでも一緒だったアンナとあと2人の4人パーティを組んで、王宮を出奔した。
ご清覧ありがとうございました。