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異世界転生からの世界革命  作者: アーシャ
第2章 ウィルルアルトの幼児期
20/52

2節(2) 天職もちの子供達 (2)

第2章2節の改訂版(15/2/3)です。


分割した2番目です。

side ウィルルアイト・スヴュート



 母さんには何か考えがあるようで、俺も"神"の文字入り職業を持っていることを見せたいようだ。【能力擬装隠蔽】を起動して偽装内容を書き換えていく。


 作業をしているといきなり顔面に衝撃が走った。どうやらルーシャが寝返りをうったみたいだ。パラメータが高いので大して痛くはないが、なぜか無償に叩き返したくなった。女の子なので、お返しは顔じゃなく腕にしておいた。もちろん手加減して触れる程度のお返しだ。驚いたのかルーシャは泣き出していた。


「………ウィル、わかってるわよね?」


 急に頭をロックされた。ミシミシと頭に指が食い込む勢いで捕まれた。見上げると額に青筋を立てた母さんがいた。初めて母さんに怒られているのは理解できるけど、何を怒っているのだろう。


「お兄さんなんだから我慢しなさい!」


 いきなり【ショックボルト】を打ち込まれた。【ショックボルト】は特殊な電気で相手を麻痺させることに特化した付与魔法だ。対象は単体で殺傷能力は低いが、その代わり高確率で対象を痺れさせることができる。


「シャル様、お、落ち着いて!ウィル君が死にますよ?!」

「このぐらい平気よ。と、話の途中だったわね。ウィル、お仕置きは後にするわ」


 なぜ怒られたか考えてみる。

 5ヶ月下の子供に手を出したから怒られたのか?"このぐらい年の赤ちゃん"なら当然の反応だよな。あ……何でこの程度のことで手あげちゃったんだ、俺。相手は赤ん坊だぞ。下手したら死ぬぞ。俺無駄にパラメータ高いんだし。しかも中身は転生者――大人のときの記憶がある。いくら精神年齢が下がっているとはいえ、同年代よりも遥かに老成しているべきだ。

 やばい、怒られる要素しか思い浮かばない。"判決、有罪"っと俺の中の法廷が告げていた。


「赤ちゃんなら、手が当たっちゃうこともありますよ」

「それは"普通の子"だったらよ。トリシア、ウィルに【ステータス閲覧】を使いなさい」

「さきほど使いましたよ?シャル様の指導で初めて会った人には使うようにしていますし」


 お、やっぱり挨拶する前に感じた覗かれるような感覚は、【鑑定】と同系統のスキルでステータスを覗かれたためみたいだな。【ステータス閲覧】は【鑑定】の機能縮小版みたいなスキルで、レベル、職業、HPなどのパラメータを見ることができる。


「今、もう一度使ってみなさい。ウィル、レジストしないこと」

「えっ?」


 "レジスト"とは、スキルなどの対象になった際に効果を阻害し防御することをいう。

 トリシアさんの驚きはもっともだと思う。人間族の1歳になったばかりの幼児にそのようなこと普通出来るはずがないからだ。


「見てもらうのが早いわ。ウィルの準備もできたようだし」

「じゅ、準備が出来た?え?」

「とりあえず見なさい」

「は、はぁ……ッ、こ、これは?」


==========================================

ウィルルアイト・スヴュート  Lv.1 『武神』

HP: 10/10 MP: 10/10

STR  1  INT  1

VIT  1  MEN  1

DEX  1  AGI  1

==========================================


「見たみたいね。そうウィルにも『武神』があるのよ」

「さ、さすがシャル様のお子と言いましょうか。あ、あれ…?」

「気付いたみたいね」

「ステータス値偽装しているのですか。なるほど。ウィル君を護る為ですね」

「ルーシャちゃんにもちゃんと対策はしていたわよ。私の知る限りの認識阻害系の魔法をかけているわ」


 なんと、そんな魔法かけていたのか。母さんの規格外っぷりはよく知っている。では【鑑定】は普通に使えたのは何故なのだろうか。同レベルのスキルなら後はパラメータがモノをいう。能力値的に全く歯が立たないのは実証済なので、他に理由があるのだろうか。


「そうだったのですか?!」

「もちろん、家族や私達には効果が及ぼさないようにしていたわ」


 驚いたことにそのような緻密な制御も可能とのことだ。やっぱりスキルを覚えているのと使いこなすのは別物だな。


「時間稼ぎ程度にしかならないわよ。それと、ウィルの認識阻害は私のスキルじゃないわ。ウィル自身のスキルよ」


 驚いたようにトリシアさんが俺の顔を見てくる。そりゃ驚くだろうな。どう考えてもおかしいもの。


「っと、話を戻すわ。ウィルもね、ちょっと特殊な子なのよ」

「そのようですね。既にスキルを使っているとは…」

「ま、私の指導を受けているからね」

「この年でですか?!!確かまだ1歳になるかならないかぐらいですよね?」

「今日1歳になったわ」

「あ、今日が誕生日だったのですね。おめでとう、ウィル君。……じゃなくて!!」


 トリシアさんが段々分かってきたような気がする。リアクションが凄く大きい。いつも母さんに振り回されて苦労してそうだ。


「"神"持ちの子供は、発覚すれば権力者達の食い物にされるわ。そうならない為にも、子供達自身に力を付けてもらうしかないわ」

「もしかして、稽古つけていただけるのですか?上の兄弟2人のときと同様に」

「ええ、それはもちろんします。その上でお願いしたいことがあるの」

「何でしょうか?」


 母さんは少しの間目を瞑って沈黙していた。そして徐に目を開きトリシアさんを真っ直ぐ見つめて言った。


「ウィルとルーシャちゃんを私の後継者としたい」


 ルーシャは父レオボルドと母トリシアの3人目の子供として産まれた。貴族や王族は親の身分などで色々変化するので除外するが、この世界では男女関係無く最初の子が継ぐのが一般的である。平民などが末子相続するのは滅多にない。


「養子にすると言うことでしょうか?」

「いえ、私の意志を継ぐ者として育てさせてもらいたいのよ」

「それなら是非お願いします、シャル様!」


 トリシアさんはノリノリだった。


「貴方、私の意志というか目的知らないでしょ?」

「世界中の素材やスキルなどを調べることではないのですか?」

「それは手段であって、目的ではないわ。私が旅をしていたのは覚えているわよね」

「ええ。旅の途中だった貴方に命を救われて、この町に一緒に来たのは忘れるはずがありません」

「そう、ならあの時の旅の目的も含めて教えるわね」


 トリシアさんと会った当時、母さんは"世界の滅亡を回避する手段を探る"ために世界中を旅して周っていた。そして旅先で出会った技術や知識は、いずれ必要になるかもしれないと可能な限り手に入れていったそうだ。集めるのが目的なのではなく、手段を探すのが目的だったのだ。ここ数年は、集めたものの整理を中心としていたらしい。

 また、"魔王討伐は手段足りえない"ことも言っていた。勇者が世界中に沢山いるのに、魔王が沢山いない道理はない。戦争を吹っかけたり虐殺など破壊行動を起こす魔王が目立つため、魔王とはそういう"滅びをもたらすもの"だと誤解しているのが現状だそうだ。

 今現在も世界滅亡を防ぐ方法が分からない。ましてやその先の実際に阻止するなんて夢のまた夢である。母さんの意志を継ぐとは、そういった難題に向き合い続けるということなのだ。


 初めは俺1人の予定だったが、ルーシャが天職『神凪』を持って産まれてきた。とても困難なことが予想される以上、1人より2人で取り組んだほうが達成できるのではと母さんは考えた。ただ、非常に危険な旅もすることになるので高い素質の者が相応しい。ましてや、ルーシャは信頼できるトリシアの子供で天職『神凪』を有しているためうってつけなのだ。


「私は、自分が一生費やしても出来なかった無理難題を押し付けようとしているのよ」

「………」

「嫌なら断ってくれてもいいわよ。もちろん、ルーシャちゃんの指導はするからその辺は心配しなくていいわよ。ただウィルの職業のことは黙ってて頂戴ね」

「いいですよ」


 あっさりとトリシアさんは了承した。先程のような勢いで言うのではなく、しっかり考えた上での発言だ。自分の子の行く末を、命の恩人とはいえ他人に託す。その意味を理解した上でのトリシアさんは判断したのだ。


 幼児期の教育と洗脳はある意味似ている。朱に交われば赤くなる。それが吸収力が高いまっさらの状態の赤子なら、教育次第で判断の基盤そのものを意図的に操作できてしまう。つまり、倫理観、宗教観といったものの形成を、トリシアさんはシャルロット母さんに"どんなことがあっても後悔しないので任せます"と言い切ったのだ。


 地球ではどんな人でも宗教観が行動の基盤になっていた。気付かないうちに親の宗教観を子は覚え社会性を確立させていく。つまり、近くの者の常識とか生活習慣を子は見て学ぶ。反復による刷り込みである。日本では無宗教とか言う日本人もいたが、そういった者達の行動の判断基準にも神道と仏教の影が見ることができた。


 この世界でも当然宗教はある。そこでは"魔王が諸悪の根源である"とでかでかと書かれている。母さんの元で後継者として習うということは、そういった世間一般常識が違うと教えられながら育つことである。異端の烙印を押されかねない危険極まりない行為だ。


 そういったもろもろの事を考慮した上かと、母さんはトリシアさんに再度問うていた。トリシアさんはそれでもルーシャが後継者として指導してもらうのに賛成とのことだ。


「この子が『神凪』の天職を持って産まれてきたのも何かの縁です。神の導きなのかもしれません」

「"神の導き"か…」

「あ、ごめんなさい。シャル様はその言葉お嫌いでしたね」


 母さんは昔は神官もしていて今は『アークビショップ』を持っている母さんが、"神の導き"という言葉が嫌いなのか疑問に思った。後で聞いたところ、"その言葉のせいでいったい何人が犠牲になったのかわからない"と憎悪を込めた目で色々語ってくれた。免罪符のように今も使われていると、嫌悪感を隠しもせずに言い切ったときには少し背筋が寒くなったものだ。


 その後、レオボルドさんに同じような説明をした。


 レオボルドさんは、筋肉ムキムキのマッチョな方だった。職業に『鍛冶師』を持っているのである意味納得の風格ではあるが、母さんと出会った当時は『付与魔術士』だったらしい。トリシアさんを狙っていた暗殺者の集団の一員だったそうだが、母さんによってその集団は潰されたそうだ。母さんが暗殺者のアジト殲滅戦を行ったとき、奴隷のような扱いを受けて無理矢理協力させられていたレオボルドさんを発見し助けたらしい。もちろん、その組織の生き残りはレオボルドさん以外いないらしいので、こうして店を開いてゆっくり生活が出来ているとのことだ。


 実はレオボルドさんも天職『付与魔法使い』を持っていたそうだ。そう珍しい職業ではなく、態々かどわかしてまで確保しようとしないはずだが――幼い年齢の割りに高いパラメータを見た誰かが誘拐し、エージェントとして仕立て上げられたそうだ。

 ちなみに、トリシアさんは大商人の娘だったらしく、利権を巡る騒動に巻き込まれて殺されるところだったらしい。自分の監視や護衛が全て倒され、殺されそうになったところを母さんに助けられたそうだ。その時母さんに頼みこみ、ドサクサに紛れて一緒に旅に付いて行ったらしい。


 天職持ちは比較的幼い頃にステータスが高いだけで、大人になったとき平凡になる者も多い。しかし、子供の頃という扱いやすい時期に高ステータスという特徴は、一部の者には金の卵のようにみえる。そういった闇の部分を知っているレオボルドさんは、最低限の自衛手段は持つべきだと考えていた。今まで上の兄弟2人を公の場である神殿を使わず、鍛えることに協力してくれた母さんには好意的だった。"後継者"の話には最初驚いて突っぱねていたが、トリシアさんの説得もあってか渋々ながら同意してくれた。


 レオボルドさんへの説得中、俺はずっとルーシャにポコポコ殴られ続けていた。ずっと条件反射で手が出そうになっていたのを必死に抑えていた。母さんたちは"仲良くなって良かったわね"と微笑んでいたが、俺はこの間相当の精神的苦痛を強いられていた。無性に虚しくなったが、理由は考えないことにした。



 その後、具体的にどのようにするか協議した結果、自我が目覚めるまでは当面今まで通り一週間おきに見に来ることに決まった。目覚めた後は毎日訓練を行うことになりそうだが、そのことはその時になってから決めようということになった。ちなみに、今までは母さん1人だけだったが、今後は俺も連れてくるとのことだ。理由は修行のためではなく、母さん以外の人ともっと交わるべきだとの判断らしい。


 前世の俺は小さい頃にちゃんと信頼できる友達を作れなかった。ルーシャの兄達は俺と少し離れているが絶対に友達になるぞと、俺は秘かに決心していた。

ご清覧ありがとうございました。


ルーシャの両親のエピソード追加は悩みましたが、テンポが悪くなるので旧版と同じく軽い説明に留めておきました。

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